2002/02/12(火)「蝶の舌」

 「地獄はあの世にあるんじゃない。人の憎しみと残酷さが作るものだ」。小学校のドン・グレゴリオ先生(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)が8歳の少年モンチョ(マヌエル・ロサノ)に話す。ラストを予告するようなセリフである。

 映画は1936年、スペイン内戦が始まろうとする時代を背景に、モンチョの目から見た村の様子が描かれていく。現政権の共和派と国王派(軍部)の間で既に不穏な空気は流れているが、田舎の村の風情はのどかだ。モンチョは喘息持ちのため学校に入学するのが遅れ、学校の先生から叩かれるのを怖がっていた。そんな心配をよそにグレゴリオ先生はモンチョを優しく包み込む。自由と自然を愛するグレゴリオ先生がじっくりと描かれると同時に、中国娘に憧れ、バンドの旅先で口のきけない娘にほのかな恋心を抱くモンチョの兄や村人たちの日常が描かれていく。

 平和な日常の描写が十分なので、それが一変するラストは強烈な印象となる。モンチョの父(ゴンサロ・ウリアルテ)が同志であるグレゴリオに向かって顔をくしゃくしゃにしながら「アカ、裏切り者、アテオ(不信心者)」と罵声を浴びせる描写には胸を打たれる。叫ばなければ、自分が殺されるのである。

 ファシズムと民主主義(共産主義)の戦い。国民を引き裂く戦いやイデオロギーに支配される時代は不幸だ。監督はホセ・ルイス・クエルダ、音楽は「オープン・ユア・アイズ」のアレハンドロ・アメナバル。マヌエル・リバスの原作は97年のスペイン文学賞最優秀賞受賞という。キネ旬7位。