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2023年04月16日の記事

2023/04/16(日)「仕掛人・藤枝梅安2」ほか(4月第3週のレビュー)

 「仕掛人・藤枝梅安2」はシリーズ第2作。短編集「殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) 」から「殺しの四人」と「秋風二人旅(しゅうふうににんたび)」を組み合わせて映画化しています。2月に公開された第1作も良い出来でしたが、今回も期待を裏切らない仕上がりになっています。監督は前作に続いて河毛俊作。

 前作での仕掛けの後、藤枝梅安(豊川悦司)と彦次郎(片岡愛之助)は江戸から京への旅に出る。途中、彦次郎は20年前、妻子を死に追いやった男(椎名桔平)を見かけ、仇を討とうと後を追う。梅安にはその男が非道を働くようには見えず、違和感を覚える。男は松平甲斐守の家臣・峯山又十郎と分かる。梅安の師・津山悦堂(小林薫)の墓前で、又十郎と話した梅安はこの男が仇ではないと確信。その夜、殺しの依頼を仲介する白子屋菊右衛門(石橋蓮司)と再会した梅安は店の外で浪人とすれ違う。男は井上半十郎(佐藤浩市)。梅安に妻(篠原ゆき子)を殺された過去があった。

 豊川悦司と片岡愛之助のコンビが今回も良く、特に片岡愛之助はこのシリーズで実力を見せつけた感じがします。2人のそれぞれに哀しい過去を絡めた脚本(大森寿美男)も良い出来です。

 エンドクレジットの後に長谷川という名前の武士が登場しますが、これは来年5月公開予定の「鬼平犯科帳」の主人公・長谷川平蔵(松本幸四郎)のようです。監督はドラマ「北の国から」や映画「優駿 ORACION」(1988年)「最後の忠臣蔵」(2010年)などで知られる杉田成道。個人的には引き続き河毛監督で見たかった気もします。1時間59分。
▼観客8人(公開4日目の午後)

「search #サーチ2」

 原題は「missing」。恋人とコロンビアへ旅行に出かけて行方不明となった母親(ニア・ロング)を、娘(ストーム・リード)がスマホとパソコンを駆使して探すというミステリー。「search サーチ」(2018年)と同じくスマホ、パソコンなどの画面だけで構成されるので、この邦題になったのでしょうが、内容的には関係ありません。ただ、原案は「サーチ」の監督アニーシュ・チャガンティで、それをウィル・メリック、ニック・ジョンソンが共同で脚本化し、監督しています。2人はチャガンティ監督の「RUN ラン」(2020年)で編集を務めたとのこと。

 全体的によく出来たミステリーと思いますが、前半が少しモタモタした印象。ここは伏線を張っているので仕方がない面もあります。ラストもスパッと格好良く終わりたいところ。二転三転するストーリーなので「驚愕の」と書いたレビューがありましたが、大げさです。

 感心したのはSiriの使い方。Googleアシスタントでもアレクサでもなく、やっぱりSiriの方がポピュラーなんでしょうね。1時間51分。
IMDb7.1、メタスコア67点、ロッテントマト88%。
▼観客3人(公開初日の午前)

「ザ・ホエール」

 過食で体重272キロに肥満したゲイの男と不仲の娘を描くダーレン・アロノフスキー監督作品。ニューズウィークのデーナ・スティーブンズはアロノフスキー作品が嫌いなのか、酷評していましたが、それは少数派の意見。元が舞台劇なので他のアロノフスキー作品と同列に論じることには疑問があります。舞台劇らしい緊密な展開で、これでカムバックを果たしたフレイザーの演技を見るだけでも価値があると思いました。

 ボーイフレンドのアランを亡くして以来、現実逃避から過食状態になり272キロに太ったチャーリーは看護師リズ(ホン・チャウ)の助けを受けながら、オンライン授業で大学の講師を務めている。自分の死期が近いと悟った彼は、8年前、アランと暮らすため家庭を捨てて以来別れたままだった娘エリー(セイディー・シンク)に再び会おうと決意。絆を取り戻そうとするが、エリーは学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた。

 タイトルはチャーリーの太った外見を表すほか、劇中でハーマン・メルヴィル「白鯨」に関する部分があるため。序盤で具合が悪くなったチャーリーは「白鯨」に関する文章を読んでもらって落ち着きを取り戻します。この文章が何なのかは終盤で分かり、チャーリーの痛切な思いを表すことになります。

 一方でチャーリーは「エレファントマン」(1980年)のような異形の存在であることも確か。考えてみると、「レクイエム・フォー・ドリーム」(2000年)のエレン・バースティンは過剰なドラッグで壊れていきましたし、「ブラック・スワン」(2010年)や「ノア 約束の舟」(2014年)の主人公も常軌を逸した存在でした。アロノフスキーはそうしたどこか壊れた人間が興味の対象なのでしょう。

 特殊メイクで熱演したフレイザーはアカデミー主演男優賞を受賞。作品はメイク・ヘアスタイリング賞を受賞しました。脚色は舞台の脚本を手がけたサミュエル・D・ハンター。娘のエリーを演じたセイディー・シンクは大ヒットシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(Netflix)で注目された女優です。1時間57分。
IMDb7.7、メタスコア60点、ロッテントマト64%。
▼観客8人(公開5日目の午後)

「ノック 終末の訪問者」

 ポール・トレンブレイの原作「終末の訪問者」(「The Cabin at the End of the World」、邦訳は竹書房文庫)をM・ナイト・シャマラン監督が映画化したサスペンス。

 人里離れた山小屋でゲイカップルのアンドリュー(ベン・オルドリッジ)とエリック(ジョナサン・グロフ)、養女ウェン(クリステン・キュイ)のもとに武装した男女4人が訪れ、家族は囚われの身となる。謎の男女は家族に「世界の終末を防ぐためには君たち家族3人で、家族の1人を選んで殺さなくてはならない」と告げる。

 原作はホラーに分類され、ローカス賞とブラム・ストーカー賞を受賞。スティーブン・キングが絶賛したそうですが、キングはよく絶賛します。「ヨハネの黙示録」が下敷きで、訪れる4人は四騎士に当たるそうです。

 なぜこの家族が世界の終わりを救うことができるのか、映画からは分かりません。4人の行動によって黙示録に呼応した終末への事象が現実化していくのを見せ、家族が信じざるを得なくなるという展開。シャマランの撮り方は悪くないんですが、キリスト教の考え方だけで世界の終わりを提示されてもなあという思いが抜けず、仏教徒やイスラム教徒やヒンズー教徒には関係ない話に思えます。まして無宗教の人間には。

 4人のリーダー格の教師を演じるのは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のデイヴ・バウティスタ。1時間40分。
IMDb6.1、メタスコア63点、ロッテントマト67%。
▼観客7人(公開7日目の午前)

「推しの子 Mother and Children」

 Filmarksによると、今春スタートのアニメは全部で70本。その中で最も評価が高いのは今のところ、「推しの子」です。原作コミックの作者は「かぐや様は告らせたい」の赤坂アカ。第1話は90分拡大版(実質82分)で4月12日にTOKYO MXやBS11で放送され、Netflixなどで配信されています。

 地方の病院で働く産婦人科医ゴローのところに、推しのアイドル「B 小町」のアイが訪れる。彼女は16歳だが、妊娠していてゴローの病院で極秘出産することになる。出産間近の夜、ゴローは何者かに襲われて転落死する。気がつくと、アイの双子の子供の1人として生まれ変わっていた、という出だし。

 赤ん坊がしゃべるのでドラマ「ブラッシュアップライフ」のようなコメディかと思っていたら、終盤に怒濤の展開があり、激しく感情を揺さぶられることに。人気を集めるのがよく分かる出来でした。この第1話は放送に先立って「推しの子 Mother and Children」のタイトルで3月17日から劇場公開され、KINENOTE76.5点、Yahoo!映画4.5点、Filmarks4.4点、IMDb9.6点の高評価を得ています。