2011/11/10(木)「フェア・ゲーム」

 ダグ・リーマンの演出はどうも切れ味が今一つで、話のポイントが定まらない感じ。イラクの大量破壊兵器をめぐるCIAの女性工作員の実話。

 主人公のヴァレリー・プレイム・ウィルソンはイラクに核兵器開発の事実がないことを突き止め、夫の元ニジェール大使ジョー・ウィルソンもイラクにウラン購入の事実がないことを明らかにするが、ブッシュ政権の副大統領補佐官によって、ヴァレリーがCIA工作員であることをリークされ、夫婦は世間の攻撃を受ける。フェア・ゲームは「格好の標的」の意味とのこと。

 エンド・クレジットは原作同様、登場人物の名前に伏せ字がある。ヴァレリー本人も登場する。面白い題材なのにエンタテインメントが本領であるダグ・リーマンには合わなかったのだろう。生きていれば、シドニー・ルメットにぴったりだったか。

2011/11/06(日)「ステキな金縛り」

 三谷幸喜が女優を主人公にするのは初めてだという。なるほど、言われてみれば、これまでの映画で女優が主人公の映画はなかった。そして今回の深津絵里のが好演が成功の大きな要因ではあるなと思う。女性を主人公にした成長物語というのが実にうまくいっているのだ。はっきり言って最初のバナナをモチーフにした法廷場面のズッコケぶりなど見ると、どうなることかと思ったのだけれど、その後はまず順調な仕上がりで、深津絵里のコメディエンヌぶりが実にうまくはまっている。この役柄、アメリカ映画なら、ゴールディ・ホーンかリーズ・ウィザースプーンがぴったりの役柄のように思える。深津絵里はこの2人より知的な部分があって、それが好感度につながっている。

 西田敏行や阿部寛、中井貴一ら他の出演者も総じて好演。法廷ものに駄作はないというジンクスを三谷幸喜自身が破らなかったのは喜ばしい。これまで映画デビュー作の「ラヂオの時間」からいまいち、イマイチ、今イチと思い続けてた三谷幸喜の映画で初めて満足できた映画だ。個人的には大好きな「スミス都へ行く」がモチーフの一つにあるあたりがとてもうれしく、今後の三谷幸喜作品も楽しみになってきた。

2011/11/05(土)「Space Battleship ヤマト」

 あまりの酷評で劇場公開時に積極的にスルーし、今回、WOWOWで観賞。なんだ、そんなに悪くないじゃん、というのが第一感で、たとえば原作アニメにあるイスカンダルとガミラスが姉妹星であるという設定は重力的にあんなに近い場所に2つの惑星が存在できるはずがないと当時思ったのがちゃんと修正されてるし、個と全体が同一の結晶生命体という変更はSF的には悪くありません。

 ただ、宇宙でのドッグファイトシーンはアメリカ映画より10年以上遅れているなあと感じざるを得なかったのが残念至極。山崎貴が監督とVFXを担当しながら、こうなのだから、彼我の差は予想以上に離れていて、下手すると、もう30年以上前の「スター・ウォーズ」にさえも全然かなわず、事態は相当に深刻。宇宙SFをほとんど撮らない日本映画界と予算をかけられない台所事情に根本的な要因があるのでしょう。

 「武士の一分」の時にも思ったのですが、木村拓哉の演技はバラエティを引きずった部分があって、とても残念。キムタク、恐らく二枚目に徹することをどこか恥ずかしいと思ってるんじゃないのかな。悲壮感たっぷりの主人公にはしたくないという思いがあるんでしょう。その思いをバラエティ演技で何とかしようと思うのは大きな勘違いなわけで、この勘違いを誰か早急にアドバイスしてあげた方が良いです。「スター・トレック」のクリス・パインのようなあり方が理想的なんでしょうけどねえ。

 あと、ワープできるんなら、さっさとイスカンダルまでワープすればいいのに、ということは原作アニメでも感じておりました。これ、何か制限の設定があったんでしたっけ?

2011/11/04(金)「リアル・スティール」

 リチャード・マシスンの原作「四角い墓場」を基にしたSF。ロボットボクシングという設定だけを借りてVFXで見せる映画にしている。監督は「ナイト・ミュージアム」のショーン・レヴィ。危惧していた通り、凡庸な映画になっている。子供が主人公のファミリー映画だから、ヒットはするだろうが、どうも物足りない思いが残る。

2011/11/03(木)「アリス・クリードの失踪」

 主要登場人物は3人、全登場人物も3人といういかにもインディーズ映画らしい作り。脚本は凝っているが、内田けんじの映画のように「騙してくれてありがとう」という感じにはならない。見ていて気分が良くならないのはこれが人間不信の考えから成り立った脚本であるためか。

 金持ちの娘アリス・クリード(ジェマ・アータートン)が覆面をした正体不明のヴィック(エディ・マーサン)とダニー(マーティン・コムストン)に誘拐され、ベッドに手足を縛られて監禁される。犯人2人はアリスの父親に身代金200万ポンドを要求する。ストーリーを書けるのはここまでで、ここから先は3人の意外なドラマがサスペンスフルに展開していく。床に落ちた銃弾をサスペンスにつなげる部分などはうまいと思う。

 登場人物が少なく、ほとんど部屋の中で話が進行するので、そのまま舞台になりそうだ。アイラ・レヴィンの某戯曲を思わせる展開もある。これは想像がついた。意外な人間関係を織り込むにはこれはぴったりの設定なのだ。監督のJ・ブレイクソンはこの戯曲の映画化を当然見ているのだと思う。