2016/06/02(木)個人型DCを利用しない手はない

 インデックス投資方面では有名な2人、経済評論家の山崎元さんと日経の田村正之さんが1日、ともに個人型確定拠出年金(DC)に関する記事を書いていた。ダイヤモンドオンラインの「絶対儲かるうまい話」が本当にあった!確定拠出年金が激変|山崎元のマルチスコープと日経朝刊の「隠れた税優遇」普及へ機運 確定拠出年金、主婦らも対象に 法改正、金融機関も動く。5月24日に成立した「確定拠出年金法等の一部を改正する法律」に関して解説した記事だ。2日には大江英樹さんもNIKKEI STYLEの連載で取り上げていた(誰でも利用できる、最強の老後資産形成)。それぐらい大きなトピックであるわけだ。

 これまでの個人型DCは対象が限られていたが、その制限が撤廃され、来年1月からはほとんどの労働者が対象となる。確定給付年金(DB)や企業型DCに加入している人、公務員や主婦も個人型DCを利用できるようになる。もちろん、年金制度のない会社に勤めている人や非正社員の労働者も対象だ。積立金の年額に制限はあるにしても、これは大きい。

 個人型DCのメリットは掛け金が控除の対象になること。山崎元さんが「絶対儲かるうまい話」と書いているのはそのためだ。同じ所得控除でも、ふるさと納税よりもお得だし、運用益が非課税のNISA口座よりもメリットが大きい。唯一のデメリットは60歳まで受給できないこと。個人型DCはあくまで老後のためのものなので仕方がないが、20代や30代にとっては結婚やマイホーム購入などまとまったお金が必要になることがあるだろう。だからNISA口座・特定口座での運用や貯蓄と併用した方が良い。

 公的年金がなくなることはないと思うが、少子高齢化の進行で将来、支給額が減ることは避けられない。自衛のために足りない分を補填する金融資産を自分で作っておく必要がある。その場合に個人型DCは最も有用な制度だし、60歳まであと数年しかないよ、という人にも節税のメリットがある。確定給付年金や企業型DCに加入している人でも年間14万4000円分の所得控除があるのだ。始めない手はないと思う。

 法案が成立したばかりなので詳しい解説をしたサイトはまだ少ないが、厚生労働省のサイトに法案の内容を解説したPDF(確定拠出年金法等の一部を改正する法律案)があり、これが一番参考になった。

 運用先は手数料の安いネット証券が最も良い(銀行などは論外)。例えば、SBI証券はこの法改正を見込んでのことだと思うが、4月に個人型DCの運用商品を20本増やした。個人型年金プラン運用商品一覧を見ると、手数料の安い商品もそろっていて、どの投信で運用するか検討したい。

 このエントリーの続きは個人型確定拠出年金加入の分岐点

2016/05/28(土)「ルーム」

「ルーム」パンフレット

 狭い部屋に7年間監禁された母親ジョイ(ブリー・ラーソン)とその子どもジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。ジャックは5歳になったばかりだ。ジョイはこの部屋でジャックを産んだ。ジャックの父親はジョイを拉致した犯人でオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)と呼ばれる(本名は分からない)。部屋の中で物語が進行する前半を見ながら思ったのは、この状況は暴力的な夫から支配され、逃れられない母子と容易に置き換えられるということ。そして、部屋の中が世界のすべてと思っている子どもはSFにありそうな存在だということだ。

 エマ・ドナヒューの原作は部屋の中を描く「インサイド」と脱出後を描く「アウトサイド」の構成になっているそうだ(この原作、2014年に文庫が出たが、現在絶版で読めない。映画公開に合わせて復刊できないのは出版不況のためか)。ブッカー賞の候補になったという原作が面白いのだろうが、この構成を踏襲した映画も見ていて前のめりになるぐらい面白い。前半と後半で面白さの質も異なる。

 部屋は3.3平方メートルしかないらしい。トイレと浴槽、台所設備はあるが、窓は空しか見えない天窓だけ。ドアは暗証番号を入れないと開かない。閉所恐怖症の人には耐えられないような狭さだ(ジョイが大声で叫ぶ場面がある)。外の世界を知らないジャックはテレビの内容を本物ではないと思っている(そう教えられている)。本物なのは自分と母親だけ。ジョイはそんなジャックを頼みにして「モンテ・クリスト伯」を参考に脱出計画を立てる。

 この中盤の場面がとてもスリリングで感動的だ。高熱を出した(ふりをした)後、オールド・ニックに死んだと思わせたジャックは絨毯にぐるぐる巻きにされてピックアップトラックに乗せられる。走り始めて3回目に一時停止したところでトラックを飛び降りるが、オールド・ニックに気づかれ、捕まってしまう。そこに通報を受けた警官がやって来る。女性警官パーカー(アマンダ・ブルーゲル)はジャックの話を根気よく聞いて、母親が監禁されているらしい場所の手がかりを得るのだ。

 ここから映画は社会に復帰した母子を描く。ジョイの両親(ウィリアム・H・メイシー、ジョーン・アレン)は離婚し、母親は別の男と暮らしていた。17歳で拉致され、社会と隔絶された7年間を過ごしたジョイは徐々に精神的にまいっていく。ジャックは初めて知る世界の大きさを少しずつ理解し始める。ジョイの父親は犯人の子どもであるジャックをまともに見られない。ジョイは7年間を耐えられたのはジャックがいたからこそで、ジャックに父親はいないと思っている。映画がキワモノにならず、心を揺さぶる作品に仕上がったのは母子を見つめ続ける視点に揺るぎがないからだ。

 「ショート・ターム」(2013年)で注目されたブリー・ラーソンはこの映画でアカデミー主演女優賞を受賞した。確かに好演しているが、同賞にノミネートされた「キャロル」のケイト・ブランシェットや「さざなみ」のシャーロット・ランプリングに比べて演技的に際立って優れたところはないように思う。映画の出来がとても良かったことが受賞につながったのではないか。ラーソンよりもジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの方が映画を支えている感じだ。監督はこれが長編5作目のレニー・アブラハムソン。脚本に原作者が加わったことも功を奏したのだろう。

2016/05/27(金)創刊60周年

 ミステリ・マガジンのこと。創刊は1956年7月号だそうで、2016年7月号で創刊60年になった。ミステリ・マガジンを毎号欠かさずに買うようになったのは1983年ごろからだから33年。半分強は読んでいることになる。といっても掲載されている短編はほとんど読まない。コラムと書評目的で毎号買っている。

 今号には過去に掲載したコラムが再録されていて、都筑道夫さんの「読ホリデイ」とか青木雨彦さんの「共犯関係」とか瀬戸川猛さんの「夢想の研究」とか懐かしくてたまらない。「読ホリデイ」はディーン・クーンツの「十二月の扉」を取り上げていて、クーンツとスティーブン・キングの比較に関しては今読んでもそのまま通じる。年月がたったからといって、通用しなくなるような批評は批評とは言えないのだ。

 懐かしいのはいいのだが、初掲載がいつなのか書かれていないのは残念。これはしっかり書いておいてくださいよ、早川書房さん。

 僕が購読し始めて間もないころ、ミステリ・マガジンは長編分載を始めた。その頃に読んで、文庫になってまた読んで、昨年新訳で再刊されてまたまた読んだのがマーガレット・ミラーの「まるで天使のような (創元推理文庫)」。ミステリ・マガジン掲載時に「パトリック、パトリック、オー・マイ・ゴッド、パトリック!」の場面で言いようのない感動を覚えた。昨年読み返した時にはこの場面の衝撃は分かっていたが、そこに至るまでの小説のうまさに感心させられた。この1作でミラーは夫のロス・マクドナルドの業績に匹敵すると思う。

 それにしても、ミステリ・マガジンが隔月刊なのは物足りない。そろそろ月刊に戻してはどうでしょうかね。

2016/05/24(火)ドラマ「深夜食堂」

 amazonプライムビデオに「深夜食堂」の第2シーズンまでが入ったので、毎日1、2話ずつ見ている。ほとんど見たと思い込んでいたが、それは第2シーズンと第3シーズンの方で第1シーズンはあまり見ていなかった。第5話「バターライス」とか、第6話「カツ丼」とか、しみじみといい話だなと思う。

 「バターライス」はグルメ評論家(岩松了)にまつわる話。「めしや」に連れてこられた評論家が、流しの歌手ゴローさん(あがた森魚)がバターライスを食べるのを見て、自分も食べる。それ以来、「めしや」によく来るようになる。実は評論家とゴローさんには貧しい頃にあるつながりがあった。

 バターライスはご飯にバターを乗せて、30秒待ち、醤油を少しだけかけたもの。料理と言うには簡単すぎるのだけれど、そういう食べ方、つましい食事が思い出につながるものなのだ。幼い頃によく食べた料理は郷愁を呼び起こす。韓国や台湾でも人気を集め、独自にドラマ化もされているのは、食に関する思いがどの国でも共通するからなのだろう。

 去年の映画も良かったが、好評を受けて「続・深夜食堂」が11月に公開されるそうだ。これは楽しみ。ドラマの方はNetflixで10月から始まるとのこと。できれば、地上波でやってほしかったけど、これだけでNetflixに入ろうかという気になる。

【amazonビデオ】深夜食堂

2016/05/21(土)「アイアムアヒーロー」

「アイアムアヒーロー」パンフレット

 漫画家アシスタントの主人公・鈴木英雄(大泉洋)が同棲していた恋人てっこ(片瀬那奈)から追い出されたアパートに行き、郵便受けから中を覗くと、ベッドに寝ていたてっこが体をくねらせたありえない動きで玄関まで這ってきて、鍵のかかったドアをぶち破って襲ってくる。ここから漫画家(マキタスポーツ)の家での惨劇→通りのあちこちでゾンビに襲われる人々のパニック→タクシーで逃げたら同乗の男がゾンビ化→噛まれた運転手もゾンビ化→高速道路を暴走するタクシーが横転と、すごい疾走感で映画は進む。前半は快調そのものだ。

 ゾンビはZQN(ゾキュン)と呼ばれ、そのウイルスは風邪のように感染するらしい。空気の薄い所では感染しないと聞いた英雄はタクシーに同乗した女子高生の比呂美(有村架純)と富士へ向かう。比呂美は近所の赤ちゃんに噛まれており、半分ZQNになってしまう。この半分というのはウェズリー・スナイプス主演「ブレイド」(1998年)など他の作品にもよくある設定で、他の例に漏れず比呂美は超人的な力を発揮する。富士の裾野のショッピングモールに行くと、そこには元看護士の藪(長澤まさみ)らZQNを逃れてモールの屋上に住む集団がいた。リーダーの伊浦(吉沢悠)に統率された集団かと思えたが、仲間割れが始まる。

 韓国の閉鎖されたショッピングモールでロケしたという後半は、よくあるゾンビもののパターンになっていくのだが、それでもゾンビの描写はオリジナリティーにあふれる。クモのような動きのゾンビがいたり、走り高跳び選手で頭を凹ませたゾンビがいたりする。動作も素早いものからゆっくりふらふらしたものまでさまざまだ。もちろん、噛まれて感染するのはゾンビ映画のお約束。頭を砕けば、絶命するのもお約束だ。そうしたゾンビ映画のルーティンを守りながら、これだけのオリジナリティーを出したのは大したものだと思う。

 従来のゾンビ映画やテレビドラマ「ウォーキング・デッド」などではゾンビの造型に関しては同工異曲で、違いは動くのが速いか遅いかぐらいしかなかった。海外の3つの映画祭で評価されたのは、ゾンビのオリジナリティーと前半のスピード感のためだろう。大量に作られてやり尽くした観のあるゾンビ物のジャンルでもまだやれることはあるのだなと感心した。

 花沢健吾の原作は家に1巻だけあったので見る前に読んだ。アシスタントの日常の中に異変が2つほどあり、英雄がアパートに行くところまでが描かれる。その先を読まなかったのは映画を見る上では正解だったかもしれない。ZQN化したてっこの変貌ぶりと動きは想像を超えていた。

 佐藤信介監督の「GANTZ」(2011年)では容赦ない血みどろ残虐描写にびっくりしたが、この映画の後半はそれが延々と続く。それだけでなく、ユーモアも随所にあるのは主演を大泉洋にした効果だろう。話があまり進まないのが残念だが、原作もまだ完結していないのだから、仕方がない。このスタッフ、キャストで続きを撮ってほしいものだ。