2022/07/10(日)「モガディシュ 脱出までの14日間」ほか(7月第2週のレビュー)

「モガディシュ 脱出までの14日間」は1991年、内戦が激化したアフリカ東部のソマリアを舞台にした韓国映画。ソマリアの首都モガディシュで韓国と北朝鮮の大使館員らが協力して国外脱出を目指す過程を描き、昨年の韓国でナンバーワンヒットになったそうです。単なるサスペンスアクションではなく、この南北人民の協力描写があったことが大ヒットの要因でもあるのでしょう。

リドリー・スコット監督の「ブラックホーク・ダウン」(2001年)は同じくソマリアを舞台にしていましたが、時代はこの映画より少し後の1993年で、政権は既に「モガディシュ」時点での反政府軍が掌握していました。

1990年、韓国政府は国連への加盟を目指し、アフリカ諸国へのロビー活動に励んでいた。モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。そんな中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。市街地は大混乱となり、両国の大使館員とその家族たちに危機が迫る。暴徒の襲撃を受けて大使館を追われたリム大使は韓国大使館に助けを求めた。

反発し合っていた両国の大使館員らが一緒に過ごすうちに友好を深めていくのは予想された展開ですが、実話だけに重みがあります。イタリア大使館が用意した救援機で脱出するため、イタリアと国交のない北朝鮮の人たちは韓国への転向を偽装します。これによって母国に帰った後、不利益を被ったのではと心配になりました。空港に政府職員が出迎えに来る場面での彼らの沈黙はスティーブン・スピルバーグ「ブリッジ・オブ・スパイ」のマーク・ライランスの運命を想起させました。

「ベルリンファイル」「ベテラン」のリュ・スンワン監督はアクション場面の手慣れた描写に加えて、ドラマ部分の演出にも隙がありません。全編モロッコロケだそうですが、市街地での戦闘シーンなどスケールも申し分ないですし、真に迫っていて、日本映画では予算的に難しい描写だと思いました。ただ、ナンバーワンヒットといっても、コロナ禍だったこともあり、興収は30億円とのこと。IMDb7.1、メタスコア71点、ロッテントマト95%。

「ソー:ラブ&サンダー」

マーベルのソー・シリーズ4作目。監督は前作「マイティ・ソー バトルロイヤル」に続いてタイカ・ワイティティ(「ジョジョ・ラビット」)が務めています。ソー(クリス・ヘムズワース)の今回の敵は娘と自分を助けなかった個人的恨みから神々の滅亡を図るゴア(クリスチャン・ベール)。ゴアに襲われてソーは絶体絶命の危機に陥りますが、ソーのかつてのハンマー、ムジョルニアを持って新たな“マイティ・ソー”に姿を変えたソーの元恋人ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)が現れます。

ジェーンがムジョルニアを手にしたのはステージ4のがんにかかって余命幾ばくもないためで、ムジョルニアを持っている間は元気でいられるという設定。フォスターをフォンダと言い間違えるギャグが2度ありますが、若い世代にジェーン・フォンダは通用しないんじゃないでしょうかね。ヘムズワースとワイティティ(コーグ役で出演もしています)のユーモアは好ましいものの、話が簡単すぎて物足りない思いが残りました。IMDb7.1、メタスコア62点、ロッテントマト68%。

「オフィサー・アンド・スパイ」

88歳のロマン・ポランスキー監督(撮影時86歳)が19世紀フランスのドレフュス事件を描き、ヴェネチア映画祭銀獅子賞を受賞しました。

ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)はドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告され、悪魔島に流刑となる。防諜部長に就任したピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)はドレフュスの無実を示す証拠を発見。上官に対処を求めるが、スキャンダルを恐れる上層部は隠蔽を図り、ピカールを左遷する。ピカールは作家のエミール・ゾラ(アンドレ・マルコン)らに支援を求める。

後半は面白いんですが、前半がモタモタした印象。ピカールが上官にドレフュス事件の再調査を申請するまで1時間ほどかかります。ドレフュスの無実は認定されますが、実話だけにすっきりした解決にはならず、ユダヤ人差別問題もうやむやなまま。というか、これで差別が解消されるわけがありません。

ドレフュスが収監される悪魔島(ディアブル島)は南アメリカのフランス領ギアナにある島で、「パピヨン」でスティーブ・マックイーンも入った刑務所ですね。IMDb7.2、メタスコア56点、ロッテントマト76%。