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2021年04月26日の記事

2021/04/26(月)アカデミー賞授賞式の“最後の一撃”

 驚いた。こんなことがあるのか。こんなに見事に決まった「最後の一撃」はめったにあることではない。第93回アカデミー賞授賞式は最後に発表された主演男優賞で大きな番狂わせが起きた。事前の予想では昨年8月に43歳の若さで亡くなったチャドウィック・ボーズマン(「マ・レイニーのブラックボトム」)の受賞が有力とされていたが、実際に受賞したのはアンソニー・ホプキンス(「ファーザー」)だった。

 インターネット・ムービー・データベース(IMDb)は主要6部門のファン投票による予測を事前に発表したが、主演男優賞はボーズマンが47%の票を集めてトップ。受賞したアンソニー・ホプキンス(「ファーザー」)は25%だった。他の5部門はいずれも予想通りの受賞結果になっている。ゴールデングローブ賞や全米映画俳優組合賞、放送映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞などアカデミー賞の前哨戦と言われる各賞でボーズマンは受賞していて、ボーズマン最有力の見方は動かなかった。

 授賞式で主演男優賞の発表は例年、後ろから数えて3番目に行われる。作品賞、監督賞の前だ。今年は作品賞が主演男女優賞の前に変更された。それだけではない。監督賞は序盤に発表された。おまけにこの1年間の映画関係の物故者をしのぶ「イン・メモリアム」では名優ショーン・コネリーを抑えてボーズマンが最後に紹介された。どう考えても今回の授賞式のメーンイベントは主演男優賞をボーズマンが受賞することだったのである。

 授賞式のプロデュースに加わったスティーブン・ソダーバーグ監督は「今回の授賞式を映画のように演出したい」と事前に話していた。授賞式の発表順変更は「映画のように演出した」結果だ。ボーズマン受賞の想定をメインに持ってこなければ、こんな衝撃はなかっただろう。新型コロナの影響でノミネート作品は地味なものが多かったし、授賞式自体も歌曲賞の披露がないなど、地味な印象だった。しかし、この「最後の一撃」によって今年のアカデミー賞は歴史と記憶に深く刻まれることになるだろう。

 受賞結果は以下の通り。発表順に並べた。
【脚本賞】
 エメラルド・フェネル「プロミシング・ヤング・ウーマン」
【脚色賞】
 クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール「ファーザー」
【国際長編映画賞】
 「アナザーラウンド」(デンマーク)
【助演男優賞】
 ダニエル・カルーヤ「ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)」
【メイクアップ&ヘアスタイリング賞】
 「マ・レイニーのブラックボトム」
【衣装デザイン賞】
 アン・ロス「マ・レイニーのブラックボトム」
【監督賞】
 クロエ・ジャオ「ノマドランド」
【音響賞】
 「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」
【短編実写映画賞】
 「隔たる世界の2人」
【短編アニメーション賞】
 「愛してるって言っておくね」
【長編アニメ映画賞】
 「ソウルフル・ワールド」
【短編ドキュメンタリー賞】
 「コレット(原題)」
【長編ドキュメンタリー賞】
 「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」
【視覚効果賞】
 「TENET テネット」
【助演女優賞】
 ユン・ヨジョン「ミナリ」
【美術賞】
 ドナルド・グレアム・バート、ジャン・パスカル「Mank マンク」
【撮影賞】
 エリク・メッサーシュミット「Mank マンク」
【編集賞】
 ミッケル・E・G・ニールセン「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」
【作曲賞】
 ジョン・バティステ、トレント・レズナー、アッティカス・ロス「ソウルフル・ワールド」
【歌曲賞】
 “Fight For You” 「ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)」
【作品賞】
 「ノマドランド」
【主演女優賞】
 フランシス・マクドーマンド「ノマドランド」
【主演男優賞】
 アンソニー・ホプキンス「ファーザー」