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2026年02月08日の記事

2026/02/08(日)「トゥギャザー」ほか(2月第1週のレビュー)

 今期のテレビアニメは「呪術廻戦」や「メダリスト」「【推しの子】」など2期、3期の作品に傑作が多いですが、オープニングの歌に人気歌手を起用してるのが目につきます(いつものことですかそうですか)。「メダリスト」のHANAなどは中高生のファンを意識したようですし、「【推しの子】」のちゃんみなもそう。個人的には「地獄楽」のキタニタツヤ feat. BABYMETAL(SU-METAL)の「かすかなはな」がお気に入りです。

「トゥギャザー」

「トゥギャザー」パンフレット
「トゥギャザー」パンフレット
 これははっきりとボディホラー。倦怠期の男女が田舎に引っ越し、洞窟の水を飲んだためにお互いの体がくっつくようになるという話です。キワモノ的な映画かと思いきや、意外にまともなホラーでした。

 ミュージシャン志望のティム(デイヴ・フランコ)と小学校教師のミリー(アリソン・ブリー)は、住み慣れた都会を離れ、田舎の一軒家に移り住む。森の中で道に迷い、不気味な地下洞窟で一夜を過ごす羽目に。その洞窟は教会の廃墟のようだった。2人は渇きに耐えられず、洞窟にたまっていた水を飲んだことで日常が暗転していく。シャワーを浴びていたティムは意識が混濁し、身体が勝手に暴走する。その異変はミリーにも発生。磁力に引き寄せられるように、2人の体は引き合うようになる。

 キスすると下唇がくっつく。セックスで抜けなくなる。手が融合してしまう、と次第に現象がエスカレートしていきます。原因は洞窟にあった教会、新興宗教にあるらしいことが分かります。この宗教、プラトンの「饗宴」にあるアンドロギュニュス(両性具有)のように、かつて人間は手足が4つ、顔が2つある存在だったが、神の力で2つに引き裂かれたということを教義にしていて、男女がくっついた姿が正常とを信じています。

 神のような超常的な存在は出てこないので、詳しい仕組みは説明されません(できませんよね)。2人には決着がつきますが、物語自体は何も解決しません。続編を作ってもおかしくない終わり方でした。主演の2人は実生活でも夫婦だそうです。

 監督はオーストラリア出身で、俳優、作曲家、VFXアーティストでもあるマイケル・シャンクス。影響を受けた作品として「遊星からの物体X」「ザ・フライ」「エイリアン」のほか、黒沢清監督の「CURE」を挙げています。
IMDb6.7、メタスコア75点、ロッテントマト89%。
▼観客3人(公開初日の午前)1時間41分。

「グッドワン」

「グッドワン」パンフレット
「グッドワン」パンフレット
 グッドワンは、いい子の意味。17歳の少女サムが父親クリスとその友人マットの3人で3日間のキャンプに行くだけの話ですが、ユーモアの中に思春期の少女のリアルな感情が織り込まれてとても面白い作品だと思います。サムを演じるリリー・コリアスは微妙な感情表現がうまく、将来性を感じさせました。

 監督のインディア・ドナルドソンは「追いつめられて」(1987年)や「世界最速のインディアン」(2005年)などの傑作を撮ったロジャー・ドナルドソンの娘。父親とは違ったタイプの映画を目指しているようで、ケイリー・ライカートやセリーヌ・シアマ、マイク・リーの作品を指針としているそうです。

 それが端的に表れているのがマットの不用意な言葉でサムが気分を害する終盤のシーン。マットにとっては冗談で済ませられる言葉でも、サムはその言葉自体が自分を侮辱するもの、とても許せない言葉であり、その後、口を利かなくなります。

 クリスとマットの言動を見ていると、十代の少年と変わらないなと思える部分があり、「大人は私が思うより大人じゃない」という予告編でも流れたことをサムは知るわけです。だからといって、失礼な言動が許せるわけではありません。といっても、サムのちょっとした仕返しのためのいたずらも微笑ましいものではありました。

 3人がキャンプに行く時に使う車はスバルのアウトバックのようです。
IMDb6.7、メタスコア87点、ロッテントマト98%。
▼観客5人(公開5日目の午後)1時間29分。

「HELP 復讐島」

 男女が無人島に流れ着いて…というパターンの映画はたくさんありますが、男女の立場が逆転するというこの映画のプロットを聞いて最初に浮かんだのは「流されて…」(1974年、リナ・ウェルトミューラー監督)でした。これは金持ちの女性と召使いの男の立場が逆転しましたが、その逆パターンじゃないかと思いました。漂着の果ての立場の逆転に限れば、最近では「逆転のトライアングル」(2022年、リューベン・オストルンド監督)がありました。

 主人公のリンダを演じるのが今年48歳のレイチェル・マクアダムス。パワハラ気味の社長ブラッドリーは34歳のディラン・オブライエン。リンダは食べかけのツナサンドのツナを口の端に付けて、ブラッドリーと話し、ブラッドリーから嫌われます。本当なら自分が副社長になるはずだったのに、後輩の男がその地位を奪ったのもブラッドリーの差し金でした。そんな時、タイに出張に行く途中、プライベートジェットが海の上で墜落し、リンダとブラッドリーは無人島に漂着。リンダはサバイバル技術を持っていて、ブラッドリーより優位に立つ、という展開。

 前半のリンダのおばさん風味が強烈で、婚約者もいるブラッドリーがいくら無人島に2人きりとはいえ、リンダを恋愛対象に考えるとは思えません。リンダが最初の捜索の船から隠れるのは立場の逆転をはっきりさせたかったからと受け取れますが、2度目のそれを拒否した上にあんなことするのは理解しにくいです。その後の展開も意外性はあるものの、褒めるほどではなかったです。

 監督はサム・ライミ。脚本はダミアン・シャノンとマーク・スウィフト。この2人は「フレディVSジェイソン」(2003年、ロニー・ユー監督)、リメイク版の「13日の金曜日」(2009年、マーカス・ニスペル監督)でも組んでおり、この映画のホラー風味にも納得です。
IMDb7.3、メタスコア76点、ロッテントマト93%。
▼観客6人(公開6日目の午後)1時間52分。

「アグリーシスター 可愛いあのこは醜いわたし」

 「国宝」と同じくアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞の候補となったノルウェー=デンマーク=ポーランド=スウェーデン合作。「シンデレラ」をモチーフにしたホラーで、一種のボディホラーと言えます。クライマックスの描写が目をつむりたくなるほど痛そうで苦手です。

 主人公のエルヴィラ(リア・メイレン)は義理の妹アグネス(テア・ソフィー・ロック・ネス)ほど美しくはなく、王子との結婚を夢みて鼻筋を手術で矯正、ふくよかな体形を整えるため、サナダムシの卵を呑んで痩せようとします(筒井康隆の「私説博物誌」には若い女性が痩せるためにサナダムシを飼っている場合があるという記述があったと記憶してます)。

 まずまず面白いんですが、そういうグロいシーンもあるのでご注意です。監督はノルウェー出身のエミリア・ブリックフェルト。
IMDb7.0、メタスコア70点、ロッテントマト96%。

「禍禍女」

「禍禍女」パンフレット
「禍禍女」パンフレット
 ゆりやんレトリィバァの初監督作品。週刊新潮のレビューで88点の高評価だったので少し期待したんですが、ホラー描写と美術感覚は悪くないものの、習作レベルの内容でした。これぐらいで褒めると、褒め殺しになります。

 話は高校時代に好きな男に振られて自殺した太った女が「禍禍(まがまが)女」として化けて出てきて…というプロットにひねりを加えてあります。ゆりやんの話を脚本化したのは「ミスミソウ」「ヒグマ!!」の内藤瑛亮。

 主演は南沙良。共演はアオイヤマダ、髙石あかり、田中麗奈、鈴木福、斎藤工ら。白石和彌監督と清水崇監督がカメオ出演しています。エンドクレジットに唐田えりか(ゆりやんと「極悪女王」で共演)の名前がありましたが、どこに出てきたのか気づきませんでした。パンフレットを読んだら、シェアハウスで見ているホラー映画に出てくる細身長髪女幽霊の役だそうです(顔がちゃんと映ってないので分かるわけない)。

 ゆりやんが監督した経緯は、テレビのトーク番組で「映画監督をしたい」とのゆりやんの発言を聞いたプロデューサーからの誘いとのこと。
▼観客5人(公開初日の午後)1時間53分。

「あなたが帰ってこない部屋」

 アカデミー短編ドキュメンタリー賞候補。原題は“All the Empty Rooms”。1997年から学校での銃撃事件(スクールシューティング)の取材を続けている放送記者のスティーヴ・ハートマンと写真家のルー・ボップが遺族の家で犠牲者の部屋を撮影する様子を描いています。Netflixが配信しています。

 犠牲となった子供たちの部屋はいずれも親が当時のままにしていて、子供を亡くした親の悲しみの深さに胸が痛みます。ただ、上映時間35分では食い足りない部分は残ります。

 驚いたことに、アメリカではスクールシューティングが年間132件も起こっているそうです。マイケル・ムーア監督がコロンバイン高校銃乱射事件の原因を探った「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)の頃よりずっと増えていて、アメリカ政府がいまだに効果的な対策を打ち出せていないことにあきれます。根本的には銃規制しか対策はないのでしょう。
IMDb7.4。35分。

「名もなき反逆者 ロシア 愛国教育の現場で」

 デンマーク=チェコ=ドイツ合作のアカデミー長編ドキュメンタリー賞候補。原題は“Mr. Nobody Against Putin ”。MHK-BSの「BS世界のドキュメンタリー」で「前編 追い込まれる教員たち」「後編 “軍事化"する学校」に分けて放送された、と映画.comにあったのでNHKオンデマンドで見ました。

 ロシアのウラル山脈東にある貧しい鉱山町のカラバシュ(人口1万人ほど)の学校で、授業や行事の撮影を任された教師パヴェル(パシャ)・タランキンが教え子を撮りつつ、ウクライナ戦争下で世論をコントロールしようとするプーチン政権の動向を記録しています。反戦の言動をして当局に監視されるようになったパシャはその後、ロシアを出国し、デヴィッド・ボレンスタインと共同監督を務めてこの映画を仕上げました。

 ウクライナへの侵攻後、ロシアが愛国教育を徹底する様子がよく分かります。愛国というより軍国教育と言った方が良く、小学生の時から侵略戦争をねじ曲げて正当性を教え込むのはかつての日本と同じ、いや世界のどこでも戦争をしている国はこういう教育をするのでしょう。軍国教育の模範的な授業をする中年教師が表彰され、新築アパートを貸与されるなどあきれた描写が出てきます。

 この映画で描かれたことはロシア国民なら誰でも知っていることでしょう。子供から大人までウクライナ戦争の嘘を教えられている現状を変えないと、戦争終結の道は遠いかもしれません。国家にとって無知な国民の増加は統治に極めて都合が良い状態ですが、政治家の言うことを鵜呑みにしてSNSしか読まない信じない無知蒙昧な人々が増えている日本も他国のことはとやかく言えないですね。

 カラバシュという町は銅の精錬工場の有毒ガスで汚染され、ユネスコが「世界で最も汚染された町」と呼んだそうです。このため住民の平均寿命は38歳とのこと。こっちの問題も大きいんじゃないかと思いますが、序盤に触れるだけで追及はされていません。
IMDb7.6、メタスコア80点、ロッテントマト100%。1時間30分。