2013/03/26(火)「砂漠でサーモン・フィッシング」

 イエメンの大富豪シャイフ・ムハンマド(アマール・ワケド)が主人公で水産学者のアルフレッド・ジョーンズ(ユアン・マクレガー)に言う。

 「友よ、残念だったな」

 「いいえ、奇跡です」

 「ああ。しかし、残念だ」

 アルフレッドがイエメンで鮭を放流するプロジェクトを通じて知り合い、次第に思いを寄せるようになったハリエット・チェトウド=タルボット(エミリー・ブラント)。ハリエットの恋人ロバート・マイヤーズ(トム・マイソン)は砂漠の戦場でMIA(戦闘中行方不明)になっていたが、奇跡的に生きていたことが分かったのだ。首相広報担当官のパトリシア・マクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)はプロジェクトのPRを目的にロバートをイエメンに連れて行き、ハリエットと再会させる。しっかりと抱き合う2人を見て、シャイフが言うのが上のセリフだ。アルフレッドはその前日に「僕たちの間に実現可能性はあるかな」と思いを打ち明けたばかりだった。

 ポール・トーデイの原作「イエメンで鮭釣りを」を「スラムドッグ$ミリオネア」のサイモン・ビューフォイが脚本化、ラッセ・ハルストレムが監督した。ウィットに富んだセリフをちりばめ、ハッピーエンドを希求するビューフォイの脚本がまず、うまい。ハルストレムの演出も手堅いので、佳作に仕上がっている。

 エミリー・ブラントは憂いを含んだ表情が良く、ユアン・マクレガーはいつものように少しコミカルな水産学者を演じている。この2人とアマール・ワケドの好感度の高さが映画の好感度にもつながっている。

2013/03/24(日)「臆病者のための株入門」

2006年に出た新書だが、円安株高に伴う最近の投資ブーム(?)に乗って書店では平積みになっていた。株で一儲けしようと思う人を対象に増刷したのだろう。しかし、この本には株取引のテクニック的なことは書いてない。だいたい、株の必勝法なんてない。現物取引に限れば、安く買って高く売るしかないのだ。

本書は最初の3章がジェイコム男、ホリエモン、デイトレーダーの話で、著者の体験や主観も入っているから、この部分、とても面白い。後半は株式投資がどういうものかを説明した上で、経済学的にもっとも正しい投資法が紹介される。それは「世界市場のインデックスファンドに投資しなさい」である。株入門という名前の本なのに、インデックス投資がベストと言っているわけだ。株取引で成功し続けるのはほんの一握りであり、多くの人は勝ったり負けたりを繰り返すことになる。これを踏まえてどの銘柄を買うかではなく、市場全体に投資するのがベストという当然の結論に至る本なのである。毎月分配型の投信がなぜダメかということにも言及してある。だから、これは株入門の本ではなく、すこぶる面白く読める投資入門の本になっている。

著者の橘玲は世界市場に投資するポートフォリオとして15%を日本株、残り全部を外国株にすることを勧める。2006年当時の株価時価総額の比率はそうなっていたのだろう。現在はどうなっているのか。こういう場合、インデックス投資支援サイトの「わたしのインデックス」がとても役に立つ。世界各国のPER・PBR・時価総額のページによると、今年2月末時点で日本株の時価総額は世界の株式市場の7.2%しかない。昨年11月から株価が上がったといっても、まだこれぐらいのものなのである。世界市場に投資するポートフォリオのアセットアロケーション(資産配分)はこれを参考にできるだろう。

複数の投資信託でポートフォリオを組むのが面倒な場合はバランス型投信に投資する選択もある。資産総額が600億円を超えたセゾン投信のセゾン・バンガード・グローバルバランスファンドなどがそうだ。ただ、このファンドの日本株の割合は4%しかない。これはもう少し増やしてもいいのではないかと思う。

2013/03/23(土)タコ足配当

 ドルコスト平均法に従って昨年7月から毎月積み立てをしているDLIBJ公社債オープン(中期コース)の基準価額が21日に66円も下がった。あれ、債券相場は上昇したのになぜだろうと思ったら、この日、1万口当たり80円の分配金が出ていた。この投信、元本を取り崩して分配するタコ足配当の投信だったのか?

 SBI証券が発行した「自動けいぞく投資 再投資のご案内」を見たら、やっぱり元本払戻金(特別分配金)になっていた。特別分配金は元本を取り崩して支払う分配金のこと。この場合、非課税扱いのはずだが、なぜか課税されている。分配時の基準価額が個別元本(取得単価)を上回っている場合は利益が出ていることになるので、課税されるらしい。

 利益に課税されるのは仕方がないが、こんなことなら分配はない方が良かった。税金の分だけ元本が減ることになるからだ。僕は分配金再投資の設定にしているが、これは分配しないということではなく、いったん分配金を出して税引き後に再投資するということなのですね。知らなかった。

 DLIBJ公社債オープン(中期コース)の分配金は毎年3月と9月。タコ足配当がほとんどの毎月分配型の投信よりはましだが、タコ足であることに変わりはない。同じく積み立てをしているeMAXIS 国内債券インデックスは2009年10月の設定来一度も分配金を出さず、基準価額が右肩上がりになっている。長期的な資産形成をする場合はこちらの方が望ましいだろう。アクティブ型とインデックス型の違いはあっても、どちらも国内債券の投信なので、より有利なeMAXISに一本化しようかなと思っている。

暴落時の選択

山崎元「ホンネの投資教室」の「国債暴落」を個人投資家の立場から考えるを読むと、なんだか将来が不安に思えてくる。「アベノミクスが十分に目的を達したあかつきには、国債暴落が起こる公算はかなり大きい」という見方なのだ。

 通常、暴落でなくても国債価格が下がれば、金利は上がる。金利が上がれば、円高になる。となれば、円高不況に逆戻りするので、「外貨リスクをいつまでも大きく取り続けているのは危険」という意見はもっともだという気がする。円安進行中の今、海外の株や債券、REITに投資すれば、円高になった場合、利益を上回る為替差損によって損失を被る恐れがあるのだ。

ただし、アベノミクスがインフレ目標2%を達成するには2年はかかると言われている。この記事も「向こう数年以内に起こってもおかしくない」状況に関する考察だということに留意しておいた方がいい。長期的に見れば、少子高齢化の進行によって日本の経済力は衰えていくだろうから、円安になるという見方が一般的だ(それはそれでなんだか悲しいことではある)。

長期分散コツコツ投資の場合、そういう状況になってもコツコツしていていいかどうか。それは投資家の年齢と関係してくる。定年退職まで20年、30年ある人は損害を被ってもいずれ巻き返せるだろう。リーマン・ショックでの損失が今、回復しているのと同じだ。残り10年を切っているような人は大きな損失が起こりそうな状況では資金をさっさと安全資産に移した方がいい。というか、若い人でも逃げるに越したことはない。山崎さんは「国債暴落に特に強い商品は、実は個人向け国債(10年金利変動型)」としている。さらに金融緩和政策が引き締め政策に変わった場合は「現金ないし、現金に近いものがベスト」だそうだ。

 長期投資はリスクが小さくなるといわれることが多いが、実は短期投資に比べてリスクが大きい。それは山崎さんも吉本佳生さんも言っている。吉本さんの場合、長期投資は暴落に巻き込まれる恐れが大きくなるから、との理由。「むしろ暴落しそうな金融商品を買え!」には株価の暴落が数年に一度の割合で起きるようになった現在、「もはや長期投資は儲からない」と書いている。暴落に巻き込まれそうになったら、ほったらかしにせず、さっさと逃げるのが賢明だ。

2013/03/22(金)「クルマは家電量販店で買え!」

 吉本佳生「スタバではグランデを買え!」(amazon)の続編。5年前に出た本で最近、ちくま文庫に入った。サブタイトルは「価格と生活の経済学」。吉本佳生は金融学が専門で、デリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ仕組み債などが個人に売られている現状を強く批判している人だが、このシリーズは庶民の生活に身近な商品の価格が決まる仕組みを解説している。

 個人的に身にしみるのはこちらの家計に直結する大学の授業料に関する第5章。世帯収入が増えない中でも、授業料は大幅に上がっており、私立大は国立大の2倍も高い。高いだけならいいが(いや、良くないが)、私立大の場合、早稲田や慶応など一部のブランド大学を除けば、就職に有利にならないらしい。就職の際に考慮されるのは大学名だけで、それでは高校までの成績しか見ないということになる。これは昔からそうだが、今は正社員と非正規社員の分かれ道になる可能性があるから問題は大きい。

 私立大の場合、卒業後に国立大生と同じ会社に就職しても、2倍のコストをかけていることになる。私立大が授業料を下げないのは国立大との差が離れすぎているからで、こういう場合、少しぐらい授業料を下げても優秀な学生を集める効果はなく、収入を減らすだけで終わる。吉本佳生はこの現状を改めるために、国立大の授業料を私立大並みに引き上げることを提案している。授業料も就職率も同じぐらいのレベルなら、そこには価格競争の原理が働き、私立大が授業料を下げる可能性があるからだ。価格競争を持ち込むという考えには意外性があるが、競争はすぐには起きないだろう。経済的に大学に行けない学生が増えるデメリットがあるし、私立大が下げても財政難の政府がいったん引き上げた国立大の授業料を下げるかどうか疑問がある。つまり価格競争を持ち込めても、私立大と国立大の授業料の高低が逆転するだけで、現状より悪くなる恐れがあるのではないかと思う。

 正社員と非正規社員の生涯年収の差は1億6000万円ほどになるとの試算がある。いったん非正規になると、なかなかそこから抜け出せない。大学の授業料も含めて、こうした問題を解決するには景気を良くして世帯収入を引き上げるしかないだろう。アベノミクスは今のところ、円安株高の効果が中心だが、一部企業が実施を表明したベースアップが他の企業に波及していかないことには根本的な問題の解決は難しいようだ。

 考えてみると、就職先の選択というのは株の個別銘柄の選択に似ている。株の場合は自分のお金を投資し、就職の場合は自分の人的資本を投資してリターンを得る。その割には大学生が選ぶ人気企業ランキングなどを見ると、東証一部上場の企業ばかりが並んでいる。一部上場企業の場合、安定はしていても今後の成長に関してはあまり伸びしろのない場合が多いだろう。家電メーカーのようにリストラに遭う可能性もある。株と同じで就職も東証二部やマザーズ、あるいは上場していない企業の選択もあるなと思う。ただ、こちらが選択してもあちらから選択されないことには始まらないので、とりあえず、選択権を持つためにはそれなりの大学に入っておいた方が良さそうだ。

ヘッジファンドの標的

 日経電子版の「ヘッジファンドがほくそ笑む『黒田日銀=円安』」という記事が興味深かった。2月26日、イタリア総選挙に絡むドル円相場の乱高下で日本の個人FXトレーダーの多くが損失を被った。その裏にヘッジファンドの仕掛けがあったという記事だ。

 「一瞬でマイナス100万円」「今年の儲けが全部吹っ飛んだ」「まじでこれはやばいことになった」――。インターネットの掲示板には早朝から、FX投資家の絶叫が連なった。
 ところが、円高は長くは続かなかった。

 Yahoo!ファイナンスの外国為替掲示板を見ると、確かにそれに類する書き込みがある。この時のドル円相場の乱高下は「市場の注文の偏りを狙って多額の反対売買を仕掛け、相場が大きく動いたタイミングで即座に利益を確定させる。これはヘッジファンドが20年来使ってきた古典的な手法」だそうだ。掲示板の参加者が書いているのはイタリア総選挙がどうしたこうしたということだけで、ヘッジファンドの為替操作などまるで想像の外にある。

 誰かが勝てば誰かが負けるというゼロサムゲームなので僕は一切やらないが、FXは怖い世界だなと思う。大きなイベントがある時は単純な相場の上げ下げの見通しだけでなく、ヘッジファンドの動きまで考慮する必要があるようだ。ミセス・ワタナベ(日本の個人トレーダーの俗称)はヘッジファンドの標的になっているそうだ。

2013/03/20(水)「儲かる会社、つぶれる会社の法則」

 「日経平均を捨てて、この日本株を買いなさい。」を読んだ際、投資の本では珍しい熱さを持ってる本だなと思った。著者の藤野英人はレオス・キャピタルワークスのCIO(最高投資責任者)。熱さに惹かれて、ちょうどSBI証券が取り扱いを始めた日本株のアクティブ投資信託「ひふみプラス」の積み立てを始めた。本のPR効果というのはなかなかのものがあるのだ。

 「投資家が『お金』よりも大切にしていること」にも、一見普通のビジネス書のように見えるこの本にも根底に熱い部分がある。法則4に「夢を熱く語れる」社長の会社は投資に値する、というのがある。藤野英人の会社の評価基準も社長に熱さがあるかどうかがポイントになっているわけだ。そして、この本の熱さが僕にはとても好ましく思える。

 あとがきには投資家として生きるための条件として「未来を信じること」「成長を望むこと」「努力すること」「仲間を信じること」「理想と現実の間を生きること」などが挙げてある。これは投資家としてだけでなく、企業の経営者にも普通の会社員にも当てはめられることばかりだ。どんな経営者も創業時には夢と希望に燃えているだろう。それが会社が大きくなるにつれて、現実路線に向かい、創業時の気持ちを失いがちだ。それを失わない経営者の会社が伸びる会社なのだろうと思うし、藤野英人もそう考えているのではないかと思う。