2012/04/11(水)「博奕打ち 総長賭博」
公開当時は映画評論家から黙殺されたが、1年後に三島由紀夫が絶賛して評価が高まった。というのはよく知られた話。山下耕作監督の代表作であり、任侠映画を代表する作品でもある。笠原和夫の脚本の力も大きい。
有名なのは和田誠「お楽しみはこれからだ」でも取り上げられた以下のセリフだ。主人公の中井信次郎(鶴田浩二)が、叔父貴分の仙波多三郎(金子信雄)を殺そうとする場面。仙波が天竜一家の解散を画策したために跡目争いが起こり、多くの人間が死ぬことになったのだ。
「仙波、こいつからなにもかも聞いたぜ。てめえのためにみんな死んだ。今度はてめえの番だっ」 「中井、てめえ、叔父貴分の俺に向かってドスを向けるのかよ。てめえの任侠道ってのはそんなもんなのかっ」 「任侠道? そんなものは俺にはねえ。おらあ、ただのケチな人殺しだ。そう思ってもらおう」
任侠映画のパターンを壊すこのセリフが後の「仁義なき戦い」に発展していったのだろう。金子信雄の役柄も「仁義なき戦い」の“山守のおやっさん”を彷彿させる。
「博奕打ち」シリーズは鶴田浩二主演という点は共通しているが、主人公の名前はすべて異なる。こういうシリーズも珍しい。WOWOWが「鶴田浩二特集」の枠で取り上げたシリーズは以下の通り。かっこの後にあるのは主人公の名前。
第1作「博奕打ち」(1967年 監督:小沢茂弘 脚本:小沢茂弘、村尾昭、高田宏治)海津銀次郎 第2作「博奕打ち 一匹竜」(1967年 監督:小沢茂弘 脚本:小沢茂弘、高田宏治)相生宇之吉 第3作「博奕打ち 不死身の勝負」(1967年 監督:小沢茂弘 脚本:小沢茂弘、高田宏治)朝倉常太郎 第4作「博奕打ち 総長賭博」(1968年 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫)中井信次郎 第5作「博奕打ち 殴り込み」(1968年 監督:小沢茂弘 脚本:笠原和夫)小嵐幸次郎 第6作「いかさま博奕」(1968年 監督:小沢茂弘 脚本:村尾昭、高田宏治)明石常次郎 第7作「必殺博奕打ち」(1969年 監督:佐伯清 脚本:棚田吾郎)保科金次郎 第8作「博奕打ち 流れ者」(1970年 監督:山下耕作 脚本:鳥居元宏、志村正浩)舟木栄次郎 第9作「札つき博徒」(1970年 監督:小沢茂弘 脚本:笠原和夫、志村正浩)柏木竜次/大島良平 第10作「博奕打ち いのち札」(1971年 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫)相川清次郎 第11作「博奕打ち外伝」(1972年 監督:山下耕作 脚本:野上龍雄)江川周吉
キネ旬の「日本映画作品全集」やWikipediaにはシリーズは10作と書いてあるが、これは間違いのようだ。「博奕打ち」がタイトルに含まれない「札つき博徒」をシリーズに入れるかどうかの違いで、キネマ旬報映画データベースや東映チャンネルでは「札つき博徒」が9作目と明記してある。
2012/03/31(土)「アジャストメント」
あまり評判がよくなかったが、僕は面白く見た。IMDBの評価は7.1。まあ、そこそこ面白いということか。昨年買っておいた原作を見た後に読んだ。これはフィリップ・K・ディックらしい話で、現実の裏側にあるものを見てしまった主人公の話。現実を望まれる方向に調整するというプロットは同じだが、調整の仕方はまったく異なり、現実をいったん壊した後に再構成する。主人公はその調整現場にちょっとした手違いで遭遇し、会社のビルや同僚が灰のように崩れる場面を見てしまう。再構成されたものは以前とどこか違う、というのがディックらしい。
映画の方は調整チームが主人公(マット・デイモン)の恋を妨害する。主人公は大統領になり、世界平和を実現する運命だが、恋が成就してしまうと、それがかなわなくなる。男子トイレで出会った恋人役にエミリー・ブラント。映画はラブストーリーで、調整チームの妨害はラブストーリーには付きものの愛する2人の間に起きる障害の役割に当たる。男子トイレの場面のブラントがハッとするするほどきれい。これなら主人公が一目惚れするのも無理はない。
2012/03/11(日)「老人と海」
もちろん、アニメは絵なのだが、こういう印象派の絵画が動くアニメは珍しい。1999年のアカデミー短編アニメ賞を受賞した「老人と海」はガラスの上に指を使って描いた絵を動かして作ったという。名のみ聞いていて初めてWOWOWで見た。絵がきれいなので詩情があふれる。音楽と三國連太郎のセリフ回しも良かった。ロシアのアレクサンドル・ペトロフと和田敏克の共同監督作。
2012/03/08(木)「エンジェル・ウォーズ」
ザック・スナイダー監督のファンタジー・アクション。終盤の展開は「エグゼクティブ・デシジョン」みたいだが、全体のストーリーラインがダメ。アクションシーンもCGであることが見え見えで迫力に欠ける。5人の女優の中ではジェナ・マローンがダントツに良い。その次にアビー・コーニッシュ。この2人の名前は記憶しておこう。主演のエミリー・ブラウニングはちょっとキャメロン・ディアスに似たタイプ。ディアスよりずいぶん小柄だけど。
2012/03/06(火)「悲しみの青春」
ヴィットリオ・デ・シーカ監督が「ひまわり」の次に撮った作品で1972年の第44回アカデミー外国語映画賞を受賞した。原作はジョルジョ・バッサーニの小説「フィンツィ・コンティーニ家の庭」。前半はどうということはない出来だなと思ったが、終盤に素晴らしいシーンがある。例えば、ドミニク・サンダに失恋した主人公ジョルジュ(リノ・カポリッキオ)の父親がジョルジュを慰めるシーン。「この世の真理を知るには一度死ぬ必要がある。それなら回復できる若いうちに死んだ方がいい」。
「ひまわり」より優れた映画とは思えない。外国語映画賞受賞はユダヤ人迫害を描いているからではないか、なんて思ってしまう。ドミニク・サンダとヘルムート・バーガーがとても若い(当たり前)。WOWOWにしては画質が悪かった。雑音も混じっていた。ブルーレイは出ていないのだろう。