2016/07/02(土)「リップヴァンウィンクルの花嫁」 前半は論理的、後半は情緒的

「リップヴァンウィンクルの花嫁」パンフレット

 上映時間3時間。最初の1時間余りは快調だった。派遣教員の皆川七海(黒木華)がSNSで知り合った男と結婚し、義母に浮気の疑いと嘘を責められて離婚させられ、安ホテル住まいをするあたりまで。その後映画は変調する。ポンポンポンポンと進んだ話が途端にスローペースになる感じ。前半を緻密な計算で組み立てた密度の濃い話とするなら、後半は感情に基づいて出来上がったような印象を受ける。前半は論理的、後半は情緒的と言うべきか。

 キネマ旬報4月上旬号(1713号)の黒木華のインタビューによると、撮影開始時には脚本が完成していなかったのだという。それならば、僕がそう感じてもおかしくはない。インタビューを引用しておこう。

 「原稿のままの脚本で、七海を軸にした大体のストーリーはあるんですが、完成していないものでした。出来上がった映画は最初に貰った脚本とは全然変わっていて、映画ができるまで、脚本は本当に完成していなかったんです。撮影をしながら、シーンがどんどん増えて、物語は肉づけされて、必要ないと判断されたものは削られていく。そうした変更が監督から撮影の前々日とかに伝えられて、当日に、こういうふうにしようと思うものを渡されたので、いつも集中してました。一緒に場面を作っていってる感じでした」

 もちろん、黒木華はこれを否定的には語っていない。脚本の続きを直前に渡されたから、演技に集中しなければならなかったということを強調している。1年近くかけて撮影したのだから、ストーリーを練る時間は十分あっただろう。それでも撮影しながら話を作っていくと、微妙に不完全な部分が出てくるのではないか。やはり脚本は撮影前に完成していることが望ましいのだ。

 その脚本は黒木華にあて書きして書かれたそうだ。だからなおさらなのだろうが、黒木華に関してはとても良い。控えめな性格で自分に自信がなく、おどおどして流されていくキャラクターを黒木華は初々しく、かわいらしく演じている。七海は「声が小さいからマイクを使って」と生徒に言われ、真に受けて使ったために学校をクビになる(ちょうど結婚が決まったところだったので、表面的には寿退職ということになる)。両親は離婚しているが、結納ではそれを隠して出席。結婚式に呼ぶ親族が少ないので、何でも屋の安室行舛(アムロ、行きます。ネットのハンドルはランバラル=綾野剛)に頼み、出席者をそろえる。夫の浮気を疑って安室に調査を頼むと、予想外の展開となり、逆に義母から浮気を疑われてしまう。やることがすべて裏目に出て離婚することになり、住む所もなくなるという前半は大変面白い。

 後半は安室に頼まれた仕事で一緒になった真白(Cocco)との交流がメインになる。後半のタッチはロマンティシズム、リリシズムの得意な岩井俊二らしいのだけれど、前半のあれよあれよという展開に比べると、話の密度としては物足りない思いが残る(前半より後半がいいという人もいるだろう)。これなら3時間もかけず2時間程度でも良かったのではないか。ネット配信の特別版は2時間だが、それでも十分話は通るのだろう。

2016/06/22(水)「クリ-ピー 偽りの隣人」

「クリ-ピー 偽りの隣人」パンフレット

 前川裕の日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作「クリ-ピー」を黒沢清監督が映画化した。元刑事で犯罪心理学の大学教授とその妻が引っ越してきた新居の隣に住む男にじわじわと追い詰められていくサイコ・サスペンス。隣に住む男を演じる香川照之は登場した時から異常で不気味な雰囲気を漂わせ、粘着質で話が通じない男をリアルに演じている。

 物語は家族を恐怖で支配し、7人が犠牲になった北九州の家族監禁連続殺人事件をモデルにしているようだが、人を恐怖で支配・従属させるのではなく、映画では中毒性のある薬を使う。人当たりの良い顔で近づき、徐々に本性を現して支配していく過程を描くと時間がかかるし、薬でやってしまった方が手っ取り早くて映画向きではあるのだろう。少し冗長さを感じる部分があるにせよ、僕は面白く見た。ただ、気味が悪すぎて嫌悪を感じる人もいるかもしれない。

 主人公の高倉(西島秀俊)は警察署内で逃亡したサイコパスの男から背中を刺される。1年後、刑事をやめて大学教授になり、妻の康子(竹内結子)とともに新居に引っ越す。近所に挨拶回りに行くと、2軒隣の家は「近所付き合いはしない」とつっけんどん。隣の家はインターホンを押しても誰も出てこなかった。その隣の家には西野(香川照之)が娘の澪(藤野涼子)と住んでいることが分かる。妻もいるらしいが、姿は見えない。大学で高倉は6年前に起き、未解決となっている一家3人失踪事件に興味を持ち、同僚とともに事件現場を訪れる。事件当時、修学旅行で不在だった早紀(川口春奈)のみ失踪を免れたが、早紀は事件前後の記憶をなくしていた。

 当然のことながら、この失踪事件は西野に結びついていく。高倉の同僚だった刑事・野上(東出昌大)や事件の捜査をする谷本(笹野高史)が西野の家を訪れる場面はヒッチコック「サイコ」の私立探偵アーボガースト(マーティン・バルサム)がベイツ・モーテルを訪れる場面を思わせる。「サイコ」がそうであったようにこの映画も化け物ホラーの側面を持っている。

 映画は後半、西野の家の地下室を見せる。日本の一般住宅に地下室があることはまれだが、造型を含めて陳腐にはなっていず、成功している。黒沢監督は映画がR15+指定にならないよう死体の処理の仕方を工夫したそうだ。この処理の仕方は日本独自のものだろう。事件が解決するかと思わせて、さらにもう一つのエピソードを付け加えたのは普通を嫌ったためか。ラストだけでなく、全体も原作とは異なった部分が多いようだ。いっそのこと、すごく後味の悪い結末にする手もあったかなと思う。そういうラストは独立系の映画にはできても、松竹配給の作品では難しいのだろう。

 西島秀俊と東出昌大は演技的にどうかと思える場面が一つ、二つある。映画を支えているのは言うまでもなく香川照之と、不安と官能を身にまとった竹内結子の演技だ。

2016/06/18(土)118作品が200円

吉川英治全集 118巻合本版

 某ブログに「吉川英治全集・111作品」のKindle版へのアソシエイトリンクがあった。「三国志」や「宮本武蔵」など111作品がたったの200円。これは買わなきゃと思ったが、レビューに「新書太閤記」が途中までしか入っていないという指摘があった。「吉川英治全集 118巻合本版」には入っているという。7作品多いのに、これも同じ200円だ。どちらも40ポイント還元なので実質160円。なぜ、同じような全集が2つあるのか分からなかったが、とりあえず、こっちを1-Clickした。

 200円なのでポイントは使わなくても良かったのだが、1-Clickだと、ポイントで精算されてしまう。これだとポイントは付かないなと思ったら、なんとamazon、ポイントで払ってもポイントが付くのだった。驚くなあ。

 ところが、Kindleストアの吉川英治の作品の一覧を見ると、「三国志」も「宮本武蔵」も0円で販売(?)されていた。著作権が切れているので、0円でもおかしくはない。160ポイント払う必要さえなかったのだ。Kindle版の吉川英治作品は青空文庫のもので、収録作品の順番は青空文庫の作家別作品リスト:吉川 英治と同じだ。

 111作品は昨年12月発売で、118巻は今年3月発売。昨年12月には青空文庫への収録作業が111作品までで、その後追加された分をまとめて118巻として発売したのではないか。同じ全集に作品を追加すると、先に少ない方を買った人から不満が出るだろうから、別の本として発売したのだろう。同じような全集が2つあるのはそういう理由だと思う。青空文庫では収録作業中の吉川英治作品が62作品あり、そのうちこれを追加したKindle本も発売されるに違いない。

 合本だと、Kindleの中が散らからなくていいし、118冊を一気に検索できるというメリットはある。それにしてもamazonの価格の付け方は絶妙だなと思う。118作品が200円なら、よく調べないでポチる人は多いだろう。

【amazon】「吉川英治全集 118巻合本版」 「吉川英治全集・111作品⇒1冊

2016/06/12(日)Money Foward

 住信SBIネット銀行が「マネーフォワード for 住信SBIネット銀行」ご利用でポイントプレゼントキャンペーンを行っている。資産管理ソフトはMoney Lookがセキュリティーの上でもベストだと思ってきたが、少し前からFirefoxではデータの取得ができなくなった(対処法はFirefoxにて自動ログイン・更新が出来ない場合にあった。なーんだ)。Edgeには元々、対応していない。IEでのみ使える。おまけにAndroidアプリでログインができない。個人的な環境によるものかもしれないが、こう不具合が多いと、ベストとは言えなくなってきた。

 Money Fowardはサーバーに金融機関のログインIDとパスワードを保存する仕様がセキュリティー的にどうかと思うが、振り込みなどの取引に必要な乱数表や取引パスワードは入力しないので必要以上に気にする必要はないだろう。だいたい、最近のネットバンキングは振り込むのに二段階認証やワンタイムパスワードが必要なところがほとんどだ。それにMoney Fowardには各金融機関への自動ログイン機能はないので、パスワードを破られても資産内容を知られるだけで実質的な被害は起きにくい。二段階認証も設定しておけば、ログインされる恐れも少ない。

 無料で使えるのは登録先10個まで。それ以上は月額500円の有料サービスになる。銀行だけなら10個もいらないが、証券やクレジットカード、電子マネー、amazonなどのショッピングサイトを加えていくと、とても10個では足りない。かといって月額500円は高い。銀行と証券と、よく使うカード2枚の10個を登録した。10個使ってしまったので財布が登録できなくなったが、家計簿機能は「うきうき家計簿」を使っているので不要だ。

 資産の一覧性はMoney Lookより見やすい。Money Lookではできない宮崎銀行の明細取得ができる点も良い。銀行などの明細から自動で収入と支出を記録していくのが優秀で、これはMoney Lookにはない。プレミアム機能がせめて月額300円ぐらいになれば、もっと利用するんですけどね。

 と、ここまで書いて、ふと思って、auスマートパスを探したら、マネーフォワード for auスマートパスがあるじゃないか。スマホには住信SBIネット銀行版とは同時にインストールできない(できても使えない)ので、アンインストールして登録しなおした。これで全部の金融機関とカード、電子マネーなどが登録できた。僕は現金での支払いよりもカードや電子マネーでの決済が多いので、これでほぼ自動で家計簿が付けられるようになった。これはけっこう便利かもしれない。

 一つだけ要望を書いておくと、一括更新で更新しない口座が指定できると良いと思う。モバイルSuicaは画像認証があり、手動で文字を入れなくてはいけないのだ。僕の場合、Suicaの使用機会はごく少ないので、口座を登録から外すことにした。

2016/06/04(土)キネマ旬報の定期購読料値下げ

 KINENOTEのメルマガで案内が来た。7月下旬号からのリニューアルに伴い、「学割を含む定期購読料を値下げ」するそうだ。以下のようになるとのこと。

●これまでの定期購読料金(税抜き)

半年(12冊)9,889円

1年(24冊)19,778円

2年(48冊)33,620円

3年(72冊)44,500円

学割(1年間のみ)15,822円

●これからの定期購読料金(税抜き)

半年(12冊)廃止

1年(24冊)18,360円

2年(48冊)32,640円

3年(72冊)42,840円

学割(1年間のみ)12,000円

 僕は毎年1年間の購読料金を払ってきたが、あらためて料金を見てみると、3年契約にした方が随分安い。キネ旬は1冊税込み918円。1年契約では現在1冊あたり891円。新料金は1冊あたり827円になるが、3年契約にすると、643円だ。これは3年契約にするしかないでしょう。

 キネ旬を最初に買ったのは40年ほど前で、その頃の価格は1冊500円だった。当時購読していた「ロードショー」(休刊した)より小さく薄い(記事量は多かったが)のに価格は100円か200円近く高かった記憶がある。新料金の学割は1冊あたり税込み540円になる。40年前と同じぐらいの価格設定というのは大盤振る舞いと言って良い。学生の皆さん、購読してください。といっても、学生にとって一度に1万2960円の支払いは安くないよなあ。

 キネ旬を毎号欠かさずに買うようになったのは1978年から。郵送で定期購読するようになって20年ほどになると思う。最近は定期購読者へのサービスが向上した気がする。先日は「午前十時の映画祭」のプログラムをもらったし、アンケートに答えて「表紙でふりかえるキネマ旬報」と「キネマ旬報ベスト・テン個人賞60年史1955-2014」をもらった。プレゼントに応募して5000円の図書カードが当たったこともある。プレゼントの当選確率が高いということは応募者が少ない=定期購読者もそんなに多くない、ということになるんだろうか。キネ旬に限らず、雑誌も本も売れない時代なので、値下げは少しでも購読者を増やすためなのだろう。

 気になるのは7月下旬号からのリニューアル。長い映画評の「読む映画」が5月下旬号で終わってしまってがっかりしたが、こういう軽い方向へのリニューアルは勘弁してほしいと思う。映画評はある程度長くないと面白くない。