「キングダム2 遥かなる大地へ」は紀元前の中国・春秋時代を舞台にしたアクション大作の3年ぶりの続編。監督は同じ佐藤信介、脚本も原作者の原泰久と黒岩勉が前作に続いて担当しています。前作は中国西方の国・秦の王の座を巡る抗争を描きましたが、今回は秦と隣国・魏との戦いをCGを駆使した大きなスケールで描いています。
蛇甘(だかん)平原での両国の戦いは圧倒的な戦力差があるという設定だけではドラマが足りないため、原泰久は戦いに加わる羌かい(きょうかい=清野菜名)の過去の話を戦いの中で描くことにしたそうです。その狙いは見事な効果を挙げ、映画の3分の2ぐらいまでのエモーションは羌かいを巡る話から生まれています。
羌かいは暗殺者一族・蚩尤(しゆう)の一員で姉同然に育った羌象(きょうしょう=山本千尋)を殺され、復讐のために魏に行く目的がありました。哀しい目をしているのはそのためですが、信(山崎賢人)と同じ伍(五人組)を組むことになった羌かいは戦いの中で仲間と信頼関係を築き、徐々に人間的な温もりを得ていきます。
戦闘で傷を負い、「俺は無理だ、置いて行ってくれ」と気弱になった尾平(びへい=岡山天音)に対して羌かいが「無理じゃない、だってお前はまだ生きてるじゃないか!」と叫ぶ場面は胸が熱くなります。氷のヒロインが次第に打ち解けていく変化は佐藤監督が梶芽衣子主演版をリメイクした「修羅雪姫」(2001年)の釈由美子に通じるものがあります。
アクションを志向する清野菜名にはぴったりの役柄で、アクションが絡んだ役柄ではキャリアのベストでしょう。羌象役の山本千尋は武術太極拳世界ジュニア大会で入賞経験がある有望なアクション女優ですが、こちらはもっと見せ場があっても良かったのでは、と思いました。
大作が空疎にならないためにはエモーションの核をしっかり描くことが重要で、この映画はそれを外さなかったことが傑作となった理由だと思います。第3作は来年公開だそうです。
あfろ原作コミックのテレビアニメの劇場版。高校時代にキャンプを通じて友情を深めた5人の女性たちが社会人になり、閉鎖された施設をキャンプ場へ整備しようとする話です。
山梨県の観光推進機構に勤める1人の提案によってそうなるわけですが、全くリアリティーに欠けます。職員1人と4人の友人が行政関連団体の事業をやるなど考えられません。あの広い土地を5人だけで草刈りしたり、建物を整備することもあり得ないです。だいたいこういう事業、市町村が主体となった方が活性化名目で国県補助も受けられるでしょうし、有利です。私有地に小さなキャンプ場所を作るなら話は分かるんですけどね。
それと整備場所から縄文土器が出てきて作業がストップしますが、未整備の土地ならともかく、既存施設の敷地から土器が初めて見つかるというのは考えにくいです。犬が土器をくわえて持って来るという(かなり可能性の低い)設定を見ると、以前の施設の開発段階でも土器は見つかったはずですし、それなら調査は終わっているでしょう(遺跡を見つけたのに届け出なかった場合、文化財保護法違反になります)。
遺跡を観光に役立て、キャンプ場を併設する形になりますが、縄文時代の遺跡など珍しくはないので、よほど大規模か貴重なものじゃないと観光効果は無に等しいです(普通の遺跡は発掘調査の後、記録して埋め戻します)。
タイトルだけでなく、脚本もユルユルなのが非常に残念。なんでこれ、評判良いのでしょう?
「ゆるキャン△」は実写ドラマ版もあり、福原遥主演で第2シーズンまで作られています。
アカデミー作品・監督・脚本賞ノミネートのポール・トーマス・アンダーソン監督作品(受賞なし)。1970年のカリフォルニア州サンフェルナンド・バレーを舞台に、25歳のアラナ(アラナ・ハイム)と高校生のゲイリー(クーパー・ホフマン)の恋の行方を当時の音楽やファッションとともに描いています。ハイムは三姉妹のバンド「ハイム」のメンバー、ホフマンはアンダーソン監督映画の常連だったフィリップ・シーモア・ホフマンの息子でともに本作で映画デビュー。
この2人の演技の好ましさと70年代の風俗は面白く見ましたが、ストーリーそのものには余り興味が持てませんでした。IMDb7.3、メタスコア90点、ロッテントマト91%。
傑作・話題作を作り続けているA24製作のホラー。怪物や幽霊、悪魔などの超常現象はなく、サイコパスが田舎の家で殺人を繰り返す「サイコ」「悪魔のいけにえ」「悪魔の沼」系の作品です。
1979年、自主製作ポルノ映画の撮影チーム(男女6人)が田舎の農場を撮影場所として借りる。持ち主はかなり高齢の老夫婦で、アタオカ(頭おかしい)夫婦なのが徐々に分かってくる。しかも老婆の方はほとんど色情狂レベル。それが分かった時には既に遅く、メンバーは1人また1人と惨殺されていく。
公式サイトのネタバレ解説によると、タイトルのXはアメリカのレイティング、X指定から取られているとのこと。映画の中で「Xファクター」(未知の要素)という言葉が出てきますが、内容自体は既知の設定がほとんどで目新しいものはありません(唯一、独自性があるのが色情狂老婆ぐらい)。それを逆手に取って「サイコ」「シャイニング」など先行ホラーを引用したシーンがあり、マニア受けするところになってます。その意味では「スクリーム」「キャビン」系の作品と言えます。
色情狂と書きましたが、この老婆が執着しているのはセックスではなく、自分が失った若さと美しさの方でしょう。若い頃の自分の拠り所であったものを引きずっていることがパラノイア的殺人鬼となる要因になっています。監督のタイ・ウエストはB級ホラーを主に撮ってきた俳優・監督で、この作品が一番評価高いです。
公式サイトを読んで驚いたのは主人公のマキシーンを演じるミア・ゴスが老婆パール役も演じていること。すごいメイクなので全然分かりません。エンドクレジットの後に映画の61年前を舞台にしたプリクエル「Pearl」(パール)の予告編が流れます。主演はもちろんミア・ゴス。しゃれかなと思ったら、実際に作っていて既にポストプロダクション段階。IMDbにもページがありました。3部作にする予定だそうです。
アメリカの一般観客の評価はIMDb6.6と高くはないですが、メタスコア78点、ロッテントマト95%と評論家筋からは支持を集めています。
「モガディシュ 脱出までの14日間」は1991年、内戦が激化したアフリカ東部のソマリアを舞台にした韓国映画。ソマリアの首都モガディシュで韓国と北朝鮮の大使館員らが協力して国外脱出を目指す過程を描き、昨年の韓国でナンバーワンヒットになったそうです。単なるサスペンスアクションではなく、この南北人民の協力描写があったことが大ヒットの要因でもあるのでしょう。
リドリー・スコット監督の「ブラックホーク・ダウン」(2001年)は同じくソマリアを舞台にしていましたが、時代はこの映画より少し後の1993年で、政権は既に「モガディシュ」時点での反政府軍が掌握していました。
1990年、韓国政府は国連への加盟を目指し、アフリカ諸国へのロビー活動に励んでいた。モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。そんな中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。市街地は大混乱となり、両国の大使館員とその家族たちに危機が迫る。暴徒の襲撃を受けて大使館を追われたリム大使は韓国大使館に助けを求めた。
反発し合っていた両国の大使館員らが一緒に過ごすうちに友好を深めていくのは予想された展開ですが、実話だけに重みがあります。イタリア大使館が用意した救援機で脱出するため、イタリアと国交のない北朝鮮の人たちは韓国への転向を偽装します。これによって母国に帰った後、不利益を被ったのではと心配になりました。空港に政府職員が出迎えに来る場面での彼らの沈黙はスティーブン・スピルバーグ「ブリッジ・オブ・スパイ」のマーク・ライランスの運命を想起させました。
「ベルリンファイル」「ベテラン」のリュ・スンワン監督はアクション場面の手慣れた描写に加えて、ドラマ部分の演出にも隙がありません。全編モロッコロケだそうですが、市街地での戦闘シーンなどスケールも申し分ないですし、真に迫っていて、日本映画では予算的に難しい描写だと思いました。ただ、ナンバーワンヒットといっても、コロナ禍だったこともあり、興収は30億円とのこと。IMDb7.1、メタスコア71点、ロッテントマト95%。
マーベルのソー・シリーズ4作目。監督は前作「マイティ・ソー バトルロイヤル」に続いてタイカ・ワイティティ(「ジョジョ・ラビット」)が務めています。ソー(クリス・ヘムズワース)の今回の敵は娘と自分を助けなかった個人的恨みから神々の滅亡を図るゴア(クリスチャン・ベール)。ゴアに襲われてソーは絶体絶命の危機に陥りますが、ソーのかつてのハンマー、ムジョルニアを持って新たな“マイティ・ソー”に姿を変えたソーの元恋人ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)が現れます。
ジェーンがムジョルニアを手にしたのはステージ4のがんにかかって余命幾ばくもないためで、ムジョルニアを持っている間は元気でいられるという設定。フォスターをフォンダと言い間違えるギャグが2度ありますが、若い世代にジェーン・フォンダは通用しないんじゃないでしょうかね。ヘムズワースとワイティティ(コーグ役で出演もしています)のユーモアは好ましいものの、話が簡単すぎて物足りない思いが残りました。IMDb7.1、メタスコア62点、ロッテントマト68%。
88歳のロマン・ポランスキー監督(撮影時86歳)が19世紀フランスのドレフュス事件を描き、ヴェネチア映画祭銀獅子賞を受賞しました。
ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)はドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告され、悪魔島に流刑となる。防諜部長に就任したピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)はドレフュスの無実を示す証拠を発見。上官に対処を求めるが、スキャンダルを恐れる上層部は隠蔽を図り、ピカールを左遷する。ピカールは作家のエミール・ゾラ(アンドレ・マルコン)らに支援を求める。
後半は面白いんですが、前半がモタモタした印象。ピカールが上官にドレフュス事件の再調査を申請するまで1時間ほどかかります。ドレフュスの無実は認定されますが、実話だけにすっきりした解決にはならず、ユダヤ人差別問題もうやむやなまま。というか、これで差別が解消されるわけがありません。
ドレフュスが収監される悪魔島(ディアブル島)は南アメリカのフランス領ギアナにある島で、「パピヨン」でスティーブ・マックイーンも入った刑務所ですね。IMDb7.2、メタスコア56点、ロッテントマト76%。
「FLEE フリー」はアフガニスタンからロシアを経てデンマークに亡命した青年アミンを描くアニメーション。今年のアカデミー賞で長編アニメ賞、長編ドキュメンタリー賞、国際長編映画賞の3部門にノミネートされました(受賞はならず)。監督のヨナス・ポヘール・ラスムセンがインタビューする形式でアミンの壮絶な体験を描いていきます。つまり音声はドキュメント、描写はアニメ(一部実写)という表現です。
アミンの父親はアフガンの共産主義政権に敵対するとされて連行され、害が及ぶことを恐れた一家5人(アミンのほか、母親と姉2人、兄1人)はロシアに脱出します。外を歩けば腐った警官から金を要求され、不法移民を迫害する住みにくい国なので、まず姉2人が密入国業者を使って脱出しますが、その方法は狭いコンテナに多数が押し込められて船で移動するという過酷なもの。
映画はそうした難民の置かれた過酷な状況を描いています。加えてアミンは同性愛者であることを長年隠してきました。イスラム圏や共産圏では同性愛者への迫害があり、命に危険が及ぶからです。もっとも、同性愛を「精神の障害、または依存症」とする文書を配った自民党の懇談会が最近ありましたし、難民の境遇が過酷なのは川和田恵真監督「マイスモールランド」で描かれた通りで、日本も大きく遅れています。
ラスムセン監督はラジオドキュメンタリーで活躍してきた人で、アミンとは25年以上前からの友人とのこと。IMDb7.9、メタスコア91点、ロッテントマト98%。
バズ・ラーマン監督がエルヴィス・プレスリーを描いた伝記映画。エルヴィスをスターダムに押し上げたものの、搾取し続けたトム・パーカー大佐(トムでもパーカーでも大佐でもなかったことが分かります)を狂言回しにしています。
ラーマンの描写の特徴ではあるんですが、前半はダイジェスト感が強く減点対象。後半、ハリウッド映画への出演が続いて人気を落としたエルヴィスがテレビショーでクリスマス・ソングを歌わせようとするパーカーにさからってメッセージソングを歌うくだりが感動的です。こことラスベガスのホテルのステージでのエルヴィスの姿が映画のポイントでしょう。
僕は晩年のエルヴィスには太った姿しか印象になく、主演のオースティン・バトラーは太り方が足りないじゃないかと思いましたが、未見だった「エルヴィス・オン・ステージ」(1970年、デニス・サンダース監督)の冒頭を見たら、まだまだスマートでした。IMDb7.8、メタスコア64点、ロッテントマト78%。
チャン・イーモウ監督作品。映画の中では時代も場所も明示されないんですが、パンフレットによると、文化大革命中の1969年、中国北西部の村が舞台。強制労働所送りになった男(チャン・イー)が、映画本編の前に流れるニュースフィルムに娘の姿が1秒だけ映っていることを知り、娘の姿を一目見たいと脱走。村での映画上映に向かうが、途中の町でボロボロの格好をした少女が移送中のフィルムの1巻を盗むのを目撃する。
イーモウ監督にとっては手慣れた題材で水準以上の仕上がりですが、惜しむらくは提示した材料をうまく生かし切れなかった印象が残ります。映画ではなぜか描かれませんが、男の娘は死んでいるという設定があるそうで、これが描かれていれば、1秒にこだわる男の思いがより強く伝わったでしょう。
フィルムを盗む少女を演じるリウ・ハオツンはオーディションで選ばれたとのこと。少年かと思われるような薄汚い身なりで登場しますが、ラストの数年後の姿は「初恋のきた道」のチャン・ツィイーを思わせる可憐さ。これからスターになっていくのでしょう。IMDb7.2、メタスコア79点、ロッテントマト100%。
テレビアニメ3期を経ての劇場版。中学3年生の西片はクラスの隣の席の女の子・高木さんに何かとからかわれる。どうにかして高木さんをからかい返そうするが、高木さんの方が上手でいつも返り討ちに遭っている。中学最後の夏休み、2人は神社の床下で鳴いていた白い子猫を見つけ、一緒に世話をするようになる。
73分の短い作品ですが、テレビアニメは30分枠に4つぐらいのエピソードを入れた方式なので、これでも長く感じます。からかうのは好意を持っているからで、この2人を見ていると、「恋は光」の西条と北代の関係に似ているなと思いました。エンドクレジットの後に現在の2人の姿が描かれます。
あまりの悪評で「SIDE:A」は見ませんでしたが、大会を支えた関係者を描く「SIDE:B」は日経電子版などで褒める評価もありました。大会までの日数をカウントダウンしながら、さまざまな断面を描いています。率直に言うと、記録映画としてはどうかなあ、という出来。データが明示されないのが難点で、今は分かりますが、10年後には理解しにくい部分も出てきそうです。野村萬斎など開閉会式の演出チームの辞任や森喜朗大会会長の女性蔑視発言による辞任など長々と描く必要はないと思える部分もありました。
良かったのは福島のバドミントン指導者のエピソード。男子シングルスの桃田賢斗と混合ダブルスで銅メダルの渡辺勇大・東野有紗を指導したそうで、バドミントンに打ち込む今の子供たちを前に先輩の活躍を報告しながら涙を見せます。森喜朗から大会会長を引き継いだ橋本聖子が選手村の食事を試食した後、担当する人たちをねぎらい、褒めるスピーチも良かったです。聴いていた関係者が「感動した」と言うほど橋本聖子、スピーチうまいです。
「神は見返りを求める」は吉田恵輔監督作品。クズみたいな人間ばかりが登場する映画なので快不快で言えば、不快な作品ですが、相当に面白いです。
底辺YouTuberの優里(岸井ゆきの)が飲み会で知り合ったイベント会社の社員・田母神(ムロツヨシ)の手伝いでそこそこまともな動画をアップできるようになるが、優里は人気YouTuberの指導でさらに売れるようになる。「センスが古い」として、だんだん相手にされなくなった田母神は多額の借金を抱える不運に見舞われ、売れっ子になった優里に助力を求めるものの、すげなく断られる。こうして見返りを求める男と恩を仇で返す女の憎しみ合い、罵り合い、たたき合いがエスカレートして醜い様相を呈していきます。
人物配置は吉田監督の前々作「BLUE ブルー」と似ていて、ムロツヨシが負けっぱなしのボクサー松山ケンイチ、岸井ゆきのが日本チャンピオン目前の東出昌大の役に相当するでしょう。「BLUE ブルー」の終盤、松山ケンイチが東出昌大に対して「俺はお前が負ければいいのにとずっと思ってたよ」と言う場面がありましたが、あれは自分が先にボクシングを始めたのに立場が逆転したばかりか、自分の幼なじみと婚約もしたことに嫉妬の感情があったからでしょう。あの感情と2人の関係をもっと極端に強めたのが今回の映画と言えます。
後味を考えれば、田母神を善良なキャラに設定し、馬鹿にされた男が努力して最後は勝つみたいな展開にするところですが、優里とどっちもどっちなクズキャラ。田母神の同僚で双方に告げ口する若葉竜也や田母神の行動を撮影してアップする中学生、優里を嘲笑する同僚の女性社員ら救いようのないクズばかりで、この映画、感情移入できるキャラ、正義の役回りが不在です。にもかかわらず、ラストに一種のカタルシスを感じるのはちゃんと観客の目から見た正義が実行されるからでしょう。
恋する女性が光って見える特異体質を持つ大学生・西条を巡るラブコメ。昨年、「孤狼の血 LEVEL2」「鳩の撃退法」で好演した西野七瀬が役柄も含めてとても良く、主演女優賞候補だと思いました。というか、平祐奈も馬場ふみかもそれぞれに良く、主演の神尾楓珠も眼鏡をかけ髪型・眉型を変えただけでよくこんなに印象が変わるものだなと感心しました。
西野七瀬は28歳という実年齢からして神尾楓珠(23)の相手役としても大学生役としても似合わないんじゃないか、と見る前は思っていましたが、違和感はありませんでした。
同じ乃木坂46卒業組としては不動のエースだった白石麻衣が映画出演では「嘘喰い」「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」など作品に恵まれていないのに対して、女優としての立ち位置は西野七瀬が相当なリードをした印象。演技に自信があるわけではないようですが、監督の要求レベルに対応することは難なくできるように見えました。
映画は途中に流れが停滞する部分はあるものの、良い出来だと思います。「恋だな、恋しちゃったんだな」と西条(神尾楓珠)に対して北代(西野七瀬)がため口でしゃべる関係が微笑ましくて心地良く、結末は原作とは変えてあるそうですが、これ以外には考えられない良い結末だと思います。
原作の結末も気になったので最終巻のKindle版を買って読みました。作者(秋★枝)自身、結末をどうするかで悩み、いろんな人に意見を聞いたそうです。「あとがきまんが」によると、「北代さんは幸せになって欲しい…けど、自分は北代さんの報われない所も好きな理由の一つだからハッピーエンドを望みつつも、叶うと自分の好きな北代さんではなくなってしまう気もする」との意見に妙に納得し、後押しもされた結果の結末だそうです(端から見ると、なんだそれ、と思うような理由ですが)。
小林啓一監督がこれを変えたのはこの方が自然に思えたからでしょうし、そうしないともう1シーン必要になって尺が長くなり、くどくなるからかもしれません。
実話を基にした映画で、「フル・モンティ」(1997年)のピーター・カッタネオ監督作品。夫をアフガニスタンの戦地に送り出し、安否を気遣いながらイギリス軍基地で不安な毎日を過ごす軍人の妻たちが合唱を始め、戦没者追悼イベントに向けて練習を重ねる、という物語。中心となるのは大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)と、まとめ役のリサ(シャロン・ホーガン)。2人は方針の違いで最初は衝突を繰り返しますが、他のメンバーも含めて徐々に全員の団結が高まっていきます。
いつかどこかで見たような展開なのは仕方ないのかもしれませんが、もう少し新しい部分が欲しかったところです。基地内の生活というのは社宅のそれみたいなもので、夫の階級で妻の地位も左右されるのが何だかなあです。IMDb6.5、メタスコア55点、ロッテントマト77%。
是枝裕和監督が韓国で初めて撮った作品。端的に言うと、主演のソン・ガンホら役者の頑張りに対して脚本が負けている印象です。
ヤクザから借金返済の催促を受けているクリーニング店のサンヒョン(ソン・ガンホ)と赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。雨の夜、2人は若い女ソヨン(イ・ジウン)が赤ちゃんポストに預けた赤ん坊を連れ去る。2人は赤ん坊を売るブローカーだった。ところが、翌日思い直したソヨンが赤ちゃんポストに戻ってきて、事情を話した2人と一緒に養父母探しの旅に出ることに。サンヒョンとドンスを人身売買容疑で張り込んでいた刑事のスジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は彼らの後を追う。
家族を描き続けている是枝監督らしい作品で、ソン・ガンホらが旅の途中で疑似家族を形成していくのは当然と思える展開です。ウェルメイドな映画だと思いますが、予想以上のものはありませんでした。終盤のヤクザに対するサンヒョンの行動のみ、予想できませんでしたが、これは不要でしょう。IMDb7.5、メタスコア73点、ロッテントマト86%。
「メタモルフォーゼの縁側」は文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞などを受賞した鶴谷香央理の同名コミックを「青くて痛くて脆い」の狩山俊輔監督が映画化。ボーイズ・ラブ(BL)漫画をこっそり読むことが楽しみの女子高生うらら(芦田愛菜)と、表紙のきれいさに惹かれて購入したBL漫画に夢中になった75歳の雪(宮本信子)との58歳の年齢差を超えた交流を描いています。
日常の小さな出来事(本人にとっては大事件)を綴った岡田惠和の手堅い脚本もあって、日当たりの良い縁側のような温もりを持つ好編となりました。宮本信子は77歳、芦田愛菜は23日で18歳なので映画とほぼ同じ59歳差。この2人の、特に芦田愛菜の好感度の高さが映画の魅力になっています。
「パシフィック・リム」(2013年)劇場公開時に来日したギレルモ・デル・トロ監督は菊地凛子の子供時代を演じた芦田愛菜について「僕がこれまでに出会った中で一番かわいい生き物」と評していました。あれから9年、かわいいだけだった幼い女の子は聡明さを備えた素直で真っ直ぐな高校生に育ち、「国民の孫」的存在になりました。
医師を目指しているそうなので、女優としての活動が今後も続くかどうか分かりませんが、もうしばらくは映画で成長を見たいと思わせます。演技の引き出しは多くなく、女優として勉強すべきことはまだまだ残ってます。
日本発祥のドリフト競技を巡るドラマ。eスポーツ界の天才ゲーマー、大羽紘一(野村周平)は解散の危機に瀕したチームアライブの夏美(吉川愛)からスカウトされる。チームの責任者で元レーサーの武藤(陣内孝則)はゲームと実車のレースは違う、と大羽の実力に懐疑的だったが、テスト走行を見てチームに招き入れる。
内向的で無口な大羽のキャラクターを含めて、物語が設定だけに終わっていてドラマが希薄です。だから、レース場面にエモーショナルなものが伴わず、盛り上がりを欠く結果になってます。レース自体はドローンを使った撮影など迫力十分なのに惜しいです。
監督は下山天。「アライブフーンとは、ALIVE(生きる)とHOON(走り屋の俗語)から生まれた『今を生きる走り屋たち』を意味する造語」とのこと。一般的に意味の分かりにくいタイトルは付けない方が良いと思うんですけどね。
カンヌ映画祭で新人監督対象のカメラドール特別表彰を受けた早川千絵監督作品。超高齢化社会に対応するため導入された75歳以上の高齢者が自ら死を選べる制度“プラン75”を巡る物語で、是枝裕和監督が総合監修を務めたオムニバス「十年 Ten Years Japan」に収録された同名短編を長編化した作品です。
短編の方は設定を説明しただけの内容でしたが、長編化したことでプラン75に申請する主人公ミチ(倍賞千恵子)と、申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、サポート担当の瑶子(河合優実)、フィリピンから出稼ぎに来て関連施設で働き始めるマリア(ステファニー・アリアン)ら周辺人物を描き、映画に奥行きが生まれています。ただし、淡々とした描写は早川監督の持ち味なのか、ドラマの作りが弱いのか分かりませんが、もっと濃密な描写が欲しくなりました。プラン75は姥捨てを連想させる、安楽死の幇助みたいな制度ですが、これで超高齢化問題を解決できるとは思えず、設定自体の弱さも感じます。
そうした諸々の弱さを抱えつつ、それなりの仕上がりとなったのは今月29日で81歳となる倍賞千恵子の演技の説得力が高いためでしょう。
幕末の戊辰戦争で武装中立を目指した長岡藩の家老・河井継之助を描く司馬遼太郎原作の映画化。長岡藩は結局、西軍(薩長軍)と戦争になり、長岡城は奪われ、藩はバラバラになります。
評価する声もあるようですが、僕にはさっぱり面白くありませんでした。セリフで状況を説明し、時折、戦闘場面を入れただけの映画で河井継之助の人物像に迫ることもなく、キャラクター描写は通り一遍で、エモーションはまったく盛り上がりません。奥さんを芸者遊びに連れて行ったり、ひげを剃ってもらったりする場面だけではキャラクターの説明にはなりませんね(芸者遊びの場面での松たか子の踊りはほとんど即興らしいですが、うまいです。さすがです)。
河井が戦場で足にけがをする場面も遠景で多数の人間がいる中で描かれるためよく分からず、運ばれる途中、「頭が北ではダメだ」と重要でもないことにこだわるとか、「戦場に置いていけ」と部下に命じるのに結局死ぬのは戦場ではないとか、あきれた描写が続出。
小泉堯史監督の作品は前作「蜩ノ記」(2014年)にも感心できませんでした。今回は監督のキャリアの中でのワースト級。役所広司や松たか子らベテランの演技は悪くないのに、それをまったく生かせていません。