2013/03/22(金)「クルマは家電量販店で買え!」
吉本佳生「スタバではグランデを買え!」(amazon)の続編。5年前に出た本で最近、ちくま文庫に入った。サブタイトルは「価格と生活の経済学」。吉本佳生は金融学が専門で、デリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ仕組み債などが個人に売られている現状を強く批判している人だが、このシリーズは庶民の生活に身近な商品の価格が決まる仕組みを解説している。
個人的に身にしみるのはこちらの家計に直結する大学の授業料に関する第5章。世帯収入が増えない中でも、授業料は大幅に上がっており、私立大は国立大の2倍も高い。高いだけならいいが(いや、良くないが)、私立大の場合、早稲田や慶応など一部のブランド大学を除けば、就職に有利にならないらしい。就職の際に考慮されるのは大学名だけで、それでは高校までの成績しか見ないということになる。これは昔からそうだが、今は正社員と非正規社員の分かれ道になる可能性があるから問題は大きい。
私立大の場合、卒業後に国立大生と同じ会社に就職しても、2倍のコストをかけていることになる。私立大が授業料を下げないのは国立大との差が離れすぎているからで、こういう場合、少しぐらい授業料を下げても優秀な学生を集める効果はなく、収入を減らすだけで終わる。吉本佳生はこの現状を改めるために、国立大の授業料を私立大並みに引き上げることを提案している。授業料も就職率も同じぐらいのレベルなら、そこには価格競争の原理が働き、私立大が授業料を下げる可能性があるからだ。価格競争を持ち込むという考えには意外性があるが、競争はすぐには起きないだろう。経済的に大学に行けない学生が増えるデメリットがあるし、私立大が下げても財政難の政府がいったん引き上げた国立大の授業料を下げるかどうか疑問がある。つまり価格競争を持ち込めても、私立大と国立大の授業料の高低が逆転するだけで、現状より悪くなる恐れがあるのではないかと思う。
正社員と非正規社員の生涯年収の差は1億6000万円ほどになるとの試算がある。いったん非正規になると、なかなかそこから抜け出せない。大学の授業料も含めて、こうした問題を解決するには景気を良くして世帯収入を引き上げるしかないだろう。アベノミクスは今のところ、円安株高の効果が中心だが、一部企業が実施を表明したベースアップが他の企業に波及していかないことには根本的な問題の解決は難しいようだ。
考えてみると、就職先の選択というのは株の個別銘柄の選択に似ている。株の場合は自分のお金を投資し、就職の場合は自分の人的資本を投資してリターンを得る。その割には大学生が選ぶ人気企業ランキングなどを見ると、東証一部上場の企業ばかりが並んでいる。一部上場企業の場合、安定はしていても今後の成長に関してはあまり伸びしろのない場合が多いだろう。家電メーカーのようにリストラに遭う可能性もある。株と同じで就職も東証二部やマザーズ、あるいは上場していない企業の選択もあるなと思う。ただ、こちらが選択してもあちらから選択されないことには始まらないので、とりあえず、選択権を持つためにはそれなりの大学に入っておいた方が良さそうだ。
ヘッジファンドの標的
日経電子版の「ヘッジファンドがほくそ笑む『黒田日銀=円安』」という記事が興味深かった。2月26日、イタリア総選挙に絡むドル円相場の乱高下で日本の個人FXトレーダーの多くが損失を被った。その裏にヘッジファンドの仕掛けがあったという記事だ。
「一瞬でマイナス100万円」「今年の儲けが全部吹っ飛んだ」「まじでこれはやばいことになった」――。インターネットの掲示板には早朝から、FX投資家の絶叫が連なった。
ところが、円高は長くは続かなかった。
Yahoo!ファイナンスの外国為替掲示板を見ると、確かにそれに類する書き込みがある。この時のドル円相場の乱高下は「市場の注文の偏りを狙って多額の反対売買を仕掛け、相場が大きく動いたタイミングで即座に利益を確定させる。これはヘッジファンドが20年来使ってきた古典的な手法」だそうだ。掲示板の参加者が書いているのはイタリア総選挙がどうしたこうしたということだけで、ヘッジファンドの為替操作などまるで想像の外にある。
誰かが勝てば誰かが負けるというゼロサムゲームなので僕は一切やらないが、FXは怖い世界だなと思う。大きなイベントがある時は単純な相場の上げ下げの見通しだけでなく、ヘッジファンドの動きまで考慮する必要があるようだ。ミセス・ワタナベ(日本の個人トレーダーの俗称)はヘッジファンドの標的になっているそうだ。