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2022年07月31日の記事

2022/07/31(日)「今夜、世界からこの恋が消えても」ほか(7月第5週のレビュー)

「今夜、世界からこの恋が消えても」は一条岬の原作小説を三木孝浩監督が映画化した秀作。交通事故の後遺症で眠ると記憶を失ってしまう前向性健忘にかかった日野真織(福本莉子)と、嘘の告白で真織と付き合うことになった神谷透(道枝駿佑)を巡る物語です。

主演2人の無垢さ・純粋さに加えて、真織の親友・綿矢泉を演じる古川琴音の卓越した演技、そして何よりも原作を再構成した月川翔(「君の膵臓をたべたい」監督)と松本花奈(「明け方の若者たち」監督)の優れた脚色、三木孝浩の安定した演出によって、こうした青春ラブロマンス映画の枠を超える作品になっています。

僕が見た時には、なにわ男子・道枝駿佑の人気のためか場内の9割ぐらいが女子高生(土日は女性やカップルが多いだろうと思って金曜日に見たんですが、うかつにも学校が既に夏休みに入ったのを忘れてました!)、残りもすべて女性でした。おっさん一人の場違い感ありありの中での観賞でしたが、古川琴音の視点でことの真相が明らかになるクライマックスには場内のあちこちでグスングスンのすすり泣きが起こり、若い観客の反応がビビッドに感じられて良かったです。

脚本は主に月川翔が書いたようです。見ていて、「あれっ」とか「おやっ」と思える場面があり、物語の流れの中で忘れていると、終盤にすべては伏線だったと分かる作りになっています。パンフレットによると、元々、月川翔が自分で監督する予定でしたが、スケジュールの都合で三木孝浩が担当することに。高次安定の青春映画を撮り続けている三木監督は期待を裏切らない手腕を発揮しています。

同じような記憶障害を持つ女性を描いたラブストーリーには「50回目のファースト・キス」(2004年、ピーター・シーガル監督。日本版リメイクは2018年、福田雄一監督)があり、序盤は「どうせ同じようなものだろう」と高をくくっていましたが、展開・構成の工夫で先行作品を軽く超えていました。

三木監督の「思い、思われ、ふり、ふられ」(2020年)の出演時、福本莉子は同じ東宝シンデレラガールで共演の「浜辺美波より良い」と評価する声がありました(僕は「確かに良い素材だけど、浜辺美波の方が断然良い」と思いました)。今回は自分の病気を知らされることで毎日が絶望から始まる真織の哀しみと、透との恋の喜びを福本莉子はしっかりと演じています。

監督が「影の主役的部分を担って」いるという役柄の古川琴音は毎回うまいんですが、今回も感心させられ、個人的には今のところ助演女優賞候補の筆頭です。

軽く見られがちなジャンル映画をスタッフ・キャストが技術と演技の限りを尽くして作っていて、先入観から見逃すには惜しい作品だと思いました。三木監督の作品は8月に「TANG タング」「アキラとあきら」の2本が公開予定です。短期間に公開作品が集中したことはコロナ禍の影響もあったとはいえ、監督依頼が途切れないほど実力を認められた証左でもあるのでしょう。

「ニューオーダー」

メキシコのミシェル・フランコ監督によるスリラーでヴェネツィア国際映画祭審査員大賞受賞作。貧富の格差拡大で抗議デモが暴徒化し、金持ちの家に押し入って略奪と殺戮を繰り返す。それを鎮圧するため軍隊が出動し、戒厳令が敷かれるが、軍の一部は混乱に乗じて金持ちを誘拐、身代金を要求する、という展開。

「モガディシュ 脱出までの14日間」でも暴動から政権奪取への動きが描かれ、銃を持った人間たちの横暴・凶暴な描写に恐怖しましたが、この映画でも日常が簡単にひっくり返る恐怖が描かれています。日常が崩れた途端、人の命は限りなく軽くなります。結局は金の力よりも武器の力の方が上回っていて、日本が銃刀法違反を厳しく取り締まっているのはこうした事態を生まないためもあるのではと思えました。

映画は暴動の詳細が描かれないなどの不満はありますが、監督の狙いは状況描写の方にあったのでしょう。IMDb6.5、メタスコア62点、ロッテントマト68%。

「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」

1993年の「ジュラシック・パーク」に始まるシリーズ6作目にして完結編で、監督は「彼女はパートタイムトラベラー」(2012年)、「ジュラシック・ワールド」(2015年)のコリン・トレヴォロウ。

シリーズ1作目のサム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラムが出てきたことは懐かしくて良かったです。前半のスパイアクション的展開の中で繰り広げられるマルタ島市街地でのヴェロキラプトルとのチェイスシーンもスピード感と迫力を堪能しましたが、後半、巨大企業バイオシン社の施設内で襲い来る肉食恐竜からのサバイバルになると、過去に何度も見たような描写が多く新鮮味に欠けています。

もはや29年も前のスティーブン・スピルバーグ監督による1作目が革新的に面白かったのはCG技術の飛躍的な発展を映画制作の過程で果たし得たことが大きかったです。そういう革新性がないと、1作目を超える作品は無理でしょう。

アメリカではIMDb5.7、メタスコア38点、ロッテントマト30%(ユーザー77%)とさんざんな評価ですが、僕はそこまでひどいとは思いませんでした。