2021/09/19(日)9月前半に見た映画
「モンタナの目撃者」
テイラー・シェリダン監督なので見た。見て正解、個人的に大好物ジャンルの作品だった。森林消防隊員の主人公ハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)が森の中で少年コナーと出会う。少年の父親は汚職事件を捜査する検事に協力していた会計士で、2人組の暗殺者に追われ、少年の目の前で殺された。ハンナは少年とともに街を目指すが、暗殺者たちは森に火を付け、2人に迫ってくる、というストーリー。
私立探偵小説などの作家マイクル・コリータの原作「Those Who Wish Me Dead」(2014年、未訳)をコリータ自身とシェリダン、「白鯨との闘い」などのチャールズ・リーヴィットが脚色。
ハンナは森林火災の際に風を読み違え、少年3人を助けられなかった過去がある、というのがこうした作品のお約束的設定だ。保安官の妊娠5カ月の妻(メディナ・センゴア)が暗殺者に襲われるが、意外で痛快な展開になる。シェリダンは脚本を担当した「ボーダーライン」、監督作「ウインド・リバー」でも女性を主人公にしていから、強い女性キャラクターが好きなのだろう。
アメリカでの評価はIMDb6.0、メタスコア59、ロッテントマト62%と低いが、自分を含めて冒険小説などの愛好者にはアピールする内容だと思う。
「ももいろそらを カラー版」
小林啓一監督の長編第1作で2011年に撮影し、2013年1月にモノクロ版が公開された。カラーで撮ったのにモノクロ処理したのは「未来から今を見つめるというコンセプトから」だったとのこと。主演の池田愛は撮影中、モノクロになるとは「1ミリも思っていなかった」そうだ。ピンク色の煙をパートカラーにするためのモノクロ化だったのではないかと想像したが、そんな「天国と地獄」の二番煎じ、三番煎じの意図はなく、全編モノクロだったわけだ。カラー版の公開はコロナ禍で暇ができた監督が自宅で映像資料の整理をしていた際にカラー素材を見つけたのがきっかけ。10年前の作品なので、LGBTQ的にちょっとまずいと思えるセリフがあったり、不要と思えるエピソードがあったりする。脚本もそんなにうまくなく、前半は冗長で自主映画レベル。後半、少し盛り返した感じ。
池田愛は活発で男まさりな女子高生を演じて良いが、この映画の後、学業に専念するために芸能活動を休止。その後、復帰したそうだが、目立った活動はしてませんね。カラー版の公開記念で舞台あいさつをした際の動画がYouTubeにアップされている。
「いとみち」
「ベイビーわるきゅーれ」と同じくメイドカフェが出てくるが、相当にウエルメイドに作られた青春映画。横浜聡子監督の「俳優 亀岡拓次」以来5年ぶりの作品で、故郷の青森を舞台にしている。エンドクレジットを見ると、地元の協力も多く得たようで、ご当地映画の趣もあり、津軽弁の響きがとても心地良い。主人公いとの祖母はいとが出かける時、「か、け」と言って、干し餅を渡す。「か、け」とはパンフレットによると、「ほら、食え」という意味だ。
津軽弁のなまりが強い主人公を演じる駒井蓮は津軽三味線の演奏があまりに見事なので、これは三味線のうまい人を連れてきたんだなと思ったら、1年間練習したのだそう。この映画も主役の魅力に負うところが大きい作品になっている。
いとの父親役を演じるのは「子供はわかってあげない」に続いて豊川悦司。原作では父親も青森出身の設定だそうだが、東京出身に変えてある。豊川悦司まで津軽弁だったら、意味の取りにくい部分が多くなったかもしれない。
「シャン・チー テン・リングスの伝説」
作品自体、アジアンテイストが横溢し、クライマックスには西洋のドラゴンではなく、東洋の竜が登場する。ただし、VFX満載のこのクライマックス、それまでのアクションの快調さに比べると、今一つ目新しさがないのが残念。監督のデスティン・ダニエル・クレットンは「ショートターム」「黒い司法 0%からの奇跡」と傑作を放っているが、こうしたアクションの演出は初めて(キャプテン・マーベル=ブリー・ラーソンが顔を見せるのは、この2作に出演している縁もあるのだろう)。
11月公開予定の「エターナルズ」のクロエ・ジャオもそうだが、マーベルは監督を選ぶ際に題材に慣れていることよりも演出の力を重視しているようだ。
「RUN ラン」
クロエ役をオーディションで抜擢された新人キーラ・アレンが、娘に歪んだ愛情を注ぐ母親を「オーシャンズ8」のサラ・ポールソンが演じている。
母親の意図によく分からない部分が残るなどの瑕疵はあるが、チャガンティ監督のサスペンス演出は破綻がなく楽しめた。このパンフレットの表紙は劇中、主人公が飲まされるカプセル薬の色をデザインしてある。
「シュシュシュの娘」
こうした現在の問題を取り上げるのは取り上げないよりは良いことだろうが、例えば、外国人労働者の現状を真正面から描いた「海辺の彼女たち」などに比べると、分が悪くなる。公文書改ざんといっても市役所の話なので、映画のスケール感も小さいものになる。
「シュシュシュ」の意味は予告編でも伏せているので書かないが、主演の福田沙紀はタイトルロールにふさわしい動きを見せている。もっと映画に出ても良いのではないか。
「岬のマヨイガ」
東日本大震災をモチーフにしたファンタジー小説をアニメ映画化。居場所を失った17歳のユイ(芦田愛菜)と8歳のひより(粟野咲莉)は、避難所で出会ったキワ(大竹しのぶ)に連れられ、岬にある古民家マヨイガ(迷い家)で共同生活を始める。原作は岩手出身の児童文学作家・柏葉幸子。監督は川面真也。マヨイガの描写は「となりのトトロ」を思わせる。シリアスな序盤に身構えていると、河童が出てきて、後半は「妖怪大戦争」的展開になる。妖怪は原作の持ち味らしいが、序盤のムードで押し切っても良かったのではないか。大竹しのぶは「漁港の肉子ちゃん」に続いての声の出演。この映画の方が自然な感じだった。
2021/09/06(月)8月後半に見た映画
「フリー・ガイ」
ゲームのモブ(背景)キャラが自我に目覚めて、ゲーム消滅の危機を救うという話。なかなかSF的だが、いまいち説得力が足りない。ゲーム内の1キャラがAI化するのは無理筋だ。脚本はマット・リーバーマンとザック・ペン。ペンは「レディプレイヤー1」の脚本も書いていて、こうしたゲーム内の話には慣れているのだろう。ショーン・レヴィ監督の演出には相変わらず緩いところがあるが、気持ちの良いハッピーエンドに向かうのが好評の理由かなと思う。
なぜかパンフレットもグッズも販売なし。版権の関係だろうか?
「プロミシング・ヤング・ウーマン」
主人公のキャシー(キャリー・マリガン)はかつて医大生だったが、ある事件で大学を中退。今はコーヒーショップで働いていて、夜ごと、バーで酔ったふりをして男にお持ち帰りされ、男たちに裁きを下していた、という出だし。過去に何があったのかは徐々に明らかになる。最近、「キリング・イヴ」関連でもう一人いたなと思って探したら、「フリー・ガイ」でヒロインを演じたジョディー・カマーだった。
キャリー・マリガンに注目したのは「17歳の肖像」(2009年)の頃。当時、24歳で17歳の役を演じていた。今回は36歳で30歳の役(撮影時は34~35歳かも)だが、ケバい化粧をしていると、ぱっと見、40代に見えてしまう。でも演技のレベルは高いので、アカデミー主演女優賞ノミネートも納得できる。
「ドライブ・マイ・カー」
原作は主人公が緑内障になったため東京で運転手を頼むだけで広島へは行かない。映画は広島での演劇祭がメインになっていて、そこで上演する演劇の本読みが大きなパートを占めている。濱口監督は映画を撮影する際には普段からこういうステップを踏むそうだ。脚本の理解を深めることで俳優の演技を引き出す効果があるらしく、この映画でも俳優たちの演技が充実している。
映画が約3時間の上映時間にもかかわらず、飽きないのはそうした面があるからだろう。カンヌでの受賞にふさわしく純文学風の仕上がりだし、クライマックスの展開は現実的ではないと思えたが、高評価も納得できる作品だっだ。
「子供はわかってあげない」
クライマックス前の母親(斉藤由貴)との会話のシーンにジンと来た。撮影は2年前だったそうで、上白石萌歌の顔はまん丸。「ドラゴン桜」で一般的な人気を得た細田佳央太も好演している。
「孤狼の血 LEVEL2」
普通の武闘派ヤクザ、例えば「仁義なき戦い 広島死闘編」で千葉真一が演じた大友勝利などは短気で乱暴ではあるけれど、異常者ではない。上林が異常なのは食欲や性欲、金銭欲、物欲などが感じられず、人への暴力と支配欲しかないように見えるからだ。毎回毎回、殺す相手の両目を両親指でつぶすなど異常者のやることだろう。最初につぶされるピアノ講師が美人だなと思ったら、筧美和子だった。よくこんな役を引き受けたなと思う。
白石和彌監督は上林を敵も味方も破壊するゴジラに例えていたそうだが、それはゴジラに失礼というもので、ゴジラは破壊王ではあるが、異常ではない。「なんならぁ」とか「こんなは…」とかの広島弁を聞くと、「仁義なき戦い」を思い出すし、実録風の演出も少しあるが、これはヤクザ映画じゃなくホラー映画として見るのが正解だ。
「オールド」
この場所がなぜこうであるのかの説明はあっさりしたもので説得力もないが、シャマランの狙いはなぜ3家族はここに案内されたのか、その目的は何かを描くことだったようだ。だから、これSFじゃなくてサスペンス。そっちの方の出来は悪くないと思った。
出ようとして気を失うなら、入ろうとしても同じはずとか、ツッコミどころは多数あり、IMDbの評価は5.9と低い。シャマラン映画の好きな人はどうぞ。
「鳩の撃退法」
佐藤正午の同名小説をタカハタ秀太監督が映画化。原作は文庫上下2冊で1000ページ以上ある。それを約2時間の映画にまとめるのは難しかったのか、筋を追うのにいっぱいいっぱいという感じがありあり。これをテンポ良く描いたと受け取る人もいるようで、日経夕刊では★4個を付けてた。Yahoo!のレビューで指摘している人がいるが、予告編では、書いたことが現実になるかのような紹介になっていた。本編はそうではなく、作家(藤原竜也)が現実の話をそのまま書いたんじゃないかと心配して編集者(土屋太鳳)が調べるという展開だった。
「沼本」と書いて「ぬもと」と読むカフェの店員を演じるのは「孤狼の血 LEVEL2」では大根とも評された西野七瀬(個人的には前作の真木よう子に遜色ない演技と思う)。今回は年齢的に近い役柄なので、無理のない演技だった。どこか蓮っ葉なイメージが似合ってきた佐津川愛美も含めて女優陣は悪くなかった。
「白頭山大噴火」
最初の地震のシーンは「すげえ」と思ったが、あとは新鮮味に乏しいアクション。日本でもアメリカでもこれはディザスター映画になる題材だと思うが、それをアクション映画としてまとめるのがいかにも韓国映画という感じ。最初の噴火が起こった後、最大規模の噴火を止めるため、地下のマグマだまりを爆破しようと韓国軍が作戦を展開。この作戦、600キロトンの爆破が必要なので北朝鮮の核兵器からウランを盗み、白頭山の炭鉱の地下坑道で原爆を爆発させるという乱暴なもの。南北関係に気を遣ったためか、北朝鮮軍との銃撃戦は最小限で、主な敵は中国と米軍になるというのも著しく説得力を欠く。
ほとんどトンデモ映画の設定だが、それに目をつぶってアクションだけを眺めてれば、我慢できるかもしれない。IMDbの評価は6.2、ロッテントマト70%。アメリカでは限定公開だったためか、メタクリティックに評価はない。