2021/12/12(日)「ラストナイト・イン・ソーホー」ほか(12月第2週のレビュー)

「ラストナイト・イン・ソーホー」は予告編では内容がよく伝わってきませんでした。パンフレットには「鬼才エドガー・ライトが贈るタイムリープ・サイコ・ホラー」とあります。これが正しいかというと疑問で、遠くはないけど当たってもいないというレベル。エドガー・ライト監督は「(主人公の)エロイーズは精神的な繋がりなどを通して、他の人の記憶を夢の中で再現しているに過ぎない」と語っているのでもちろんタイムリープではありません。

エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)は霊的なものを見る能力がある。この力は母親から受け継いだもので母はこれを苦にして自殺し、祖母に育てられた。60年代の音楽とファッションが好きなエロイーズはファッションデザイナーを目指してロンドンのカレッジに進学。寮に入るが、コーンウォールの田舎育ちをバカにするルームメイトになじめず、下宿先を探して一人暮らしをする。その下宿の大家ミズ・コリンズ(ダイアナ・リグ)は午後8時以降に男を部屋に入れることを厳しく禁じる。

その夜、エロイーズは夢の中で「007 サンダーボール作戦」(1965年公開)の大きな看板がある歓楽街に迷い込む。ナイトクラブの「カフェ・ド・パリ」で歌手を夢見るサンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)を目にしたエロイーズは同じような境遇のサンディと自分を重ねるようになる。何度もサンディを夢の中で見るうちにファッションも影響されていく。しかし、ある夜、サンディが殺される場面を見てしまう。

ミステリーとホラーを組み合わせたような内容で、ミステリーの側面から言えば禁じ手を使ってます。エロイーズの見る夢と霊能力で見たものが混ざっていて、その中には事実ではないことが含まれているからです。映画はエロイーズの視点で構成されていますから、故意に嘘をついているわけではないものの、エロイーズは「信頼のおけない語り手」に近い存在ということになります。

エロイーズは自分が見たものを事実だとして警察に相談しますが、半世紀近く前に起きたことを霊能力で見たと言っても警察が動かないのは当然でしょう。

手作りの地味なファッションで登場したトーマシン・マッケンジーは髪をブロンドに染めた場面から一気に華やかな美女に変貌します。「クイーンズ・ギャンビット」(Netflix)でブレイクしたアニャ・テイラー=ジョイは魅力を十分に引き出されているとは言えないのが残念。監督の好みはマッケンジーの方なんでしょう。

IMDbによると、「サンダーボール作戦」の公開は日本が一番早くて1965年12月11日。次がイタリアで12月15日。本国イギリスはロンドンでのプレミア公開が12月29日、一般公開が12月30日でした。007シリーズは日本で大ヒットしていましたから(「007は二度死ぬ」で日本を舞台にしたのはそのため)、早い公開になったのでしょう。「ゴジラVSコング」や「ウエスト・サイド・ストーリー」の公開が大幅に遅れる今とは大違いですね。
IMDb7.2、メタスコア65点、ロッテントマト75%。

「悪なき殺人」

コラン・ニエルの原作(「動物だけが知っている」=未訳)を「マンク 破戒僧」などのドミニク・モル監督が映画化したミステリー。KINENOTEから引用すると、「吹雪の夜、フランスの人里離れた村で一人の女性が殺された。この事件を軸に5つの物語が展開、5人の男女が思いもかけない形で繋がっていく」というストーリー。

小さな範囲の事件かと思ったら、地理的には大きな広がりが出てきますが、すべて分かってしまうと、人間関係の狭いところで起きた事件だな、という印象になってしまいます。あまりに話のつじつまが合いすぎて「大がかりなつじつま合わせ、ご苦労さんでした」と皮肉を言いたくなるほど。

出演者の中では、殺害された女の娘のような年齢でありながら深く愛してしまう若い女を演じたナディア・テレスキウィッツが強い印象を残します。2019年東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したそうで、これは納得です。
IMDb7.0、メタスコア69点、ロッテントマト92%とそこそこの点数になってます。

「けったいな町医者」

「痛くない死に方」(高橋伴明監督)の原作者・長尾和宏医師を描いたドキュメンタリーで、他地区では「痛くない死に方」と同時期に公開されましたが、宮崎では大幅に遅れての公開。

映画の作りとしては「痛くない死に方」の方がよくまとまっていて主張も明確ですが、あの映画のモデルになった医師の実際の活動を見たい人には有用でしょう。

酸素吸入や点滴を行わない在宅医療がどういうものかがはっきり分かる映画になっています。在宅死の瞬間を撮影した映像もあり、呼吸が止まった後、長く心臓が動き、ようやく死に至る珍しい例が紹介されています。呼吸が止まったら苦しいんじゃないかと思えますが、患者はまったく動きません。痛くも苦しくもないから動かないのか、もはや動く力が残っていないのかは分かりませんが、見た目には穏やかな死に方のようでした。

長尾医師の言うように、回復する見込みのない患者をチューブだらけにして苦しみを長引かせるだけの治療なら、しない方が良いと思います。監督は「痛くない死に方」の助監督を務めた毛利安孝。

「ブレッドウィナー」

「アジア映画祭2021 in 宮崎」上映作品。Netflixでは「生きのびるために」のタイトルで配信しているアニメーションで、タリバンが支配するアフガニスタンの物語。製作は「ウルフウォーカー」など評価の高い作品を作り続けているアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーンサルーン。

少女パヴァーナの父親が娘に本を読ませた罪で投獄される。パヴァーナの一家は母親と姉、幼い弟で、父親を失った一家は途端に困窮する。アフガンでは女性だけでは外出することさえできないのだ。それを破った母親はタリバンの男に殴打され、ひどいけがをしてしまう。パヴァーナは少年の格好をして働き、大黒柱(ブレッドウィナー)として一家を支えることになる。

理不尽な状況にある社会の話として普遍性があります。根本的な問題は解決しないものの、映画は小さなハッピーエンドを用意して終わります。焦点深度の深い傑作と言えるでしょう。原作はカナダの児童文学作家デボラ・エリス。「生きのびるために」は難民キャンプの少女たちへの取材を基にして書かれた作品で3部作になっているそうです。

「浅草キッド」

ビートたけしの原作を劇団ひとりが脚本・監督したNetflixオリジナル映画。今週見た作品の中ではこれがベストでした。



たけし役を柳楽優弥、きよし役はナイツの土屋伸之、師匠の深見千三郎を大泉洋、その妻を鈴木保奈美、浅草フランス座の踊り子役に門脇麦といったキャスティング。

深見とたけしの師弟関係を描いていますが、テレビに背を向け、浅草で静かに退場していく深見の悲哀が胸を打ち、実質的な主人公は大泉洋と言って良いと思います。

劇団ひとりは7年前にも大泉洋主演で浅草の芸人を描いた「青天の霹靂」を撮っています。今回はそれを大幅に上回る充実した出来と言えます。

小鳥のさえずりから過去へジャンプするラストシークエンスの長いワンカット(のように見える)撮影は極めて映画的で楽しく、微笑ましかったです。劇団ひとり、映画が好きなんですね。

劇場公開すれば、日本アカデミー賞など各映画賞の候補に挙がるのは間違いないと思いますが、公開予定はないんでしょうか。

2021/12/05(日)「パーフェクト・ケア」ほか(12月第1週のレビュー)

「パーフェクト・ケア」は全国的な劇場公開と同時に有料配信が始まりました(九州での劇場公開は熊本ピカデリーだけのようです)。配信はamazonプライムビデオ、U-NEXT、TSUTAYA TVなど12のプラットフォームで劇場と同額の1900円。ムビチケが使えるサイトもあります。

ロザムンド・パイクはこの作品でゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門の主演女優賞を受賞しましたが、アメリカでの評価はIMDb6.3、メタスコア66点、ロッテントマト78%(ユーザーは33%)と芳しくありません。
というわけで、U-NEXTで見ました。ここは40%ポイント還元があるので実質1140円。これなら、つまらなくても我慢できるレベルです。
しかし、そんな心配は不要なほど十分に面白いです。誰もが指摘するようにラストの処理が今一つではありますが、ロザムンド・パイクの頼もしくて賢くて決して諦めない女の演技は見る価値がありますし、相棒で同性の恋人役エイザ・ゴンザレス(「ゴジラVSコング」「ワイルド・スピード スーパーコンボ」)も初めて名前と顔が一致するほど魅力的でした。

パイクが演じるのは裁判所からの信頼が厚い法定後見人のマーラ。その正体は合法的に高齢者の資産を搾り取る悪徳後見人で、次の獲物に定めたのは身寄りのない資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)でした。格好の餌食となるはずが、なぜか彼女の背後からロシアン・マフィアが現れる、というストーリー。
マフィアのボスに扮するのは「スリー・ビルボード」「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジ。シラノ・ド・ベルジュラックを演じる「シラノ」の公開も控えており、アメリカでの役者としてのランクの高さをうかがわせます。
監督は「アリス・クリードの失踪」「フィフス・ウェイブ」のJ・ブレイクソン。


「スウィート・シング」

アレクサンダー・ロックウェル監督作品で、日本公開は「フォー・ルームス」(1995年、4人の監督のオムニバス)以来とのこと。15歳の少女ビリーと11歳の弟ニコはアルコール依存症の父アダムと暮らしている。ある日、父が強制的な入院措置となり、二人は家を出た母イヴのもとへ行くが……。
ビリーとニコを演じるのは監督の実子のラナ・ロックウェルとニコ・ロックウェル。母親役は奥さんのカリン・パーソンズ。インディーズ作品なので予算を抑えるためではないかと思ってしまいますが、2013年の「Little Feet」(日本未公開)でも2人の子供を撮っており、大人の入口にさしかかった2人をまた撮りたかったとのこと。
ネグレクトや虐待など厳しい描写もありますが、基本的には心優しいタッチの映画で、16ミリ撮影の白黒、パートカラーの画面も悪くありません。
2020年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀作品賞受賞。

「ディア・エヴァン・ハンセン」

トニー賞6部門を受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化。
主演は舞台でも主役を演じたベン・プラット。
アメリカで評価が低い(IMDb6.1、メタスコア39点、ロッテントマト30%)のはプラットが映画では高校生には見えないことも影響しているのでしょう(撮影時27歳だそうですが、30代半ばかと思いました)。
自殺とSNSの功罪、嘘をつかざるを得なくなる状況まで映画はかなり深刻な題材を扱っています。それをミュージカルにするというのは舞台なら成功したのでしょうが、映画には少し違和感が残りました。

「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」

マーベルのダークヒーローを主人公にした2018年の映画の第2弾。地球外生命体シンビオートのヴェノムと体を共有するジャーナリストのエディ(トム・ハーディ)に死刑囚クレタス(ウディ・ハレルソン)が噛みつき、エディの血を体内に取り込んだことから狂暴なカーネイジが生まれてしまう、という話。
第1作はまあまあな出来でしたが、今回はそれより少し劣る出来に終わっています。
明らかにアンディ・サーキス(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズなどのモーションアクターとして有名)の演出にキレがないことが原因で、話として悪くないのに盛り上がっていきません。
ヴェノムは元々、スパイダーマンシリーズの悪役(サム・ライミ監督の「スパイダーマン3」に登場しました)なので、今後の作品でスパイダーマンとの共演がありそうなエピローグになってます。

「立ち去った女」

「アジア映画祭2021 in 宮崎」で上映中の作品。ベネチア国際映画祭金獅子賞、2017年キネ旬ベストテン5位のフィリピン映画です。トルストイの短編から着想を得た人間ドラマで、殺人の冤罪で30年間も投獄された主人公ホラシア(チャロ・サントス・コンシオ)が彼女を陥れた昔の恋人ロドリゴに復讐するため、周囲の助力を得ながら彼を追っていく、というストーリー。
鮮明な白黒画面が美しい映画ですが、3時間48分の長尺。こんなに長くなったのはワンシーンワンカットの手法を取っているためもあるでしょう。普通に撮れば、2時間以内に収まりそうな内容でした。
ラヴ・ディアス監督作品の中で特に優れた作品というわけでもないようで、IMDbのレーティング順に並べると、全67本の長編監督作品中14番目の点数(7.2)になってます。
主演のコンシオは普通のおばさん(1955年生まれ)のように見えますが、女優として50本の映画に出ています。それよりも驚くのは344本の映画をプロデュースしていること。本業はこっちなんじゃないでしょうか。
amazonプライムビデオの見放題作品に入ってます。

「アイス・ロード」

材料はそろってますし、VFXも頑張ってるんですけど、料理の仕方がうまくないので薄味の出来に留まってます。話がテキパキテキパキ進みすぎるきらいがありますね。トラック2台が横転するだけでも大変な事態ですが、簡単に復旧するし、次々に困難が襲いかかるんですけど、あまりにも簡単に克服していくのでドラマが盛り上がらないです。リーアム・ニーソンの弟を死なせることもなかったんじゃないでしょうかね。
ローレンス・フィッシュバーンが序盤で死ぬシーンは意外性を狙ったんでしょうけど、あの場面、足首を鉄のロープに挟まれて数十トンのトラックで引っぱられたら、足が切断されるでしょう。足はなくしたけれど、命はなくさなかった、ということになるんじゃないでしょうかね。

2021/11/28(日)「tick,tick…BOOM!:チック、チック…ブーン!」ほか(11月第4週のレビュー)

12日に一部劇場で公開され、Netflixで配信中の「tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!」はアンドリュー・ガーフィールドのアカデミー主演男優賞ノミネートが有力視されているそうです。ミュージカル「RENT」を作ったジョナサン・ラーソンによる同名の自伝ミュージカルをもとにした映画で1990年のニューヨークが舞台。

主人公のラーソンは30歳の誕生日を目前に控え、週末にダイナーで働きながら、ミュージカルの音楽作りに打ち込んでいます。タイトルは時限爆弾が時を刻む「チクタク、チクタク、バーン」という意味で、30歳になるのに自分がまだ何も成し遂げていないことを焦るラーソンの心情を表したもの。

1990年と言えば、ゲイの間でHIVが猛威を振るっていた時代。ラーソンの知人もHIVに倒れます。ラーソンは恋人スーザン(アレクサンドラ・シップ)との関係に悩み、料金滞納でアパートの電気を止められながらも、新作ミュージカル「スーパービア」の試聴会(ワークショップ)にこぎ着けます。

ここで披露される歌「Come to Your Senses」(ヴァネッサ・ハッジェンズ、アレクサンドラ・シップ)のパフォーマンスが素晴らしく、さらにその後にドラマティックな展開があって、終盤の大きな感動を生んでいます。



ジョナサン・ラーソンはミュージカル「tick, tick...BOOM!」の後、大成功を収めて映画化もされた「RENT」を作りますが、その成功を目にすることはできませんでした。公演初日の未明に35歳の若さで急死したからです。
30歳なんてまだ若い、時間は十分にあると、思ってしまいますが、ラーソンには自分が短命であることの予感があったのかもしれません。

監督は作曲家・作詞家・劇作家・歌手・俳優で「ハミルトン」「イン・ザ・ハイツ」などのリン=マニュエル・ミランダ。ミランダほどこの映画を撮るのにふさわしい監督はいないでしょう。主演男優賞だけではなく、作品賞ノミネートも有力じゃないかと思えました。
IMDb7.8、ロッテントマト88%(ユーザーは95%)。

「ひらいて」

綿矢りさの同名原作を商業映画デビューの首藤凜監督が映画化。サンデー毎日は「邦画の青春映画では今年NO.1の出来栄え」と絶賛、週刊文春は星2個から4個まで評価が割れていました。
高校生の三角関係を描いた映画で、なかなか予測不能の展開をします。
プラトニックな純愛の男女に悪魔的な少女が強引に割り込んでいくというプロット。その悪魔的な少女・木村愛が主人公で、演じるのは山田杏奈。純愛男女の西村たとえと新藤美雪を演じるのはHiHi Jetsの作間龍斗と「ソワレ」「ある用務員」の芋生悠。
3人それぞれに好演していて、特に目力のある山田杏奈が良いです。
木村愛は一見、成績優秀で明るくて人気者というキャラですが、心に闇を持っていることが徐々に分かってきます。たとえは強権的で横暴な父親(萩原聖人)から離れるため大学に合格し、東京に行く計画を持っています。美雪はI型糖尿病の持病があり、体が弱いんですが、たとえに毎日手紙を書き、一緒に東京に行くことを夢見ています。
たとえを好きになった愛は手紙の存在を知り、2人の中を裂くために美雪に接近。友人のいない美雪は愛にされるがままレズ行為を許してしまう、という展開。
高校3年の時に原作を読んで映画化を夢見ていたという首藤監督は3人のキャラを明確に描き分け、官能的・印象的なシーンとともに、愛のヒリヒリした狂おしい感情を織り込みながら3人の物語を語っています。

「かそけきサンカヨウ」

今泉力哉監督が窪美澄の短編を映画化。同名短編と「ノーチェ・ブエナのポインセチア」(いずれも短編集「水やりはいつも深夜だけど」に収録)を組み合わせて脚本化してあります。
高校生の陽(志田紗良)は父親(井浦新)と2人暮らしだったが、父親が再婚することになり、その相手美子(菊池亜希子)と4歳の娘ひなた(鈴木咲)がやってくる、というのが「かそけきサンカヨウ」。陽と同級生の陸(鈴鹿央士)との関係を描くのが「ノーチェ・ブエナのポインセチア」。
大きなドラマがあるわけではありませんが、描写の繊細さ、優雅さ、情感の豊かさに惚れ惚れしてしまう映画でした。
例えば、陽が幼い頃に出て行った実の母親の三島佐千代(石田ひかり)に会ってきた陽が美子に対して「美子さん、これからは美子さんのことをお母さんって呼んでいい?」と聞くシーン。菊池亜希子はパンフレットで「脚本を読むたびに気持が溢れてしまいました」と語っていますが、胸が熱くなる素晴らしいシーンになっています。
今泉監督の言葉によると、志田彩良は監督の指示に対して「それはできないかもしれません」「多分こうなると思います」と自分の意見を言うことができる女優だそうで、演技の確かさはそういうところに起因しているんだなと思います。
だから「パンとバスと2度目のハツコイ」「mellow」に続く3本目にして今泉作品の主演を務めることになったのでしょう。

「THE MOLE」

デンマークの元料理人が北朝鮮の武器輸出の中核に潜入するドキュメンタリー。10年間にわたって命の危険を伴うスパイ行為をしたというのが驚きで、まるでフィクションのようなドラマがあります。
彼らは北朝鮮関係者から命を狙われているはずで、危害が及ばないことを祈ります。
映画に出てきた北朝鮮高官も何らかの処分を受けているかもしれません。
監督は「誰がハマーショルドを殺したか」のマッツ・ブリュガー。

2021/11/21(日)「聖地X」ほか(11月第3週のレビュー)

「そして、バトンは渡された」

瀬尾まいこの本屋大賞を受賞した原作にはあまり心を動かされませんでしたが、映画は永野芽郁主演なので「お、原作よりいい」というのが序盤の感想。
見ていくうちに「まあ、普通かな」に落ち着き、終盤で少し盛り返した感じでした。
大衆的な泣かせる映画としての作りは悪くなく、こういうジャンルの需要は確かにあるのでしょう。
劇中で石原さとみ演じる人物によるある行為は原作読んだ時に「そりゃダメだろう」と思いました。映画はそのあたり少し緩和しています。
前田哲監督は以前より随分うまくなったと思います。
監督デビューは1998年で、これが18本目の監督作ですから、当然でしょうけど。

「FUNAN フナン」

1975年にカンボジアを制圧した共産主義勢力クメール・ルージュ(ポル・ポト政権)支配下の苦難を描くアニメーション。アヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞しました。
ポル・ポト政権下では300万人が死んだと以前は言われていましたが、現在では諸説あり、この映画は170万人から200万人が虐殺と飢えと病気で亡くなったとしています。
農村に移住させられ、粗末で不十分な食事で強制的に農作業をさせられる人々を描き、ミニ・アウシュヴィッツと言われた強制収容所での虐殺の様子は描かれていません。、
タイトルの「フナン」は1世紀から7世紀にかけ、現在のカンボジアやベトナム南部周辺にあった古代国家「扶南(フナン)」のことだそうです。

女優のアンジェリーナ・ジョリーはこの時期のカンボジアを描いた映画「最初に父が殺された」(2017年)をNetflixオリジナル作品として監督しています。
配信開始時からマイリストに入れっぱなしだったので、この機会に見ました。
当時の様子は実写だけあって詳しく、エキストラもかなり使って予算をかけた映画です。
原作は生きのびた少女によるノンフィクションで、アンジーの視点も子供に寄り添ったものになっています。ただ、ベトナム軍の侵攻によって解放された後の描写が30分もあるのが余計に感じました。

「ルック・オブ・サイレンス」

カンボジアの虐殺は共産主義勢力によるものでしたが、インドネシアでは共産主義者が虐殺の標的になりました。それを描く「ルック・オブ・サイレンス」は「アクト・オブ・キリング」とセットになる作品で、犠牲者100万人と言われる1965年からの大虐殺を描くノンフィクション。
「アクト…」が加害者側に虐殺行為を演じさせたのに対して、「ルック…」は被害者の遺族の視点で組み立ててあり、かつての加害者とその家族のインタビューで構成されています。
インドネシアの虐殺でやり切れないのは指示者も実行者も誰1人として処罰されていないこと。
「アクト…」同様、この映画でもどう殺したかを詳細に語る実行者が出てきて、気分が悪くなります。
虐殺は軍が直接行ったのではなく、民間組織に指示して行わせたのが悪質で、劇中の説明によると、国際批判を警戒したためとのことです。
ヴェネツィア国際映画祭で審査員大賞、国際映画批評家連盟賞など5部門を受賞しています。

「草の響き」

函館出身の作家・佐藤泰志原作の映画化第5弾。
体調を崩した和雄(東出昌大)は妻の純子(奈緒)と函館に戻る。和雄は自律神経失調症と診断され、医師の勧めで毎日街を走ることになる。やがて路上で出会った若者たちと交流を持ち始める。
斎藤久志監督の演出に不備はないものの、特に褒めるべき部分も見当たりませんでした。
医師が走ることを進めるのは精神を安定させるセロトニンが分泌されるからでしょう。
セロトニンが不足すると、不安や鬱、パニック障害を引き起こすそうです。

「聖地X」

興行的に苦戦しているようで金曜日の初回に見た時、観客は僕1人でした。内容が全然、浸透していないためもあるのでしょう。
劇団イキウメの舞台をオール韓国ロケで映画化した入江悠監督のホラー。
予告編は確かにホラーのイメージでしたが、本編は少しも怖くなく、怖がらせようという演出もありません。
聖地Xが生み出すある物体を巡る騒動を描いていて、いかにも元が演劇という作りになっています。それも含めて僕は割と好意的に見ました。
前川知大の原作戯曲は韓国とは関係なく、韓国になじみのあるプロデューサーの意向とのこと。
主演の川口春奈に入江監督の前作「シュシュシュの娘」の福田沙紀と同様のダンスシーンがあっておかしかったです。

「残菊物語」

宮崎映画祭で上映された溝口健二監督の「残菊物語」(1939年)を見ていなかったので、U-NEXTで見ました。
デジタル修復版といっても画質的につらいものがあるんですが、内容の素晴らしさですぐに引き込まれます。
五代目尾上菊五郎の養子で若手人気歌舞伎役者・菊之助はある日、弟の若い乳母・お徳に自分の芸を批判されるが、次第に彼女に愛情を抱き始める。しかし、養父母はお徳との仲を許さず、菊之助は地方回りの劇団に入って落ちぶれていく。お徳はそんな菊之助を必死で支え、ついに復活への道を開く。
身分違いの恋という題材は後の傑作「近松物語」(1954年)でも描かれますが、この物語には普遍的で感情を揺さぶる魅力があり、多数の作品に影響を与えているようです。
同じ泣かせる映画でも「そして、バトンは渡された」とはレベルが違う感じ。
海外でもIMDb7.9、ロッテントマト94%と、高い評価を得ています。

2021/11/14(日)「君は永遠にそいつらより若い」ほか(11月第2週のレビュー)

「サウダーヂ」

2011年の映画ですが、宮崎市での公開は初めて。
山梨県甲府市を舞台に土木作業員や移民労働者の姿を通して文化摩擦や差別、経済格差の問題を描き、同年のキネ旬ベストテン6位に入ってます。
無名の役者と素人を使い、現実に密着した作りが評価された理由でしょう。
タイやブラジル人の出稼ぎ労働者が出てきますが、映画が公開された10年前と決定的に違っているのはこの間に日本がどんどん貧しくなったこと。
アベノミクスで円安が進んだことと、賃金がさっぱり上がらないのが原因で、今やバンコクの最低賃金は東京より高くなっていて、タイの人が渡航費用を払ってまで日本に出稼ぎに来る理由はなくなっています。
逆に日本人が海外に出稼ぎに行く時代が来る、と先日、週刊誌が書いてました。
今の眼でこの映画を見ると、「まだこの頃は良かったんだなあ」と思わざるを得ません。
当時はリーマンショック後の円高の時代で1ドル80円を割ってましたからね。

「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」

今年のアカデミー賞で作品賞など6部門にノミネートされ、編集賞と音響賞を受賞した作品。
突発性難聴に陥ったヘヴィメタルバンドのドラマーの苦悩と再生を描き、主人公を演じたリズ・アーメッドは主演男優賞ノミネート。
タイトルは主人公が付ける人工内耳(インプラント)が発する金属的な音とヘヴィメタルのダブルミーニングでしょう。
amazonオリジナルなので昨年12月からプライムビデオで配信中で、映画館でまた見るかというと、個人的にはそこまで思い入れはありません。

「君は永遠にそいつらより若い」

映画館のロビーで手に取ったパンフレットは副読本レベルの分厚さ(340ページ、脚本も収録)。価格が1800円もするので、ま、買わないなと思いましたが、映画を見始めて必ず買おうと思い直しました。傑作です。
原作は津村記久子のデビュー作。大学卒業間近で児童福祉司として就職が決まっている主人公ホリガイのモノローグでほとんど進行します。
脚色は吉野竜平監督自身で、かなりうまい脚色だと思いました。
原作のホリガイは身長175センチ、演じる佐久間由衣は172センチ。背の高さも起用された理由でしょうが、佐久間由衣は本当に役にぴったりの好演を見せています。
おおらかで朗らかでさっぱりしたホリガイの人柄にまず引きつけられますが、映画は暴力や児童虐待、自殺、同性愛、コンプレックスと、てんこ盛りの題材を織り込んで進行します。
タイトルは13年前に起き、ホリガイが児童福祉司を目指すきっかけとなった4歳男児の行方不明事件に関するホリガイの胸を打つセリフに由来。
「君のことを攫って、君の心と存在を弄んで、侵害するそいつらは、どんどん年をとって弱っていくから。だから絶対に諦めないで。…君は、永遠にそいつらより若いんだよ」
佐久間由衣の出演作は追っかけて全部見ようと思いました。
今年6本の映画に出演し、絶好調と言うほかない奈緒はふとしたことからホリガイと交流を深めていく1学年下のイノギ役。
不倫してもあっけらかんとしていた「先生、私の隣に座っていただけませんか?」とはガラリと変わった役柄ながら、やっぱり好演してました。

「トムボーイ」

夏休みに田舎に引っ越したのを機に自分を男の子だと周囲に信じ込ませたボーイッシュな女の子ロール(ゾエ・エラン)を巡る騒動を描くセリーヌ・シアマ監督作品。
10年前の作品ですが、昨年、シアマ監督の「燃ゆる女の肖像」が話題を呼んだことで公開されたのでしょう。
主人公のロールはミカエルと名乗って同年代の子供たちと遊び、水遊びの時は自分で女子用水着を切って水泳パンツにし、粘土で股間の膨らみを偽装します。
仲良くなったリザとキスもするようになります。
明らかに心と体の性の不一致の傾向があるんですが、両親はまったく気づいていません(そんなことってある?)。
夏休みが終わりを迎える頃、ロールは男の子とけんかしたことがきっかけで、男子に扮していることを母親に知られてしまうことになります。
トランスジェンダーに限らず、子供が嘘をつかなくちゃいけない状況というのはかわいそうな状況であり、ありのままの姿を受け入れたいところ。
根本的な部分は解決されないままなので、映画はハッピーエンドとは言えないですね。

「リスペクト」

ソウルの女王アレサ・フランクリンを描く伝記ドラマ。
「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンがアレサを演じ、圧倒的な歌を披露しています。
ハドソンの歌はいいんですけど、ドラマが型通り、演出も型通り。
IMDb6.6、メタスコア61点、ロッテントマト67%の低評価に納得するんですが、なぜか日本では評価が高いです。
が、よく見たら、KINENOTEは3人とも5点満点ですが、週刊新潮3.5、日経電子版3と、そうでもないですね。映画のクライマックスは7月に公開された「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」で描いた教会コンサートの場面になってます。