2024/07/28(日)「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」ほか(7月第4週のレビュー)
「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」
こういうサブタイトルだと6000人の命を救ったのかと勘違いしますが、主人公のニコラス・ウィントンが第二次大戦中、チェコのユダヤ難民の子どもたちを里子として国外に移送して救ったのは669人。その後の50年間で増えた家族を入れると、6000人になるというわけです(ラストの字幕で紹介されます)。669人も立派な数字ですので、6000人をサブタイトルに入れる必要はなかったと思います。ちなみにオスカー・シンドラーは1100人以上の絶滅収容所行きを阻止し、東洋のシンドラーといわれる杉原千畝は6000人以上にビザを発給したといわれています。
ウィントンが携わったのは「キンダートランスポート」というプロジェクト。これは1938年に始まり、開戦までの9カ月間にドイツ、オーストリア、チェコスロヴァキアのユダヤ人の子どもたち(0歳から17歳までの)約1万人がイギリスに送られたそうです。ですから669人というのはあくまでウィントンが携わった(記録していた)数であるわけです。
映画は1938年のウィントンをジョニー・フリン、1988年のそれをアンソニー・ホプキンスが演じています。ウィントンは戦後、救出できなかった子どもがいたことに後悔する気持ちがあってプロジェクトのことを人前で話すことはなかったそうですが、50年後にBBCテレビが取り上げ、救われて成長したかつての子どもたちに会うことになります。いつもながらのホプキンスの名演で感動的な場面になっていますが、ドキュメンタリー「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」(2011年、マテイ・ミナーチュ監督)でも描かれており、予告編を見ると、描き方がそっくりです。この映画を参考にした部分が大きいのではないでしょうか。
キンダートランスポートについては「ホロコースト 救出された子どもたち」(2000年、マーク・ジョナサン・ハリス監督、アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞)でも描かれています。
監督のジェームズ・ホーズはドラマ版「スノーピアサー」(2020年)などテレビシリーズの演出を多く担当し、これが劇場映画監督デビュー作。2本のドキュメンタリーを見ることが難しくなっているので、劇映画として作った価値はあると思います。演出に際立った部分はありませんが、手堅い作品ではありました。ウィントンの現在の妻役にレナ・オリン。マルト・ケラーの名前もエンドクレジットにありましたが、どこに出てきたのか分かりませんでした。パンフレットによると、メディア王の妻役だったとのこと。
IMDb7.5、メタスコア69点、ロッテントマト90%。
▼観客15人ぐらい(公開4日目の午後)1時間49分。
「デッドプール&ウルヴァリン」
ディズニープラスのドラマ「ロキ」(2021年)に登場した時間変異取締局(TVA)が重要な役回りで登場するのでドラマを見ていた方が楽しめますが、見ていなくても話は十分に分かります。ウルヴァリンが死んだ「LOGAN ローガン」(2017年、ジェームズ・マンゴールド」監督)を見ていた方が良いですが、必須ではありません。ショーン・レヴィ監督とライアン・レイノルズ主演の「フリー・ガイ」(2021年)のパロディ的場面がありますが、これまた見ていなくても支障はありません。「デッドプール」の過去2作を見ていなくてもかまいませんが……。このほかマーベル作品の諸作も全部見ておいた方が楽しめることは間違いありませんけど、見ていなくても楽しめるように作ってあります。
死んだはずのウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)がどうして復活するかと言えば、マーベルお得意のマルチバース(多元宇宙、並行世界)を使います。そこにTVAが絡んでくるというわけ。ウルヴァリンはデッドプール(ライアン・レイノルズ)の世界を破滅させないためのキーパースンであることが分かり、デッドプールは破滅を回避するために別の世界のウルヴァリンに協力を求めます。
例によって、デッドプールは騒がしいしゃべりとギャグを繰り出し、血まみれアクションも展開します。デッドプールもウルヴァリンも再生能力が高く、不死身なので、アクションも過激になります。デッドプールが第4の壁を突破するおなじみのシーンもあります。忽那汐里は前作「デッドプール2」(2018年、デヴィッド・リーチ監督))に続いてユキオ役で出ています。
ショーン・レヴィ監督はかつては「いまいち面白くない映画を撮る人」と認識してましたが、「フリー・ガイ」など近年の作品は面白いですね。
IMDb8.3、メタスコア56点、ロッテントマト80%。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午前)2時間8分。
「密輸 1970」
韓国の海女さんたちが密輸にかかわっていたという実話を基にしたアクション。1970年代が舞台なのでファッションは当時を再現、音楽も70年代風。それならば、上映時間も90分ぐらいに抑えると、なお良かったと思います。クライマックスの水中アクションは見応えがありました。監督は「モガディシュ 脱出までの14日間」(2021年)のリュ・スンワン。密輸組織のボスを演じるチョ・インソンは「モガディシュ…」にも出ていましたが、ディズニープラスの「ムービング」(2023年)で空を飛ぶ能力を持つ主人公ボンソク(イ・ジョンハ)の父親役でもお馴染み。中盤にある船の中でのアクションではナイフを振り回して多数の敵を相手にし、デッドプールに負けない残虐さが強烈でした。
IMDb6.2、ロッテントマト93%。アメリカでは映画祭での上映のみ。
▼観客1人(公開12日目の午前)2時間9分。
「WALK UP」
ホン・サンス監督の映画は評論家と一般観客の評価が乖離している場合が多く、この作品もそうなっています。ロッテントマトでは評論家の肯定的評価が97%ですが、観客スコアは22%と低迷しています。映画監督のビョンス(クォン・ヘヒョ)はインテリア関係の仕事を志望する娘のジョンス(パク・ミソ)を連れ、旧友ヘオク(イ・ヘヨン)が所有するアパートを訪れる。アパートは地上4階、地下1階建てで、1階がレストラン、2階が料理教室、3階が賃貸住宅、4階が芸術家向けのアトリエ、地下がヘオクの作業場になっていた。3人はワインを飲みながら和やかに語り合うが、仕事の連絡が入り、ビョンスはその場を離れる。
と、ここまではいつものホン・サンス監督タッチ。クォン・ヘヒョもイ・ヘヨンもホン・サンス映画の常連な上、他の出演者4人とも同監督のこれまでの映画に出ています。人物が窓際のテーブルで語り合う構図も過去の作品で見かけたものでしたが、その後の展開で「あれ」と思い、さらに「あれ」と思って、最後になるほどと思いました。時間の操作と垂直に上っていく展開、男女関係の不思議を組み合わせた面白さがあります。
ホン・サンスは年1本ぐらいのペースで作品を発表し、既にベルリン国際映画祭銀熊賞5度受賞の監督ですが、作品のスケールは日常ベースで大きくはないため、巨匠という感じではないですね。
IMDb6.7、メタスコア87点、ロッテントマト97%。
▼観客4人(公開2日目の午後)1時間37分。
「もしも徳川家康が総理大臣になったら」
中途半端。原作はビジネス小説とのことですが、映画の後半はビジネスよりも織田信長殺人事件の犯人探しの様相です。ほとんどの観客は笑いを期待していると思いますが、不発に終わってます。クライマックスの徳川家康(野村萬斎)の長い演説もダサさの極み。新米記者役の浜辺美波だけが救いですが、映画全体を救うには至っていません。監督は「テルマエ・ロマエ」(2012年)「翔んで埼玉」(2019年)の武内英樹。12月公開予定の「はたらく細胞」も監督してますが、不安になりますね。
▼観客多数(公開初日の午前)1時間50分。