2024/12/08(日)ドラマ「【推しの子】」ほか(12月第1週のレビュー)
テレビ側で切り替えても、それはテレビのスピーカーの制御だけなんです。テレビのHDMI出力をPCMにすれば対応できるそうですが、音質を下げることになり、サウンドバーの意味がありません。いちいち切り替えるのも面倒です。米JBL製品を買う直前にこれを知ってデノン製品に変更しました。ソニーやヤマハなど他の日本製品も対応しています。海外製品が対応していないのは音声多重放送が一般的ではないからなのでしょうかね。
ちなみにデノンのサウンドバーのリモコンに音声切り替えボタンはなく、ミュートボタンの5秒押しで切り替えるようになっています。隠し機能みたいな扱いですが、海外では不要なボタンだからなのでしょう。
ドラマ「【推しの子】」
amazonプライムビデオで配信中の実写版「【推しの子】」(全8話)が面白いです。第1話前半はほぼダイジェストで、原作・アニメを見ている場合、ここで離脱する人もいたのではないかと思います。劇場公開もされたアニメ第1話「Mother and Children」(2023年、平牧大輔監督)は84分かけてじっくり描いた傑作(IMDbの評価9.5)でしたが、これを半分以下の40分で描くわけですから、ダイジェストになるのは当たり前。しかし1話終盤、人気アイドルのアイ(齋藤飛鳥)が見舞われる突然の悲劇から面白さのスイッチが入ります。第2話で「重曹をなめる天才子役」、じゃなくて「10秒で泣ける天才子役」と言われ、成長した今は低迷している有馬かなが登場します。演じる原菜乃華が実にぴったりのキャスティングな上、硬軟織り交ぜた細やかな演技を見せ、ドラマを支える存在になってます。原菜乃華、すごすぎです。主役の星野アクアを演じる櫻井海音、ルビー役の齊藤なぎさ、MEMちょ役のあの、そして有馬かなのライバルでアクアに思いを寄せる黒川あかね役の茅島みずきら若い俳優たちが魅力を発散させています。
北川亜矢子の脚本は原作のエピソードを大幅に省略しながら、恋愛リアリティーショーのキャストに対する視聴者の激しいバッシングや、なぜ原作を踏みにじるような脚本が出来てしまうのかなど芸能界の裏側を描く原作のポイントを外していません。多くのMVとドラマの演出経験を持つ映像監督スミスと、子役出身の女優・監督である松本花奈の演出も水準以上。こうして製作発表の際に多くのファンが抱いたであろう危惧を完全に振り払い、漫画の実写化としてはかなり成功した作品になりました。
赤坂アカ×横槍メンゴの原作は先月完結したばかりですが、ドラマは既にアニメ2期のストーリーを追い越して第8章「スキャンダル編」まで描いており、残すは第9章「映画編」と第10章「終劇によせて」のみ。20日公開の映画「【推しの子】 The Final Act」はこの最後の2章を描いているのでしょう(プロデューサーは2年前に原作終盤の流れを聞いていたそうです)。もちろん、配信で見る人は限られるので映画冒頭にはこれまでのストーリーのダイジェストが付くはず。予想以上にドラマの出来が良かったことで、映画が俄然楽しみになってきました。
「劇場版ドクターX」
テレビドラマ「ドクターX 外科医・大門未知子」は第7期まで全話見てます。シリーズのファンと言って良いですが、いくらなんでも、この映画のクライマックスの手術には問題がありすぎでしょう。植物状態の患者の臓器を、もちろん本人の同意なしに他の人に移植するというのは傷害罪、この臓器の重要さを考慮すれば殺人未遂罪が成立するんじゃないですかね。これ、何かほかのシチュエーションにできなかったんでしょうか。ブラックジャックのような卓越した技術を持つ外科医・大門未知子(米倉涼子)と名医紹介所のアキラさんこと神原晶(岸部一徳)の過去は初めて描かれるものの、この作品で完結するのであれば、もっと集大成的な意味合いを持たせた作品になってほしかったところでした。
内田有紀、遠藤憲一、勝村政信、鈴木浩介、そして亡くなった西田敏行さんらドラマでおなじみの面々のほか、未知子と対立する東帝大学病院の新院長に染谷将太、若い頃の未知子を八木莉可子、未知子の過去を知る医師を綾野剛が演じてます。脚本の中園ミホ、監督の田村直己ともドラマ版と同じです。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間8分。
「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」
1978年に起きたイタリアの元首相アルド・モーロ誘拐事件を関係者の多角的な視点を交えた6話構成で描いたドラマ。6話で5時間40分もあるので劇場公開は前編・後編形式で、それぞれ3話で構成しています。タイトルの「夜」とは極左テロ組織「赤い旅団」による事件そのものを指し、その周辺にいた関係者を外側としているわけです。マルコ・ベロッキオ監督は「夜よ、こんにちは」(2003年)で赤い旅団の内側を描いていますので、それと対になった作品と言えます。僕はリアルタイムでこの事件を知っています(当時、日本のメディアはアルド・モロと表記していました)が、46年前の事件なのでイタリア本国でも知らない人が増えているのではないかと思います。しかし、この作品、事件を知っていても驚く展開が終盤にありました(えっ、えっ、えっ? と思いましたね、このシーン)。クエンティン・タランティーノは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)でシャロン・テート事件(1969年)を知っている人ほど驚くような展開を終盤に用意していましたが、あんな感じの描き方。ベロッキオ監督は「ワンス…」を参考にしたのかもしれません。
IMDbの6話の評価は7.9、7.5、7.4、7.4、7.6、7.7となっています。赤い旅団のメンバーを描いた第4話と最終話が特に面白かったです。
IMDb7.7、ロッテントマト86%。
▼前編=観客1人(公開6日目の午後)、後編=観客3人(公開7日目の午後)5時間40分。
「シサム」
江戸時代前期の北海道を舞台に、アイヌと和人の争いを描くドラマ。重傷を負った松前藩の藩士がアイヌに助けられ、その実態をよく知ることで争いを止めようとするという物語の骨格は「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(1990年、ケヴィン・コスナー監督・主演)と似ていますが、先住民族とのファーストコンタクトはどこも同じような経過をたどるのかもしれません。北海道の南西部にある松前藩はアイヌとの交易品を主な収入源としていた。松前藩藩士の家に生まれた孝二郎(寛一郎)は兄・栄之助(三浦貴大)とともにアイヌとの交易で得た品を他藩に売る仕事をしていた。ある夜、使用人の善助(和田正人)の不審な行動を目にした栄之助が善助に殺害される。孝二郎は敵討ちを誓い、善助を追って蝦夷地へ向かう。蝦夷地では不公平な交易により和人に対する反発の動きが強まっていた。
タイトルの「シサム」はアイヌ語で「よき隣人」を意味するそうです。製作規模の大きな作品とは思えないにもかかわらず、戦闘シーンをしっかり作っていることに感心しました。飛んでくる矢と銃弾の恐怖がCGによって十分に表現されています。「憎しみを持っても死んだ人は帰ってこない」という憎しみの連鎖を断ちきる主張も真っ当。監督は「劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」(2013年)の中尾浩之、脚本は尾崎将也のオリジナル。
パンフレットによると、プロデューサーの嘉山健一が映画をプロデュースするのは初めて。元々はアイヌを題材にした漫画の映画化を考えたそうですが、映画化の許可をもらえず、オリジナルのストーリーでの映画製作となったそうです。キャストも含めて隅々まで手を抜かない姿勢が伝わってきます。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午前)1時間54分。
「国境ナイトクルージング」
偶然出会った3人の若者たちを叙情的に描く中国=シンガポール合作映画。中身がありそうで大したものはなく、叙情性だけが美点ですが、「少年の君」(2019年、デレク・ツァン監督)のチョウ・ドンユイが出ている(ラブシーンもある)のでファンなら一見の価値はあるでしょう。舞台となる延吉(えんきつ)は北朝鮮と国境を接する延辺朝鮮民族自治州の中にある市。アンソニー・チェン監督。
IMDb6.5、メタスコア71点、ロッテントマト91%。
▼観客4人(公開4日目の午後)1時間40分。