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2022年07月24日の記事

2022/07/24(日)「わたしは最悪。」ほか(7月第4週のレビュー)

「わたしは最悪。」はアカデミー国際長編映画賞と脚本賞にノミネートされたヨアキム・トリアー監督作品。「リプライズ」(2006年)「オスロ、8月31日」(2011年)に続くオスロ・トリロジー3作目だそうです。

その「オスロ、8月31日」に1行だけのセリフで出演したレナーテ・レインスヴェを主演に想定してトリアー監督とエスキル・フォクトが共同で脚本を書いたのがこの物語。

ユリヤ(レインスヴェ)は医大で外科医を目指したものの、「自分が好きなものは人の体ではなく魂だ」と気づき、心理学に変更。しかし、詰め込み教育に戸惑って諦め、写真家を目指して書店でアルバイトを始める。パーティーで15歳年上の漫画家アクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)に出会ったユリヤは恋に落ち、同棲を始めるが、アクセルの家族・親族に会い、うんざり。やがて、子供を欲しがるアクセルにも興ざめし始めたところで、同年代のアイヴィン(ハーバート・ノードラム)に出会う。

興味と関心の対象が次々に変わっていく女性を描いていますが、全体としてはロマンティックコメディにまとめられる題材です。ただ、普通のロマコメのように男女の思いが通じ合ってのハッピーエンドにはなりません。パンフレットにレビューを寄せている大九明子監督の「勝手にふるえてろ」「私をくいとめて」に通じる作品だと思いました。

トリアー監督はアイヴィンへの思いに気づいたユリヤがアイヴィンの元へ走る場面で、オスロの街の動きが止まった不思議な空間を作り上げています。VFXを使わずに、映っている人や車の動きを実際に止めて撮影したそうで、幻想的な映像のアクセントになっています。

何よりもレナーテ・レインスヴェの魅力に尽きる映画で、監督があて書きしただけのことはある女優だと思いました。34歳ですが、ハリウッドでも十分通用する容姿と演技力、と思ったら、既にセバスチャン・スタン(アベンジャーズのウインター・ソルジャー役)主演のスリラー「A Different Man」を撮影中だそうです。

IMDb7.8、メタスコア90点、ロッテントマト96%。

「冬薔薇(ふゆそうび)」

阪本順治監督がキノフィルムズの依頼を受けて、伊藤健太郎主演で脚本をあて書きした作品。

主人公の渡口淳は不良仲間とつるみ、他人から金を借りてだらだらと暮らしている。父親(小林薫)はガット船の船長で、淳とは何年もまともに話していない。事務所を切り盛りするのは母親(余貴美子)。横須賀の不良グループ同士の乱闘で淳は足に大けがをする。淳が退院する頃、叔父(眞木蔵人)が息子・貴史(坂東龍汰)とともに現れる。中学教師をしていた貴史は生徒に手を上げて退職し、塾講師となっていた。ある夜、不良グループリーダーの美崎(永山絢斗)の妹(河合優実)が何者かに襲われる。

コロナ禍の苦境を入れながら、映画はこうした物語を語っていきますが、将来の展望がない主人公よりもその親の世代の描写が切実な作品になっています。阪本映画の常連である余貴美子、石橋蓮司のほか、小林薫が絶妙のうまさ。阪本監督の年齢が親世代に近いためもあるのでしょうが、伊藤健太郎の出番を少なくしてでも親世代の物語にしてしまった方が良かったのではないかと思えました。

阪本監督はラストショットについて、長谷川和彦監督の言葉である「ラストは主役で終われ」に従ったそうです。親世代の描写に心惹かれた者からすれば、やや残念なラストではあります。

「薔薇」を音読みで「そうび・しょうび」と読むことは知りませんでした。「バラ」という読みの方が当て字なんだとか。「冬薔薇」は文字通り、冬に咲くバラのことで映画の中では小林薫と余貴美子が事務所の前で育てています。冬に咲くバラは厳しい環境の中での一片の希望のメタファーなのでしょう。

「キャメラを止めるな!」

上田慎一郎監督作のフランス版リメイクで、監督はアカデミー作品賞、監督賞など5部門を制した「アーティスト」(2011年)のミシェル・アザナヴィシウス。「アーティスト」に出ていた妻のベレニス・ベジョが「カメラを止めるな!」のしゅはまはるみに相当する役(監督の妻役)を演じています。

製作費300万円だった「カメ止め」に対してこちらは400万ユーロ(約5億7000万円)。にもかかわらず、面白さでは大きく負けています。ネタを知っているということも、その理由ではありますが、笑いが決定的に足りません。例えば、爆笑させられたしゅはまはるみの「ポンッ!」に対して、ベレニス・ベジョは単なる武術の達人で暴走しても笑えません。ほかのギャグも不発なものが多いです。

「カメ止め」で強烈な印象を残したどんぐり(竹原芳子)は同じプロデューサー役で出演していますが、二度目なのでインパクトは薄れました。

アザナヴィシウス監督はインタビューで「これはお金でというより熱意で作った、いわゆるDIY映画へのトリビュートだ。何よりも映画を作っている人々、俳優や監督だけでなく技術スタッフから見習いまで、全員に捧げられた賛辞なんだよ。たとえリメイクであっても、僕にとっては個人的な思い入れのある大切な映画になった」(キネマ旬報7月下旬号)と話しています。それは分かるんですが、もう少し笑いの方に注力してほしかったところです。

IMDb7.1、メタスコア51点、ロッテントマト63%。「カメ止め」はIMDb7.6、メタスコア86点、ロッテントマト100%。