2003/06/10(火)「二重スパイ」

 1980年代の韓国を舞台に北朝鮮の二重スパイを描く。このタイトルはネタを割っていてあまり良くないが、映画はハン・ソッキュ(「シュリ」)の熱演と緊密な展開でまず面白く仕上がっている。ただ、監督デビューのキム・ジョンヒョン(今年30歳)の演出は欧米のスパイ映画に影響されたようで、ラストのブラジルの場面などは、やっぱりそうなるかという感じである。観客に先が読めるこの場面、不要だったのではないか。

 1980年のベルリンで1人の男が西側に亡命する。この男、イム・ビョンホ(ハン・ソッキュ)は実は北朝鮮のスパイだった。韓国の国家安全企画部の拷問に耐えたイムは安企部の団長ペク・チョンヨル(チョン・ホジン)に身柄を預けられ、武装スパイの軍事訓練教官となる。2年後、安企部の正式要員となったイムに北から指令が下る。「DJに接触せよ」。そのDJ、ユン・スミ(コ・ソヨン)もまた北朝鮮のスパイだった。ぺく団長の妻が2人を引き合わせたことから2人は恋人を装いつつ、情報交換していたが、本当に好意を抱き始めるようになる。

 見ている間は気にならなかったが、このスパイたち、大きな事件には関わってこない。これはその後のストーリー展開にも関係してくるのでやはり何か大事件(大統領暗殺未遂とか)に関わらせた方が良かったと思う。韓国に住む北の大物スパイ“青川江”(ソン・ジェホ)の逮捕のエピソードは絡むものの、ラストへの説得力にはなっていないのである。これは「シュリ」との類似を避けた結果かもしれない。

 スミは愛したビョンホを失いたくないために北の指令を伝えない。このためビョンホは北からも南からも狙われることになる。「一緒に逃げて。北でも南でもないところへ」というスミに対して、ビョンホは「反動的なことを言うな。俺たちは上から死ねと言われたら死ぬんだ」と答える。これが真意ならば、これまたラストにつながっていかないのである。そんなことを言いつつ、実はスミを深く愛していたという描写が少し欲しかった。

 ハン・ソッキュの必死な形相の演技は空回りはしていない。コ・ソヨンの清楚さも良いし、1980年代の韓国の緊迫した雰囲気を十分に伝える映画にはなっているけれど、物語はどうも細部に詰めの甘さが残る感じが拭いきれなかった。

 それにしても、「『シュリ』『JSA』そして…韓国超大作・最終章!」というこの映画のコピーはなんだ。「最終章」と断言していいのか。単に「第3弾」ぐらいにしておけば良かったのに。