2008/01/06(日)「クワイエットルームにようこそ」

 上映開始25分前に家を出て、橘通り交差点までは順調に来たが、そこで6分間の渋滞。な、なんだこれは、と思ってふと気づいた。宮崎女子ロードレースの日だったのだ。うちの会社も主催に入っているので文句は言えない。キネマ館に着いたら、既に予告編が始まっていた。ぎりぎりセーフ。

 けっこう面白く見た。煎じ詰めれば、女性の再生の話に収斂していき、そこに社会派の視点が皆無なので少し不満も覚えるのだけれど、細かいギャグに笑った。何より内田有紀がよろしかったですね。若い頃よりずっと魅力的。もっと映画に出てほしいものだ。

 主人公はある日、目覚めたら精神病院の閉鎖病棟で五点拘束されていて、自殺未遂と勘違いされているのが分かる。睡眠薬とビールを一緒に飲んだために気を失っていたのを同居人の男に発見されたのだ。何とか早く退院したかったが、拒食症や過食嘔吐の患者と交流していくうちに、次第に自分の真実の姿に目覚めることになる。入院患者を演じる大竹しのぶや蒼井優、りょうなどがいずれも好演している。特に大竹しのぶはつくづくうまいなと思う。

 精神病院の描写というのはフィリップ・ド・ブロカ「まぼろしの市街戦」(1966年)の昔からメルヘンチックに描かれ、外の世界の異常さを浮かび上がらせる存在として描かれてきた。この映画の描写も全然実際とは異なるだろう。だいたいあんなに話の通じる患者ばかりいるわけがない。

 社会派の視点が皆無というのは主人公が病んだ理由に社会を照射するものがないからで、自分勝手な理由だけでは物足りないのだ。そこを入れておけば、文句のない傑作になっていただろう。その意味では惜しい映画だと思う。

2008/01/06(日)「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」

 劇場公開時にはためらうことなくスルーしたが、キネ旬の批評が悪くなかったので気になっていた。沖縄美ら海水族館の尾びれをなくしたイルカに世界で初めて人工尾びれを作った実際の話を基にしている。良心的な作品ではあるが、あえて褒める点も見つからない。監督は「棒たおし!」「陽気なギャングが地球を回す」の前田哲、主演は松山ケンイチ。

 イルカのフジは海洋博後に沖縄に来て既に30年。ある日、尾びれが壊死しているのが見つかる。放っておけば、命が危ない。新米獣医の植村一也(松山ケンイチ)は尾びれを切除するが、フジは泳げなくなってしまった。このままでは別の病気にかかる恐れがある。植村はブリヂストンに人工尾びれを作ることを依頼する。尾びれの改良を重ね、フジは元気に泳げるようになる。しかし、ジャンプした瞬間、尾びれは壊れてしまう。人工尾びれはフジを傷つけるとして飼育員の一人が反対し、計画は頓挫してしまう。

 人工尾びれを作る過程はテレビのドキュメンタリーになりそうな感じ。映画はこの過程の描写が少し不足しているように思える。その代わりにイルカの好きな少女や松山ケンイチの恋人との関係などのサイドストーリーを盛り込んでいるものの、これがあまりうまくないので散漫な印象を与えることになっている。

 松山ケンイチは無難に演技をこなしており、キャリアの傷にはならないだろう。ほかに永作博美、山崎努、利重剛、高畑充希、西山茉希、田中哲司、坂井真紀ら。

 人工尾びれプロジェクトに関しては美ら海水族館のホームページに詳しい(http://www.kaiyouhaku.com/news/04111601_01_report.html)。ブリヂストンに尾びれの製作を頼んだ理由は映画では「尾びれの感触がタイヤに似ているから」と説明されるが、このページには「当公園の獣医師がブリヂストンスポーツ株式会社にいる友人に人工尾びれ作製の可能性を相談したことから始まりました」とある。

 美ら海水族館には2004年に夏の家族旅行で行った。大きな水槽は見応えがあったが、イルカのショーに関して僕は「暑い。人が多くてあまり見えない。ショー自体も大したことはないですね」と書いている。フジはこの時にも当然いたのだろうが、この話については何も知らなかった。ちょうど人工尾びれが完成したばかりの時だったようだ。

2008/01/05(土)「ツォツィ」

 2時間ぐらいあるのかと思ったら、1時間半で終わる。2006年アカデミー外国語映画賞受賞。南アフリカの不良少年が盗んだ車に赤ん坊がいたことから、決定的な変化を迎えることになる。きっちりとまとまった佳作。ただし、2007年の外国語映画賞「善き人のためのソナタ」には遠く及ばない。

2008/01/05(土)「長江哀歌」

 2006年ベネチア映画祭の金獅子賞受賞作。三峡ダムの建設計画によって沈みゆく古都奉節を舞台に16年前に別れた妻子を捜す男と2年間音沙汰がない夫を捜す女の物語が描かれる。監督のジャ・ジャンクーはチェン・カイコー「黄色い大地」を見て映画を志したという。その影響は随所に見られ、ドラマティックさを排除したような淡々とした物語となっている。奇妙な形の建物がロケットのように飛び立ったり、壊れかけたビルにいる男女の遠景にビルが壊れるショットを入れるところなどは監督の映像的な遊び心か。

 現代中国の風俗は興味深く、携帯があんなに普及しているとは思わなかった。壊れゆくビルと人々の豊かとは言えない生活の光景が微妙な感情を引き起こす。三峡の美しい風景をとらえた点もこの映画の評価すべきところなのだろうが、風景を生かすならばもっときれいなフィルムにしてほしいところだ。

2008/01/05(土)「クローズZERO」

 「クローズ」はcloseかと思ったらcraws。それなら「クロウズ」じゃないかと思うが、高橋ヒロシの原作もこうなのだから仕方がない。「けんかえれじい」にヤクザ映画を絡めて「ストリート・オブ・ファイヤー」風味を振りかけた(かった)ような仕上がり。端的に言えば、集団抗争学園ドラマでけんかに次ぐけんかの映画である。それなりに面白いが、あまり感心するところもなく見終わる。ストーリーをもう少し凝ってほしかったところ。

 「カラスの学校」と言われる不良がいっぱいの鈴蘭高校が舞台。転校してきた滝谷源治(小栗旬)の目的は鈴蘭の頂上(てっぺん)を取ること。現在、頂上に最も近いと思われているのが芹沢多摩雄(山田孝之)率いる芹沢軍団で、源治は仲間を増やしてGPSという集団を形成する。源治の父親(岸谷五朗)は劉生会という暴力団の組長で、源治は鈴蘭の頂上を取ったら、親父の跡目をつぐことになっている。源治は鈴蘭OBのヤクザ片桐拳(やべきょうすけ)の力を借りながら、着々と勢力を伸ばす。しかし、片桐が所属する矢崎組は劉生会と対立していた。

 小栗旬も山田孝之も優男なので強く見えないのが難だが、それなりに健闘している。問題はどちらも善玉に見えることか。映画を支えているのはコメディリリーフ的な役割も果たすやべきょうすけで、このキャラクターがあるから映画の幅が広がった。黒木メイサは歌も歌うし、ルックス的にも悪くないが、ダイアン・レインのような魅力には欠ける。矢崎組組長役の遠藤憲一、刑事の塩見三省が渋い。このメンバーで続編を期待したいところ。