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2025年04月13日の記事

2025/04/13(日)「アンジェントルメン」ほか(4月第2週のレビュー)

 これまで見る機会がなかったフランソワ・トリュフォー監督「映画に愛を込めて アメリカの夜」(1974年)がU-NEXTにあったのでお気に入りに入れていたら、いつの間にか配信が終わってました(配信にはありがちです)。録画していたのがあったので見始めたら、DVDに傷があり、1時間ぐらいのところで再生がストップ。録画したのは17年前、しかもDVD-RWだったので何回か使い回していたのでしょう。続きが見たいので中古DVDをブックオフのネット店で購入しました。外観はきれいで傷もなく、2000円以下の常識的な価格でした。amazonで目立つテンバイヤーにかかると、これが4000円以上になりますからご注意です。

「アンジェントルメン」

 ガイ・リッチー監督の戦争アクション。週刊文春のレビューで芝山幹郎さんは「『特攻大作戦』の焼き直し」と書いていましたが、共通するのは作戦に囚人を使うことぐらいです。「特攻大作戦」(1967年、ロバート・アルドリッチ監督)はDデイの前に米軍によるドイツ軍への破壊工作を描いていました。「アンジェントルメン」はUボートの補給船を破壊するイギリス軍の作戦を描いています。

 原作はダミアン・ルイスの「Churchill’s Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWII」(直訳すると、「チャーチルの秘密の戦士:第二次世界大戦の特殊部隊のならず者たちによる爆発的実話」。例によって邦訳出版なし)。ウィンストン・チャーチルと英軍人コリン・ガビンズが、第二次世界大戦中に設立した秘密戦闘機関の実話が基になっています。主人公のガス・マーチ=フィリップス(ヘンリー・カヴィル)は007のモデルになったそうで、イアン・フレミングと“M”も登場します。

 ガイ・リッチーはいつものようにコメディ要素を入れて描いていて、そのためかアクションが軽すぎ、敵の人命も軽過ぎでした。もう少しリアルでサスペンスフルな演出が欲しいところ。「特攻大作戦」でもドイツ兵の命は軽かったのですが、作戦に参加した米兵14人も次々に犠牲になり、生き残ったのは3人だけでした。

 主演のヘンリー・カヴィルは「マン・オブ・スティール」(2013年、ザック・スナイダー監督)でスーパーマンを演じた俳優ですが、ひげ面で分かりませんでした。魅力的な女スパイのマージョリー役はアナ・デ・アルマスと思って見ていたら、エイザ・ゴンザレス(「パーフェクト・ケア」「ゴジラVSコング」)でした。
IMDb6.8、メタスコア55点、ロッテントマト68%。
▼観客5人(公開5日目の午後)2時間。

「ゴーストキラー」

「ゴーストキラー」パンフレット
「ゴーストキラー」パンフレット
 「ベイビーわるきゅーれ」シリーズのアクション監督・園村健介の監督3作目。高石あかりが殺し屋(三元雅芸)の幽霊に取り憑かれる大学生を演じています。取り憑かれることで殺し屋の力を発揮することができますが、体を鍛えているわけではないので、相手へのパンチのダメージは自分も負うことになります。

 高石あかりはアクションを頑張ってますし、三元雅芸もキレのある格闘シーンを見せますが、もう少し物語に広がりが欲しいです。脚本は「ベビわる」監督の阪元裕吾。阪元監督は原作のある非アクションの「ネムルバカ」では物語を的確に演出していましたから、弱点はストーリー作りにあるのでしょう。アクションに理解のある脚本家とコンビを組みたいところです。園村監督作品としても前作「BAD CITY」(2022年)の方が面白かったです。

 三元雅芸と同じ組織に属する殺し屋役・黒羽麻璃央はニヒルでアクション映画が似合いますね。高石あかりの友人役で夜ドラ「未来の私にブッかまされる!?」のブレーン役を好演した東野絢香が出ています。
IMDb7.1、ロッテントマト100%(アメリカでは映画祭で上映)。
▼観客11人(公開初日の午前)1時間45分。

「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」

「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」パンフレット
パンフレットの表紙
 リュ・スンワン監督による9年ぶりの続編。冒頭の賭博組織の摘発描写がモタモタしているので大丈夫かなと思って見ていましたが、その後は復調してまずまずのアクション映画になっていました。ストーリーは法律で裁かれない悪人を“黒い警察”が裁くという昔からあるパターン。この映画の場合、それを組織ではなく、単独犯が実行していますが、今を反映してこれにネットが乗っかります。

 前作「ベテラン」(2015年)を見ていなくても話は通じますが、前作の重要な登場人物が裁かれる標的になるので、見ていた方が楽しめます。主役の刑事ソ・ドチョルを演じるのは前作と同じく名優ファン・ジョンミン。今年55歳になりますが、過激なアクションを披露しています。それ以上に新たに凶悪犯罪捜査班に加わった新人刑事パク・ソヌ(チョン・ヘイン)が中盤に見せる犯人とのチェイスシーンに見応えがあり、「ジョン・ウィック:コンセクエンス」(2023年、チャド・スタエルスキ監督)の階段落ちシーンを思わせました。

 悪人を自分で裁く犯人は正義のためというより、連続殺人を楽しむサイコ気質があるようです。それを見抜けず正義の味方と勘違いするネットの浅薄さも皮肉っています。
IMDb6.3、ロッテントマト100%(アメリカでは限定公開)。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午後)1時間58分。

「バッドランズ」

 1973年製作のテレンス・マリック監督のデビュー作で、今年3月から全国で順次公開されています。過去に「地獄の逃避行」のタイトルでテレビ放映され、DVD・ブルーレイも同タイトルで発売済み(DVDは2005年発売、その前に1989年にVHSテープが出てます)。日本での劇場公開は今回が初めて。僕はWOWOWが2013年ごろに放映した際に録画してました。録画作品をチェックしているうちにたまたま見つけたので見ました。

 1959年、サウスダコタ州の小さな町が舞台。15才のホリー(シシー・スペイセク)はある日、ゴミ収集作業員の青年キット(マーティン・シーン)と出会い、恋に落ちる。キットは交際を許さないホリーの父(ウォーレン・オーツ)を射殺してしまう。そこから、ふたりの逃避行が始まる。ツリーハウスで気ままに暮らし、大邸宅に押し入る。銃で次々と人を殺していくキットに、ホリーはただ付いていくだけだった。

 1958年にネブラスカ州で実際に起きたチャールズ・スタークウェザーとキャリル・アン・フューゲートによる連続殺人事件(11人殺害)をモデルにしているそうです。この事件、かなり有名でこの映画のほか、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994年、オリバー・ストーン監督)をはじめ、事件を基にした映画やテレビドラマが多数作られています。

 主人公はサイコキラーではなく、ドツボにはまってしまった無軌道な若者という感じです。1973年製作なのでアメリカン・ニューシネマの残り香があり、「バニシング・ポイント」(1971年、リチャード・C・サラフィアン監督)などとの共通性を感じました。スペイセクはこの後に出た「キャリー」(1976年、ブライアン・デ・パルマ監督)では不幸で不運な少女の代名詞みたいな役柄でしたが、この映画では十代の素朴な少女を好演しています。マーティン・シーンもフレッシュで良いです。
IMDb7.7、メタスコア94点、ロッテントマト97%。1時間34分。