2025/04/27(日)「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」ほか(4月第4週のレビュー)
新幹線が高速でぎりぎりすれ違うシーンや爆発シーンのVFXは格段にリアルです。ただし、犯行理由が弱く、犯人側のエモーションでは前作に及ばないのが残念な点。時代設定も前作から50年ではなく、20年ぐらいの方が(犯人側の設定としては)良かったでしょう。
それでもリメイクならぬリブート作品としては悪くない出来だと思いましたが、海外での評価はIMDb6.3、メタスコア62点、ロッテントマト75%と芳しくありません。VFXよりむしろ犯人側に説得力を持たせるような理由付けが海外でも通用させるためには必要だったのだと思います。キャストの中では森達也監督が重要な役を演じていて「おっ」と思いました。前作もNetflixなどで配信しています。
キネマ旬報5月号はこの映画の特集を組んでいます。樋口真嗣監督のインタビューで驚いたのは1975年版から引用されている丹波哲郎の登場シーンについて「実はあれ、丹波さんではありません」と発言していること。「丹波さんの息子の丹波義隆さんに演じていただき、新撮した映像なんです。だから、あのカットは原作映画にはないんです」。えええええーっ、親子にしてもあまりにそっくりすぎます。CG加工もしてるんじゃないですかねえ。
「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」

パレスチナ問題は複雑ですが、イデオロギーや主義主張にとらわれず、人道主義的観点から受け止めるのが良いと思います。その意味で言えば、重機で住宅や小学校を破壊したり、水道管を切断したり、住民に銃を向け、脅迫し、撃つことは許されません。どんな事情があろうとも、イスラエルの一方的な迫害に正当性はありません。見ていて怒りが沸々とわいてきます。
パレスチナ自治区を占領支配するイスラエルの構図はかつての南アフリカなどと重なります。パレスチナ人への迫害はアパルトヘイトそのもので、しかも解決策がまったく見えず、絶望感しかありません。記録が2023年10月で終わらざるを得なかったのはガザへの武力攻撃に連動してユダヤ人入植者たちが武器を持って、パレスチナ人を追い立てたためです。
ベルリン映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞と観客賞を受賞しましたが、授賞式に出席したベルリン市長は「我々ベルリン市は、完全にイスラエル側に立っている」とし、ドイツ政府高官も「ハマスによるユダヤ人テロに言及しなかったことは受け入れがたい」と映画を批判したそうです。ドイツがイスラエル側に立つのはナチスによるユダヤ人虐殺の反省があるからだそうですが、もっと現実を見た方が良いと思います。
映画はアカデミー長編ドキュメンタリー賞も受賞しました。ユダヤ人が牛耳るハリウッドでイスラエル批判の映画が賞を得たのはアカデミー会員をかつての3000人から海外まで含めて1万人以上に増やしたためもあるでしょう。しかし、受賞後、監督の一人であるパレスチナ人のハムダーン・バラールはイスラエル軍から暴行を受け、一時拘束されました。映画の賞を取ったことぐらいで現実は何も変わりませんが、パレスチナ問題の現状を知らしめることはできるでしょう。今後も記録と発信を続けて欲しいと思います。
IMDb8.3、メタスコア93点、ロッテントマト100%。
▼観客多数(公開初日の午後)1時間35分。
「Playground 校庭」

「サウルの息子」の舞台となったアウシュヴィッツ強制収容所は死が間近にある厳しい環境でしたが、ノラにとっての小学校も厳しい場所に違いありません。入学したばかりのノラは3歳年上の兄アベル(ガンター・デュレ)が同級生にいじめられているのを目撃します。アベルは父親には言うなと口止めします。父親が介入すれば、いじめがひどくなるから。しかし、アベルが便器に顔を突っ込まれているのを見て、ノラは我慢できず、父親に報告。父親が学校に抗議したため、予想通り、アベルはひどい状態に置かれてしまいます。父親が無職なのがいじめに影響しているのか? やがてノラもいじめの標的になってしまいます。
ローラ・ワンデル監督はこれが第一作。撮影手法が抜群の効果を上げた傑作だと思います。
IMDb7.3、メタスコア86点、ロッテントマト100%。
▼観客8人(公開2日目の午後)1時間12分。
「花まんま」

フミ子には幼い頃から別の人格、繁田喜代美としての記憶があります。これが彦根の繁田家まで行った理由。バスガイドをしていた喜代美は乗客から刺されて亡くなっており、ちょうどその頃フミ子が生まれました。喜代美の父親(酒向芳)は喜代美が死んだ時、のんきに昼食を取っていた自分を許せず、それ以来、物を食べなくなり、ガリガリに痩せ細っていました。フミ子が彦根に連れていくよう頼んだのは喜代美の父親を助ける目的があったようです。
映画はこれに結婚が決まった時から喜代美の記憶がフミ子からだんだん消えていっているという設定を加え、ラストの感動的な場面につなげています。
「兄貴は、ほんま損な役回りやでえ」が口癖の兄を演じる鈴木亮平と妹の有村架純が兄妹の雰囲気に合っていて良いですし、フミ子の結婚相手の鈴鹿央士やお好み焼き屋のファーストサマーウイカら周囲のキャラクターがいずれも好演してファンタジーの佳作に仕上がっています。
タイトルの「花まんま」はパンフレットの表紙のように白いツツジでご飯、赤いツツジで梅干しなど花で食べ物を表現した弁当のこと。脚本の北敬太はこれ以外に作品が見当たりません。パンフレットでも触れられていませんが、前田哲監督のペンネームなんですかね?
▼観客15人ぐらい(公開初日の午前)1時間58分。
「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」
実在の兄弟デュオ、ドニー&ジョー・エマーソンの実話を描いたドラマ。しみじみと良い映画だと思いましたが、本国アメリカでの評価は高くなくて残念です。1979年、ワシントン州の田舎町。10代だったドニーは兄のジョーとデュオを結成し、アルバム「Dreamin’Wild」を作るが、世間からは見向きもされなかった。30年後、そのアルバムがコレクターにより発見され、埋もれた傑作として人気を博していることを知る。別々の道を歩んでいた兄弟は再びデュオを組むが、ドニーはドラムを担当する兄の技術に不満を持つ。
歌手活動を続けるドニー(ケイシー・アフレック)のために父親(ボー・ブリッジス)は借金を重ね、1700エーカーあった農場は65エーカーになっていました。「それを後悔したことはない。全部手放したってかまわなかった」と話す父親が泣かせます。
ドニーの妻に「(500)日のサマー」(2009年、マーク・ウェブ監督)のズーイー・デシャネル。監督・脚本はビル・ポーラッド。
IMDb6.4、メタスコア64点、ロッテントマト90%。
▼観客3人(公開6日目の午前)1時間51分。
「プロフェッショナル」

1970年代の北アイルランドが舞台。主人公のフィンバー・マーフィー(ニーソン)は表向き本を売って生計を立てているが、裏で暗殺の仕事を請け負っている。引退を決意した矢先、爆破事件を起こしたアイルランド共和軍(IRA)の過激派が町に逃げ込んでくる。さらに、ある出来事がフィンバーの怒りに火をつけ、テロリストとの殺るか殺られるかの壮絶な戦いが幕を開ける。
IRAが単なるテロリストとして描かれるのが冒険小説ファンとしては少し不満ではありますが、キャラクターの描写は丁寧で、IRAの女リーダー、デラン(ケリー・コンドン)の最後など描写の仕方に工夫があります。ニーソンと実生活でも長年の友人という警官役のキアラン・ハインズが良いです。監督は「マークスマン」(2021年)のロバート・ロレンツ。
IMDb6.4、メタスコア60点、ロッテントマト83%。
▼観客15人ぐらい(公開12日目の午後)1時間46分。