2026/01/04(日)「教場 Reunion」ほか(1月第1週のレビュー)
さっそく第3シーズンを見始めたばかりだった「窓際のスパイ」を見てみたら、字幕がクローズドキャプション(CC)しか選べません。CCは主に聴覚障害者向けの字幕で普通の会話のほか、ドアの音や音楽、誰のセリフかなどが分かる説明が入ります。逆にほかの映画は普通の字幕しかなく、CCは選べません。うーん、これもおかしな仕様ですね。普通の字幕とCCの両方から選べるようにするのが理想でしょう。ドラマにCCしかないのは日本語吹き替え版で見る人が多いだろうという考えなんでしょうかね。
「教場 Reunion」
長岡弘樹原作のテレビドラマの後を受けて脚本・君塚良一、監督・中江功で映画化したNetflix作品。Reunion(再集結)のタイトルは風間公親(木村拓哉)教場の教え子たちが、シリーズ最大の凶悪犯で風間に恨みを持つ十崎(森山未來)の捜査で一堂に会することに由来しているのでしょう。物語はいつものように警察学校の新入生たちのエピソードが描かれる形で進行しますが、中盤にかつての教え子たちが集う場面、染谷将太、新垣結衣、赤楚衛二、川口春奈、白石麻衣、福原遥、大島優子らが十崎捜査の話し合いをする場面が入ることでぐっと引き締まりました。ラストは2月20日劇場公開の「教場 Requiem」につながる形で終わります。最後の場面に意外な人物を出してくるのがうまいところ。劇場版への期待が高まりました。
今回の新入生の中心になるのは綱啓永。ほかに齊藤京子、金子大地、倉悠貴、井桁弘恵、大友花恋、大原優乃、猪狩蒼弥らが出ていますが、井桁弘恵ら一部の出演者は活躍の場があまりなく、劇場版の方に持ち越されたようです。元乃木坂46の齊藤京子は最初にドラマ「泥濘の食卓」(テレ朝系)に出た時は演技が不安定でしたが、ドラマ出演を重ねてだんだん巧くなった感があります。今月公開の「恋愛裁判」(深田晃司監督)も楽しみです。
これを見ていなくても劇場版は分かる作りになっていると思います。もちろん、見ておいた方が楽しめるでしょう。
画面に出たタイトルは「教場III Reunion」となってました。第3シーズンにあたりますからね。2時間30分。
「ナイブズ・アウト ウエイク・アップ・デッドマン」
ダニエル・クレイグが名探偵ブノワ・ブラン役を演じる本格ミステリーシリーズ第3弾。昨年9月にカナダのトロント国際映画祭で上映された後、各地の映画祭や一部の国で劇場公開し、12月12日からNetflixで配信が始まりました。田舎町の教会で司祭(ジョシュ・ブローリン)が密室的な状況下で殺される。教会の中には地域の住民たちがいたが、赴任したばかりの若い神父(ジョシュ・オコナー)が一番近くにおり、司祭と不仲だったためもあって容疑がかかる。警察の要請を受けたブノワ・ブランが捜査を始める中、もう一つの殺人事件が起こる。
2つの殺人はいずれも不可能犯罪と呼べるもので、特に2番目の事件はタイトル通り、死者が死体安置所のコンクリートを砕いて登場し、殺人を犯すというもので興味を引きます。脚本・監督はライアン・ジョンソン。ジョン・ディクスン・カーの名作「三つの棺」への言及シーンがあるなど、ジョンソン監督の本格ミステリー好きがうかがえました。4作目の構想もあるとか。
出演はほかにグレン・クローズ、ジェレミー・レナー、ミラ・クニス、アンドリュー・スコット、ケリー・ワシントン、ケイリー・スピーニーら。スピーニーは車椅子で登場し、「エイリアン:ロムルス」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」とは違った魅力を見せています。
IMDb7.4、メタスコア80点、ロッテントマト92%。2時間24分。
2025/12/28(日)「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」ほか(12月第4週のレビュー)
「世界一不運なお針子の人生最悪な1日」

スイスの山中にある小さな町。お針子のバーバラ(イヴ・コノリー)は母を亡くし、譲り受けた“喋る刺繍”の店は倒産寸前だったが、相談できる友人も恋人もいなかった。ある日、常連客との約束に遅刻した上に、ボタンを落としてなくすミスをして激怒させてしまう。愛車のフィアット500(チンクエチェント)でボタンを取りに店に戻る途中、バーバラは麻薬取引の現場に遭遇。売人の男2人が血まみれで倒れ、道には白い粉入りの紙袋、拳銃と大金の入ったトランクがあった。バーバラは「完全犯罪(横取り)」「(警察に)通報」「直進(見て見ぬふり)」の三つの選択肢を思い浮かべる。
元になった短編はYouTubeで公開されています。
ジョエル・コーエンに言われてマクドナルド監督は長編化しようとしますが、脚本を22回書き直してもダメだしをされたそうです。そこで原点に立ち返って、3つの選択肢のアイデアを思いついたとのこと。この経験は映画に活かされていて、3つの選択肢のどれでもないハッピーで含蓄のある結末へと向かいます。人間、追い詰められると視野が狭くなってしまいがちですが、実はもっと別の方法があったりするわけです。そんなことを考えさせるうまいラストだと思いました。
IMDb6.0、ロッテントマト95%(アメリカでは映画祭で上映)。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午後)
「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」

超大型台風が連続発生する中、内閣総理大臣・長内洋次郎(石丸幹二)は災害対策会議に10分遅れて到着する。長内総理はその「空白の10分」を糾弾する暴漢に襲撃された。警視庁は総理を襲った森下弘道(佐々木蔵之介)を取り調べるため、キントリを緊急招集する。真壁有希子(天海祐希)らキントリチームは取調べを始めるが、森下は犯行動機を語らないどころか、取調室に総理大臣を連れて来いと無謀な要求を繰り返す。総理と森下の関係を調べるうちに35年前のヨット遭難事件が関係していることが分かる。
間延びした部分はありませんが、この事件だけで2時間持たせるのは少し苦しくも感じます。警察が舞台でも複数の事件が並行して起こるモジュラー型にしにくいのが難しいところです。
Finalと銘打っているようにキントリチームは解散しましたが、以前も解散してましたし、いつでも再招集はできるので復活しても良いんじゃないでしょうかね。監督はテレビシリーズも担当した常廣丈太。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間1分。
「映画ラストマン FIRST LOVE」

テレビシリーズも担当した黒岩勉の脚本は面白くなりそうな要素と物語展開を備えていますが、演出に少し問題があるようです。詳細は避けますが、月島琉衣の役柄は本来なら20代半ばぐらいの女優の方が説得力があったと思います。クライマックスにしても、あの2人がどうやって助かったのかの説明は必要でしょう。
とはいっても、福山雅治と大泉洋のコンビのおかしさに女性客は笑ってましたし、それなりに満足度はあったんじゃないでしょうか。監督は平野俊一。
▼観客15人ぐらい(公開初日の午後)2時間7分。
「火の華」

パンフレットにそう書いてあるので「クーデター」と書きましたが、映画の描写からは単なる人質事件としか思えないのが残念なところ。人質2人を別々の場所に監禁し、どちらを助けるかを迫るこのクライマックスは恐らく「ダークナイト」(2008年、クリストファー・ノーラン監督)のクライマックスを参考にしたのでしょう。「ダークナイト」の場合、バットマンは1人なのでどちらを助けるか選ぶ必要がありましたが、この映画、警察が手分けして両方助ければ良いだけことなので、設定が意味をなしていません。どうも脚本の詰めの甘さが気になりました。
本当なら「パトレイバー2」が描いたようなスケールの大きなクーデター(TOKYOウォーズ)を描きたかったはず。それにはもっと製作費が必要で、それができないなら、説得力のある別の物語を考える必要があったと思います。
監督は「ジョイント」(2020年)の小島央大。主演は同じく「ジョイント」主演の山本一賢。脚本はこの2人の共同となっています。ハードな内容なのに観客はなぜか女性客が多かったです。タイトルからロマンティックな映画と誤解したのか、あるいは冨永愛の第二子妊娠で名前が出た山本一賢が目当てだったのか(それはないか)。
▼観客10人ぐらい(公開5日目の午後)2時間4分。
「モンテ・クリスト伯」

エデという女性が途中から出てきてダンテスに協力するんですが、どういう素性なのか説明されるのは終盤。これは分からないでもないんですけど、演じるアナマリア・ヴァルトロメイ(「あのこと」「ミッキー17」「タンゴの後で」)がとても魅力的なので気になりました。
このエデは原作とは設定が異なるようです。原作未読なので詳しく分かりません。というわけで光文社の新訳版の1巻を読み始めました。2巻の刊行は来年1月。半年に1度のペースで刊行していくようです。
IMDb7.6、メタスコア75点、ロッテントマト97%。
▼観客5人(公開21日目の午後)2時間58分。
2025/12/21(日)「シャドウズ・エッジ」ほか(12月第3週のレビュー)
劇場限定で公開されているのが「アベンジャーズ ドゥームズデイ」のティーザー映像。内容はスティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカが帰ってくるというもの。「アベンジャーズ エンドゲーム」(2019年)で高齢の老人になったのに、どうやって帰って来るのでしょう? まあ、「アベンジャーズ」シリーズはタイムトラベルもマルチバースもありですから、どうやってでも帰ってこられるんですけどね。こちらは来年12月公開予定です。
「シャドウズ・エッジ」

マカオが舞台。華やかな街の裏側で正体不明のサイバー犯罪集団が暗躍していた。警察はなす術もなく、追跡のエキスパートであるホワン・ダージョン(ジャッキー・チェン)を呼び戻す。ホワンは現役を退いていたが、若き精鋭たちとチームを組み、最新テクノロジーと旧式の捜査術を駆使して、影(シャドウ)と呼ばれる犯罪集団のボスで指名手配犯の元暗殺者フー・ロンション(レオン・カーフェイ)を追う。
冒頭の犯人グループと警察との死闘から見せ場は十分。犯人たちは格闘でも警察以上の力を持っていて、逃走途中で変装し、戦い、タワーからパラシュートで逃げていきます。格闘とアクロバティックなアクションを盛り込んだスピーディーな組み立てが見事でした。
犯人たちに完敗した警察は追跡班を組織するために、既に退職しているホワンを呼ぶというのがスムーズな展開になっています。ホワンと組むのはかつての相棒の娘ホー・チウグオ(チャン・ツイフォン)。チウグオは父親が死んだのはホワンのせいだと思っていて、最初は反発しますが、次第に理解を深めていきます。アクションもできるチャン・ツイフォンは「少年の君」(2019年、デレク・ツァン監督)のチョウ・ドンユイに似ていて、中国ではこういうルックスに人気あるのでしょうね。
ジャッキー・チェンは格闘とアクロバティックなアクションのどちらもできる人でしたが、さすがに71歳ともなると、「プロジェクトA」(1983年、監督もジャッキー・チェン)で見せた高所から落ちるようなアクロバット系のアクションは無理。しかし、70代でこの格闘アクションができる俳優はほとんどいないでしょう。敵役のレオン・カーフェイは67歳。アクション俳優ではありませんが、ナイフを使った凄みのある格闘でジャッキーと対等に渡り合っています。
脚本・監督は「ライド・オン」(2023年)のラリー・ヤン。構成を練り、テンポを変え、2時間17分の上映時間を飽きさせません。含みを持たせたラストだったので続編も作る予定なのでしょう。楽しみに待ちたいです。
IMDb7.2、ロッテントマト80%。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午後)2時間21分。
「ネタニヤフ調書 汚職と戦争」

汚職捜査が進む段階で、2023年10月、ハマスによるイスラエル攻撃がありました。ネタニヤフは反撃のためガザを徹底的に破壊しますが、戦争状態に入ったことで汚職捜査は中断しました。悪運が強い男であり、戦争を終わらせれば捜査が再開されるので、戦争を長引かせたという指摘もあります。今は一時的に攻撃をやめていますが、これで本当に平和が訪れるかどうかは分かりません。ガザ以外の他国への攻撃を始める可能性もあるでしょう。
ネタニヤフは恩赦の申請を計画しているようです。まだ有罪判決が出たわけではないので恩赦なんてできるはずがありません。捜査の行方を見守る必要があります。監督はアレクシス・ブルーム。
IMDb7.6、メタスコア73点、ロッテントマト95%。
▼観客10人ぐらい(公開4日目の午後)1時間55分。
「ブルーボーイ事件」

手術によって身体の特徴を女性的に変えたブルーボーイと呼ばれるセックスワーカーの取り締まりに警察は頭を悩ませていた。現行の売春防止法では摘発対象にはならないからだ。そのため警察は生殖を不能にする手術が「優生保護法」に違反するとして、手術を行った医師の赤城(山中崇)を逮捕する。喫茶店でウェイトレスとして働くサチ(中川未悠)も赤城医師から性別適合手術を受けていた。サチは恋人の若村(前原滉)からプロポーズを受けたところだったが、弁護士の狩野(錦戸亮)が訪れ、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する。
飯塚花笑監督をはじめトランスジェンダーを演じる俳優は実際のトランスジェンダーの人たちだそうです。
▼観客5人(公開5日目の午後)1時間46分。
「アバター ファイヤー・アンド・アッシュ」

惑星パンドラで人類に立ち向かったジェイク・サリー(サム・ワーシントン)はナヴィ族の妻ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と息子のロアク(ブリテン・ダルトン)、娘のトゥクティレイ(トリニティ・ジョリー・ブリス)、養女キリ(シガニー・ウィーバー)、クオリッチ大佐(スティーブン・ラング)の息子スパイダー(ジャック・チャンピオン)と暮らしていた。ジェイクはスパイダーの安全を考え、科学者たちの元へ送り届けようとする。旅の途中、一家はヴァラン(ウーナ・チャップリン)率いるマンクワン(別名アッシュ)族の攻撃を受け、旅は中断。人間とナヴィのハイブリッドであるクオリッチ大佐はヴァランと手を結び、ジェイクたちを襲ってくる。
クライマックスは人間とマンクワンの連合対ジェイクとナヴィ族連合との戦いが空と海で繰り広げられます。ここは見応えはあるんですが、これまでの2作で見たのと同じような場面と感じられてしまいます。物語はこれで終わっても何ら問題はなさそうですが、ジェームズ・キャメロン監督は全5部作の構想を発表しており、次作は2009年公開予定になってます。前作と今作の違いは大きくはなく、新機軸を打ち出せないなら作る必要はないんじゃないでしょうかね。
IMDb7.6、メタスコア62点、ロッテントマト69%。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午前)3時間17分。
「ひとつの机、ふたつの制服」

主人公のシャオアイ(チェン・イェンフェイ)は父親を事故で亡くし、母と妹の三人暮らし。受験に失敗しますが、母親の勧めで同じ高校の夜間部に入学します。シングルマザーの家庭で裕福ではないことも母親が夜間部進学を勧めた理由でした。捨ててあった家具を拾ってきたりして節約に努める母親をシャオアイは理解できず、「なぜそんなに節約ばかりするの」と聞きます。母親は「節約であなたたちの未来が見える」と答えます。
大学進学など今後の娘2人の学費と自分の老後のために節約するという母親の考えは真っ当で揺るぎがありません。映画は同じ机を共有する全日制のミンミン(シャン・ジエルー)と仲良くなったシャオアイが差別に遭ったり、引け目を感じたりしながらも、それを克服する様子を描いています。それができたのはこの母親の存在が大きいでしょう。
映画で描かれる夜間部は日本の定時制とは少し異なるように思えますが、それはこの時代、シャオアイのように全日制に落ちた生徒が入学するケースが多かった(他校に行くより名門の夜間部を選択するケースが多かった)ためとのこと。今は昼間働いて夜学ぶ日本の定時制と同じような形になってきたそうです。
▼観客5人(公開7日目の午後)1時間49分。
2025/12/07(日)「ペリリュー 楽園のゲルニカ」ほか(12月第1週のレビュー)
明治維新後の武士たちが死闘を繰り広げる「イクサガミ」ではプロデューサーとアクションコーディネーターも務めていますが、このアクションのレベルの高さは世界に届いているだろうなと思えます(IMDbの評価は7.6、ロッテントマト100%)。殺陣のスピードが段違いに速いです。実写版「るろうに剣心」シリーズもアクションに感心しましたが、あの映画で使った撮影用の安全な刀は岡田准一のスピードで振ると、しなってしまって使えないのだとか。第6話の伊藤英明との死闘で火だるまになるシーンはCGかと思ったら、本物の火を使ったそうです。
ドラマ化が決まる前から今村翔吾は「Netflixと岡田准一でなければ実写化は難しい」と語っていたそうです。その期待を上回る出来だと思います。山田孝之が出てきてすぐに殺されるなどキャストの贅沢な使い方をしていて、阿部寛、染谷将太、早乙女太一、遠藤雄弥、玉木宏、濱田岳、東出昌大、宇崎竜童など錚々たる男性キャストに混じり、清原果耶がクールビューティーな魅力を見せて秀逸。清原果耶、笑顔を振りまく役よりこういうクールな役が似合ってます。
6話かけても物語は全然終わらず、早く続きを作ってくれいと思ってしまいます。6話の最後の方で滅法強い横浜流星が出てくるあたり、藤井監督の作品らしいですね。
「ペリリュー 楽園のゲルニカ」

1万人の日本兵のうち34人しか生き残らなかった太平洋戦争の激戦地ペリリュー島の戦いを描くアニメーション。武田一義の原作コミック(全15巻)を「化け猫あんずちゃん」「トリツカレ男」など傑作映画の発表が続くシンエイ動画が製作しました。キャラクターデザインは原作と同じく漫画チックな三頭身ですが、戦場の地獄図を描いて今回もレベルの高い作品に仕上がっています。監督は久慈悟郎。漫画家志望の主人公・田丸均の声を板垣李光人、同期で射撃がうまい吉敷佳助を中村倫也が演じています。
生き残った34人について、僕は組織的戦闘が終わったと同時に投降したと思っていました。そうではなく、島の日本兵たちは終戦後も2年近く、敗戦を知らず(信じず)、島に潜伏して作戦を続けていました。
原作は15巻のうち10巻がペリリューでの戦い。11巻がペリリューから帰って戦後を生きた主人公の話、12巻から15巻は外伝となっています。ペリリューの司令部が玉砕し、組織的戦闘が終わった11月27日までが4巻の初めまで、終戦は7巻、34人が投降するのが10巻で、映画が描いたのは10巻までということになります(というわけで10巻までと外伝を1巻読みました)。もちろん、全部を描けるわけはなく、改変もあります。例えば、米軍から手に入れた口紅をこっそり塗っていた泉康市(声:三上瑛士)は映画では病死しますが、原作では米軍に見つかって射殺されます。洞窟の入り口をセメントで固められて生き埋めにされた日本兵が(たぶん)仲間の死体を喰って生き延びたエピソードも映画にはありません。
そうしたエピソードがなくても、原作のエッセンスを十分に伝える内容になっています。これは原作者自身が脚本に加わったことが大きいのでしょう。前半の戦闘はもう少し長い方が良いような気もしましたが、原作10巻の構成を考えれば、映画の時間配分はそれを踏襲したものと言えます。
ペリリュー島の戦いについては2015年に当時の天皇皇后両陛下が慰霊の旅で訪問されたことで広く知られるようになりました。その訪問のきっかけとなったのは前年8月に放送されたNHKスペシャル「狂気の戦場 ペリリュー “忘れられた島”の記録」だと思います。当時、僕は見ていなかったので先日、NHKオンデマンドで見ました。米軍の記録映像と生き残った旧日本兵(いずれも90代)のインタビューで構成してあり、第二次大戦中最悪と言われた米軍側の被害の多さと深刻さもよく分かる内容。接近戦の殺し合いや負傷者を運ぶ兵士への銃撃、戦闘のショックで精神に異常を来す米兵も描かれ、“狂気の戦場”というタイトルが大げさではなく、やり切れない思いになる傑作でした。
ペリリューの戦いから旧日本軍はサイパンやグアムでの戦いのようなバンザイ突撃と玉砕を禁じ、持久戦に持ち込みます。玉砕戦を想定していた米軍は当初、3、4日で終わると考えていましたが、占領まで2カ月半もの長さを要したのはこの方針転換が原因だったそうです。この戦い方はその後の硫黄島や沖縄戦でも採用されました。日本側視点の「ペリリュー 楽園のゲルニカ」と併せて見ると、ペリリューの戦いがよく分かります。
▼観客30人ぐらい(公開初日の午後)1時間46分。
「ホーリー・カウ」

父親の事故死で幼い妹と2人だけで暮らすことになった18歳の少年を主人公にした青春ドラマ。ルイーズ・クルヴォワジエ監督の長編デビュー作で、カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門ユース賞を受賞しました。
熟成ハードチーズ・コンテチーズの故郷であるフランス・ジュラ地方が舞台。18歳のトトンヌ(クレマン・ファヴォー)は仲間と酒を飲み、パーティに明け暮れ気ままに過ごしている。しかし、チーズ職人だった父親が飲酒運転の事故で亡くなり、7歳の妹クレール(ルナ・ガレ)の面倒を見ながら、収入を得る方法を探すことになる。チーズ工房にいったん勤めるが、同僚とけんかして辞めてしまう。そんな時、チーズのコンテストで金メダルを獲得すれば3万ユーロの賞金が出ることを知り、伝統的な製法でコンテチーズを作ることを決意する。
そんなに簡単に優勝できるほどのチーズが作れるはずはなく、仲間と一緒に始めたチーズ作りは失敗の連続。その過程でトトンヌは酪農場を切り盛りするマリー=リーズ(マイウェン・バルテルミ)と知り合います。キャストはすべてジュラ地方の演技未経験の若者たちだそうです。物語としては何も解決しませんが、彼らの演技には素人とは思えない充実度がありました。
タイトルの「Holy Cow」は直訳では「神聖な牛」ですが、「マジかよ!」「なんてこった!」など感嘆を表す言葉だそうです。
IMDb7.0、メタスコア83点、ロッテントマト98%。
▼観客10人ぐらい(公開5日目の午後)1時間32分。
「兄を持ち運べるサイズに」

村井理子の原作「兄の終い」を中野量太監督が映画化。笑いはこれまでの作品より控えめですが、中野監督らしい家族を描いた作品になっています。
作家の理子(柴咲コウ)の元に、何年も会っていない兄(オダギリジョー)が死んだという知らせが入る。発見したのは兄と住んでいた息子・良一(味元耀大)。東北へ向かった理子は警察署で7年ぶりに兄の元妻・加奈子(満島ひかり)とその娘の満里奈(青山姫乃)と再会する。兄たちが住んでいたアパートはゴミ屋敷と化しており、3人で片付けることに。マイペースで自分勝手な兄に幼い頃から振り回されてきた理子が兄の後始末をしながら悪口を言い続けていると、同じように迷惑をかけられたはずの加奈子が、もしかしたら理子の知らない兄の一面があるかもしれないと言う。
母にお金をせびりながらも、病気になった母を見捨てた兄を理子は長い間嫌っていましたが、“持ち運べるサイズ”にする段階(つまり葬儀を済ませ、火葬にする段階)で、徐々に兄を理解するようになります。理解はしても、長年の確執がきれいさっぱり消えるかというと、そんなことはないような気もします。
オダギリジョーはクズ男を演じさせたら、めちゃくちゃ巧いですね。柴咲コウと映画で共演するのは「メゾン・ド・ヒミコ」(2005年、犬童一心監督)以来じゃないでしょうか。
▼観客20人ぐらい(公開4日目の午後)2時間7分。
「ナイトフラワー」

出て行った夫の借金を背負い、2人の子どもを育てる苦境のシングルマザーが合成麻薬の売人になるサスペンス。主演の北川景子と女性格闘家を演じる森田望智の頑張りが目立つ映画ですが、ラストの曖昧さが残念すぎます。
こういうラストを描きたいのであれば、それにつながる筋立てを考えればすむだけのこと。絶対にそうはならない展開で、このラストを唐突に持ってくるのは説得力を無視して物語を投げ出しているとしか思えません。
脚本・監督は「ミッドナイトスワン」(2020年)などの内田英治。北川景子の娘・小春を演じる渡瀬結美は実際にバイオリンが弾けるそうで、劇中の演奏シーンも自然でした。
▼観客10人ぐらい(公開7日目の午前)2時間4分。
「見はらし世代」

母親の死をきっかけに父親と疎遠になった姉弟との関係を描くドラマ。冒頭のシーンが長々とかったるく、もっと簡潔に描けないものかと見ながら思ってました。重要な場面であることは後で分かるんですが、それにしても、作りがアマチュアの自主映画レベル。ここばかりではなく、描写の仕方としては未熟な点が目につきます。
主人公の黒崎煌代、姉役の木竜麻生の演技に助けられた部分が大きく、これがデビューの団塚唯我監督、まだまだ学ぶべきことは多いです。パンフレットとして販売されているのは文庫サイズで286ページ。ページ数が多いのでパンフではなく、本ですね。脚本を収録してあり、1800円でした。
▼観客6人(公開初日の午後)1時間55分。
2025/11/30(日)「佐藤さんと佐藤さん」ほか(11月第4週のレビュー)
今森茉耶は「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」(木村聡志監督)でヒロイン役を務めています。撮影したのはたぶん昨年で、公開中止などにならなくて良かったです。事務所から契約解除されたのは痛いですが、罪を犯したわけではないので復帰の目は十分あると思います。
さて、ミステリーはベストテンの季節。ミステリマガジン1月号に「ミステリが読みたい!2026年版」のベストテンが掲載されています。国内篇1位は櫻田智也「失われた貌(かお)」(新潮社、1980円=amazonではこの2倍ぐらいの高い価格で売ってる転売ヤーがいるので注意です)、海外篇はフリーダ・マクファデン「ハウスメイド」(ハヤカワ・ミステリ文庫、1408円)でした。国内篇は2位の山口未桜「禁忌の子」に101点の大差を付けていますが、海外篇は2位ホリー・ジャクソン「夜明けまでに誰かが」と2点差、3位アンソニー・ホロヴィッツ「マーブル館殺人事件」と6点差の接戦でした。宮崎関連では国内篇5位に新川帆立「目には目を」が入りました。
とりあえず1位の2冊を読もうと思ってます。「このミステリーがすごい!2026年版」は12月5日に発売予定です。週刊文春ミステリーベスト10もそろそろですかね。
「佐藤さんと佐藤さん」

22歳で出会って37歳で離婚するまでの男女の姿をリアルに描く天野千尋(「ミセス・ノイズィ」)監督作品。一般観客の評価があまり高くないのは辛い内容だからでしょうが、きついセリフと描写の連続はイングマール・ベルイマン「ある結婚の風景」(1974年)を彷彿させました。天野監督自身、「ある結婚の風景」と「マリッジ・ストーリー」(2019年、ノア・バームバック監督)をイメージしていたそうです。結婚が題材なら、この傑作2本を思い浮かべるのは当然でしょう。
佐藤紗千(岸井ゆきの)と佐藤保(宮沢氷魚)は大学時代に自転車置き場で出会い、同棲を始める。5年後、弁護士を目指す保は毎年、司法試験に挑戦していたが、不合格が続いていた。紗千は会社員として働いていたが、「一人で司法試験の勉強を続けるのは大変」と知人に言われたことから、保と一緒に受験勉強を始める。ところが、紗千だけが試験に合格。弁護士として働き始め、保は生まれたばかり子どもの世話をしながら勉強することに。そしてお互いのちょっとした言葉と行動に不満が積み重なっていく。
「トイレの紙がないよ」と言った紗千の言葉にイラッとして「ないよって、それ僕に買いに行けってこと」と返す保の気持ちもよく分かります。外で働く妻と、バイトはしていても自宅にいることが多い夫の構図は共働きが当たり前になった今は珍しくはないでしょう。それでも長年続いてきたジェンダーの役割固定は「女性の休日」でも描かれたように当たり前のことと思っている人はいて、保もやっぱりそういう考え方に囚われた部分があるのだと思います。
映画はそうした日常の不満やズレの積み重なりで別れることになる2人を描いていきます。オリジナルストーリーの脚本は天野監督と友人でもある熊谷まどかの共同。物語には天野監督が出産の前後に体験したことが盛り込まれているそうです。出産後は夫の収入に頼り、社会から取り残された感覚に陥ったこと、そして数年後、子どもを保育園に預けて仕事に復帰した際、夫に家事育児を任せきりになったこと。だから映画の描写はリアルなのでしょう。
岸井ゆきのも宮沢氷魚も好演しています。岸井ゆきのの親友役・藤原さくらも良いですが、宮沢氷魚の故郷の先輩で、離婚して居酒屋で働く佐々木希の生活感のある色っぽさに感心しました。きれいだけど演技には期待できないと思っていた佐々木希を見直すだけの魅力がありました。
▼観客1人(公開初日の午後)1時間54分。
「女性の休日」

昨年10月にNHK「BS世界のドキュメンタリー」で放送されたドキュメンタリーの完全版。テレビ放送時のタイトルは「女たちがいなくなった日 “男女平等先進国”アイスランドの原点」で、50分枠の放送時間を考えると、20分ぐらいのカットがあったのだろうと思います。
1975年10月24日、アイスランドの女性たちが一斉に家事や仕事を休んだ1日を当時の参加者のインタビューと記録映像などで明らかにしています。アイスランドは御多分にもれず、同じ仕事であっても女性の賃金は男性より低く、就職差別や社会のさまざまな制度で差別が行われていました。女性たちは思想信条の枠を越えて連帯し、休日という名前のゼネラルストライキに至ったわけです。ストライキと呼ぶと、保守派の女性たちの協力を得られなこといから“休日”(Day Off)としたというのが実にうまい方法で、そうしなければ国の9割の女性の参加という目覚ましい成功は得られなかったでしょう。
当時の記録映像はあまり残っていなかったため、映画はアニメーションで補足していますが、これは内容を分かりやすくする効果も上げています。
エンディングの歌を歌っているのはアイスランド出身の歌姫ビョーク。なんとビョークは女性の休日のデモに10歳で参加し、フルートを演奏したそうです。演奏シーン自体はフィルムが残っていないそうですが、フルートを持って階段を降りるシーンは残っているとのこと。
アイスランドは「女性の休日」から男女平等社会への努力を重ね、現在、ジェンダーギャップ指数で世界第1位となりました。日本は118位だそうです。
映画の原題は“The Day Iceland Stood Still”(アイルランドが静止した日)。監督のパメラ・ホーガンはドキュメンタリー映画の製作者・監督・ジャーナリスト。IMDbによると、監督としてはテレビの作品が4本、劇場用映画はこれが初めてのようです。
IMDb8.0(アメリカでは未公開)
▼観客10人ぐらい(公開初日の午後)1時間11分。
「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」
米ロック界を代表する重鎮ブルース・スプリングスティーンの若い日を描くドラマ。タイトルを聞いて、スプリングスティーンの音楽ドキュメンタリーかと勘違いしましたが、「クレイジー・ハート」(2009年)のスコット・クーパー監督による劇映画でした。アメリカでは評価高くないですが、日本では褒めてる人が多いですね。僕はスプリングスティーンについて「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」など数曲しか知らず、あまり関心はなかったんですが、映画との関わりがあることが興味深かったです。
テレンス・マリック監督の「バッドランズ」(1973年)を見て連続殺人犯チャールズ・スタークウェザーを知り、彼を歌った「ネブラスカ」を作ったほか、ポール・シュレイダー監督の依頼で「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」を書いたというのが驚きでした。シュレイダーは同名映画の製作を予定していて、スプリングスティーンに出演と歌の依頼をしたそうです。結局、スプリングスティーンは映画には出演せず、映画のタイトルを借りて歌を作ったのだとか。
パンフレットは販売していませんでした。製作の20世紀スタジオはディズニー傘下ですが、どうも20世紀スタジオの作品は冷遇されている感じがありますね。
IMDb6.9、メタスコア59点、ロッテントマト60%。
▼観客5人(公開7日目の午後)2時間。
「金髪」

校則への抗議でクラスの生徒たちが金髪で登校し、対応に困惑する教師を描くコメディータッチの作品。最初の30分ぐらいは面白く見たんですが、話があまり発展していかず、同じところをぐるぐる回っている印象。主演の岩田剛典は健闘してますが、空回り気味です。
脚本・監督は「君の顔では泣けない」の坂下雄一郎。共演は白鳥玉季、門脇麦ほか。
パンフレットはシナリオの採録が掲載され、出席簿のようなデザインも良いと思います。
▼観客2人(公開5日目の午後)1時間43分。