2021/06/24(木)世界レベルのアクション「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」

 1年間殺しを禁じられた凄腕の殺し屋ファブルの活躍を描く2年ぶりの続編。アクションもドラマも前作を大きく上回る傑作に仕上がった。クライマックス、団地の足場を崩しながらのアクションは世界レベルに届くスケールだし、冒頭の猛スピードで暴走する車の上でのアクションも迫力とオリジナリティーに富んでいる。特徴的なのはアクション場面のスピード感で、主演の岡田准一だけでなく、木村文乃も動きが速い速い。笑いの場面も含めて映画の完成度は高く、ここ数年の邦画アクションでは間違いなくダントツの面白さだ。
「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」パンフレット

 4年前、6人の殺しを命じられたファブル(岡田准一)はワゴン車に乗った5人目を簡単に始末するが、男が倒れ伏して車は立体駐車場内を暴走。後部座席には涙ぐむ少女が乗っていた。ファブルは少女を助けようとするが、車は屋上から転落、間一髪、ファブルは少女を抱えて車から飛び降りる。2人は車の屋根に落ち、少女は気を失う。そして今、ボス(佐藤浩市)から殺しを禁じられたファブルは佐藤アキラと名乗り、相棒ヨウコ(木村文乃)と兄妹を装って普通の生活をしている。ある日、公園で車椅子の少女ヒナコ(平手友梨奈)と出会う。ヒナコは鉄棒を使い、立ち上がろうとして倒れる。それを見ていたファブルは少女に「歩けるようになる」と話す。ヒナコは4年前に駐車場でファブルが救おうとした少女であり、あの時の事故で歩けなくなったらしい。今は子どもを守るNPO団体の代表・宇津帆(堤真一)と暮らしているが、宇津帆は影で殺人も厭わない危ないビジネスを行っていた。

 「1作目を超えなければ2作目を作る意味がない」というのは「ルパン三世 カリオストロの城」(1979年)公開時のコピーだが、今回、「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」のスタッフも「前作を超える」を合言葉にしたそうだ。アクション場面が凄いのは今回から加わったアクション監督横山誠の功績かと思ったら、キネマ旬報2021年2月上旬号(1858号)の特集を読むと、岡田准一のアクションにかける熱意によるところが大きいようだ。横山誠のインタビュー記事には「本作を圧倒的に特別なものにしたのは、やはりファブルを演じた岡田の素材だった」とある。
「ロケの許可が下りて仕込みが終わった後、まず僕らアクション部でリハーサルをするんですが、岡田さん、すでにその場にいましたからね。ジャージー姿で(笑)。ふつう役者さんは本番の日に初めて現場に来るものですけど、岡田さんがリハに来てくれたのは1回や2回じゃないし、必ずそこでプラスアルファのアイデアをどんどん出してくれる。武術に関しては僕らなんかより詳しいうえに、誰よりもうまいですしね」
 岡田准一がアクションの人と認識されたのは「SP 野望篇」(2010年)「SP 革命篇」(2011年)の2部作からだろうが、それ以前の「フライ、ダディ、フライ」(2005年)でも体の動きは人並み外れていたなと今にして思う。デビューしてから25年、岡田准一は孤独に黙々とアクションに関する勉強や準備をしてきたのだという。「主演をメインとした人物の動きや技で見せていってそこに美を求めるのが東洋のアクションの構成です。対して、ストーリーに沿った登場人物の心情を、その人物に与える負荷や場の動き、転がし方などを画(え)で見せつつ表現していくのが西洋のアクション」という指摘ができるほど、アクションに精通しているのだ。

 立体的に構成された団地のアクションを見て、僕は「プロジェクトA2 史上最大の標的」(1987年)を思い浮かべた。当時のジャッキー・チェンはハロルド・ロイドやバスター・キートンなどサイレント映画のアクションに強い影響を受けていた。岡田准一がジャッキー・チェンをどう評価しているかは知らないが、この映画でやったことはジャッキーのアクションをより洗練された形で見せていることにほかならない。

 ドラマパートに関しては元アイドルの域を超えた平手友梨奈の好演が目立ち、佐藤二朗のおかしさを含めてエンタテインメントとしてよくまとまっている。こういう破綻のないアクション映画が見たかったのだ。江口カン監督、横山誠アクション監督、岡田准一主演でぜひぜひ続きを見せてほしいと思う。