2022/07/03(日)「FLEE フリー」ほか(7月第1週のレビュー)

「FLEE フリー」はアフガニスタンからロシアを経てデンマークに亡命した青年アミンを描くアニメーション。今年のアカデミー賞で長編アニメ賞、長編ドキュメンタリー賞、国際長編映画賞の3部門にノミネートされました(受賞はならず)。監督のヨナス・ポヘール・ラスムセンがインタビューする形式でアミンの壮絶な体験を描いていきます。つまり音声はドキュメント、描写はアニメ(一部実写)という表現です。

アミンの父親はアフガンの共産主義政権に敵対するとされて連行され、害が及ぶことを恐れた一家5人(アミンのほか、母親と姉2人、兄1人)はロシアに脱出します。外を歩けば腐った警官から金を要求され、不法移民を迫害する住みにくい国なので、まず姉2人が密入国業者を使って脱出しますが、その方法は狭いコンテナに多数が押し込められて船で移動するという過酷なもの。

映画はそうした難民の置かれた過酷な状況を描いています。加えてアミンは同性愛者であることを長年隠してきました。イスラム圏や共産圏では同性愛者への迫害があり、命に危険が及ぶからです。もっとも、同性愛を「精神の障害、または依存症」とする文書を配った自民党の懇談会が最近ありましたし、難民の境遇が過酷なのは川和田恵真監督「マイスモールランド」で描かれた通りで、日本も大きく遅れています。

ラスムセン監督はラジオドキュメンタリーで活躍してきた人で、アミンとは25年以上前からの友人とのこと。IMDb7.9、メタスコア91点、ロッテントマト98%。

「エルヴィス」

バズ・ラーマン監督がエルヴィス・プレスリーを描いた伝記映画。エルヴィスをスターダムに押し上げたものの、搾取し続けたトム・パーカー大佐(トムでもパーカーでも大佐でもなかったことが分かります)を狂言回しにしています。

ラーマンの描写の特徴ではあるんですが、前半はダイジェスト感が強く減点対象。後半、ハリウッド映画への出演が続いて人気を落としたエルヴィスがテレビショーでクリスマス・ソングを歌わせようとするパーカーにさからってメッセージソングを歌うくだりが感動的です。こことラスベガスのホテルのステージでのエルヴィスの姿が映画のポイントでしょう。

僕は晩年のエルヴィスには太った姿しか印象になく、主演のオースティン・バトラーは太り方が足りないじゃないかと思いましたが、未見だった「エルヴィス・オン・ステージ」(1970年、デニス・サンダース監督)の冒頭を見たら、まだまだスマートでした。IMDb7.8、メタスコア64点、ロッテントマト78%。

「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」

チャン・イーモウ監督作品。映画の中では時代も場所も明示されないんですが、パンフレットによると、文化大革命中の1969年、中国北西部の村が舞台。強制労働所送りになった男(チャン・イー)が、映画本編の前に流れるニュースフィルムに娘の姿が1秒だけ映っていることを知り、娘の姿を一目見たいと脱走。村での映画上映に向かうが、途中の町でボロボロの格好をした少女が移送中のフィルムの1巻を盗むのを目撃する。

イーモウ監督にとっては手慣れた題材で水準以上の仕上がりですが、惜しむらくは提示した材料をうまく生かし切れなかった印象が残ります。映画ではなぜか描かれませんが、男の娘は死んでいるという設定があるそうで、これが描かれていれば、1秒にこだわる男の思いがより強く伝わったでしょう。

フィルムを盗む少女を演じるリウ・ハオツンはオーディションで選ばれたとのこと。少年かと思われるような薄汚い身なりで登場しますが、ラストの数年後の姿は「初恋のきた道」のチャン・ツィイーを思わせる可憐さ。これからスターになっていくのでしょう。IMDb7.2、メタスコア79点、ロッテントマト100%。

「劇場版からかい上手の高木さん」

テレビアニメ3期を経ての劇場版。中学3年生の西片はクラスの隣の席の女の子・高木さんに何かとからかわれる。どうにかして高木さんをからかい返そうするが、高木さんの方が上手でいつも返り討ちに遭っている。中学最後の夏休み、2人は神社の床下で鳴いていた白い子猫を見つけ、一緒に世話をするようになる。

73分の短い作品ですが、テレビアニメは30分枠に4つぐらいのエピソードを入れた方式なので、これでも長く感じます。からかうのは好意を持っているからで、この2人を見ていると、「恋は光」の西条と北代の関係に似ているなと思いました。エンドクレジットの後に現在の2人の姿が描かれます。

「東京2020オリンピック SIDE:B」

あまりの悪評で「SIDE:A」は見ませんでしたが、大会を支えた関係者を描く「SIDE:B」は日経電子版などで褒める評価もありました。大会までの日数をカウントダウンしながら、さまざまな断面を描いています。率直に言うと、記録映画としてはどうかなあ、という出来。データが明示されないのが難点で、今は分かりますが、10年後には理解しにくい部分も出てきそうです。野村萬斎など開閉会式の演出チームの辞任や森喜朗大会会長の女性蔑視発言による辞任など長々と描く必要はないと思える部分もありました。

良かったのは福島のバドミントン指導者のエピソード。男子シングルスの桃田賢斗と混合ダブルスで銅メダルの渡辺勇大・東野有紗を指導したそうで、バドミントンに打ち込む今の子供たちを前に先輩の活躍を報告しながら涙を見せます。森喜朗から大会会長を引き継いだ橋本聖子が選手村の食事を試食した後、担当する人たちをねぎらい、褒めるスピーチも良かったです。聴いていた関係者が「感動した」と言うほど橋本聖子、スピーチうまいです。