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2023年04月09日の記事

2023/04/09(日)「AIR エア」ほか(4月第2週のレビュー)

 「AIR エア」はナイキのバスケットシューズ、“エア ジョーダン”の開発を巡るドラマ。といっても、靴の製造過程ではなく、マイケル・ジョーダンとどう契約にこぎ着けるかが焦点となります。ベン・アフレック監督、マット・デイモン主演コンビの作品。

 1984年当時のバスケシューズのシェアはコンバース54%、アディダス29%に対してナイキは14%と低迷していた。ソニー・ヴァッカロ(デイモン)はCEOのフィル(アフレック)からバスケットボール部門の立て直しを命じられる。ソニーが目をつけたのは、まだNBAデビュー前のマイケル・ジョーダン。しかしジョーダンはアディダスとの契約に傾いていた。状況を打開するため、ソニーはある秘策を持ちかける。

 日本だったら、池井戸潤が書きそうな題材で、池井戸作品のように開発そのものを描いた内容ではないものの、困難を乗り越え、最終的に勝利につながっていく過程には同様の感動があります。それをユーモアを交えて描くアフレック演出は手慣れたもの。ジョーダンの母親役でヴィオラ・デイビスが貫録の演技を見せています。

 「ビバリーヒルズ・コップ」のテーマ「アクセル・F」(ハロルド・フォルターメイヤー)や「ストリート・オブ・ファイヤー」の「あなたを夢みて」(ダン・ハートマン)、シンディ・ローパー「タイム・アフター・タイム」、そしてブルース・スプリングスティーン「ボーン・イン・ザ・USA」など、かつてよく聴いていた80年代のヒット曲が多数流れ、サントラが欲しくなりました。1時間52分。
IMDb7.8、メタスコア77点、ロッテントマト95%。
▼観客7人(公開初日の午前)

「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」

 有名なRPGを映画化した冒険ファンタジー。ゲームを基にした作品と聞いてイメージする以上の出来になっています。

 さまざまな種族やモンスターが生息する世界“フォーゴトン・レルム”が舞台。盗賊のエドガン(クリス・パイン)と相棒の戦士ホルガ(ミシェル・ロドリゲス)は、闇の組織に仕える者たちに殺されたエドガンの妻を蘇らせ、さらわれた娘を助けるために冒険に旅立つ、という物語。

 大味なところはあるものの、いつものようにパインがユーモアを滲ませて好演し、屈強なロドリゲスがサポート。名家出身の魔法使いサイモン(ジャスティス・スミス)と自然の化身ドリック(ソフィア・リリス)の若手俳優たちも悪くありません。VFXも申し分ない出来でした。監督のジョン・フランシス・デイリーとジョナサン・ゴールドスタインは「スパイダーマン ホームカミング」の脚本家コンビで、共同監督は3作目。

 Wikipediaに「同名映画シリーズをリブート」とあったので過去の作品を調べてみたら、2000年に映画化され、その後はテレビムービーで2本作られていました。1作目(コートニー・ソロモン監督)はIMDb3.6、メタスコア14点、ロッテントマト10%と物凄く低い評価。まったく無視してかまわない作品のようです。2時間14分。
IMDb7.6、メタスコア72点、ロッテントマト91%。
▼観客12人(公開5日目の午前)

「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」

 殺し屋女子コンビの活躍を描いた「ベイビーわるきゅーれ」(2021年、阪元裕吾監督)の続編。前作より緩い笑いのパートが増え、アクション場面は前作より落ちると思いましたが、前作と同じことをやるのを避けたという指摘もあり、好みの問題でもあるのでしょう。

 殺し屋協会アルバイトのゆうり(丞威=岩永ジョーイ)とまこと(濱田龍臣)兄弟が正規の殺し屋になるため、ちさと(髙石あかり)とまひろ(伊澤彩織)を殺して後釜になろうとする話。この本筋に、同居しているちさととまひろのダラダラした日常、銀行強盗に出くわすエピソードなどを盛り込んでいます。

 バイト対正社員の戦いなわけですが、殺し屋兄弟がちさととまひろに一瞬で倒される場面があるなど、あまり強くないので今一つ盛り上がりません。前作は本宮泰風の貫録のあるヤクザの親分がコミカルな味を出して演技面をリードしていましたし、クライマックスに対決する三元雅芸は明らかに素手の格闘では伊澤彩織より上回っていました。だから、伊澤彩織は最後、隙を突いて拳銃を拾い、決着をつけたわけです。敵は強力な方が面白くなります。

 アクション監督は前作に続いて園村健介。今年1月に公開された園村監督作品「BAD CITY」(小沢仁志主演)は警察とヤクザと政財界を絡めたストーリー展開が激しいアクションにマッチして面白く仕上がっていました。「ベイビーわるきゅーれ」も3作目はああいう路線で行ってくれると嬉しいです。

 髙石あかりは口跡が悪いのかと思えるほどセリフが聞き取りにくいですが、「わたしの幸せな結婚」では普通に聞き取れましたし、地上波初主演となった毎日放送の深夜ドラマ「墜落JKと廃人教師」でも普通です。映画のセリフ回しは阪元監督の好みなのでしょう。

 「少女は卒業しない」の中井友望が死体処理業者の役で出演。演技は主演の2人よりしっかりしていると思いました。1時間41分。
▼観客7人(公開初日の午後)

「逆転のトライアングル」

 昨年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したリューベン・オストルンド監督作品。オストルンドのパルムドール受賞は「ザ・スクエア 思いやりの聖域」に続いて2作連続で、史上3人目だそうです。

 インフルエンサーのヤヤ(チャールビ・ディーン)と男性モデルのカール(ハリス・ディキンソン)は豪華客船の旅に招待される。乗客はロシアの大富豪、英国の武器商人、アル中の船長(ウディ・ハレルソン)、高額チップ目当ての客室乗務員など。ある夜、嵐に巻き込まれ、海賊の襲撃も受けて船が沈没。乗客ら8人が無人島に流れ着く。

 ヤヤとカールが客船に乗るまでに30分、客船内のゴタゴタが1時間あり、逆転するのは終盤の1時間ぐらいという配分。逆転まで長いなと思ってしまいますが、原題は「Triangle of Sadness」(悲しみの三角形)で、眉と眉の間のしわを指しているそうです。劇中にそれに絡んだセリフが出てきます。

 そのタイトルが表すように「ザ・スクエア」同様、意地が悪く、シニカルでブラックな笑いに満ちています。パルムドールを取るほどではないなと思いますが、映画祭の場合は審査員の好みも強く反映されるのでこういうこともあるのでしょう(審査委員長はフランスの俳優ヴァンサン・ランドン)。2時間27分。
IMDb7.4、メタスコア63点、ロッテントマト71%。
▼観客5人(公開11日目の午後)