メッセージ

2021年10月10日の記事

2021/10/10(日)「ONODA 一万夜を越えて」ほか(10月第2週のレビュー)

「東京クルド」

東京在住の2人のクルド人青年に焦点を当てたドキュメンタリー。
オザンとラマザンはトルコ国籍のクルド人で、身の危険を感じて家族と小学生の頃に日本に逃げてきた。
家族ともども難民申請をしているが、認められず、不法滞在状態で入管への収容をいったん解除される仮放免の身分。不法滞在なので働くことは禁じられ、もちろん健康保険等もない。2カ月に一度、入管に行き、現状報告する義務がある。
日本政府がクルド人を難民と認定したことはないそうで、こうした宙ぶらりんな状態が何年も続くことになっています。
クルド人に限らず、日本政府が難民認定に消極的、というか、追い返す施策を取っているのは難民が増えるのを警戒しているからでしょう。
世界5位の移民大国になったにもかかわらず、通常の移民よりも困っている人たちに手を差し伸べないことには疑問を感じます。
日本政府に必要なのは人道的観点からの施策でしょう。
監督はテレビドキュメンタリーを手がけてきた日向史有。

「ONODA 一万夜を越えて」

フランス人のアルチュール・アラリが監督。
1974年までの戦後29年間、終戦を知らずにフィリピンのルバング島で戦った小野田寛郎元少尉を描いています。
小野田元少尉と言えば、僕は軍刀をフィリピン軍の司令官に渡す場面をテレビで見たのを覚えています。
投降する際の旧日本軍の作法だったと説明され、会見で述べた言葉も含めて「恥ずかしながら帰って参りました」の横井庄一さん(元軍曹)とは違うな、さすが将校だと思えましたし、一般的な評価もそうでした。
映画には小野田がルバング島の住民を殺す場面が3度描かれ、こういうこともあったんだと驚きますが、実際には3人どころではなく、本人の言葉によると、30人を殺害、100人に負傷させたそうです。
そうした小野田の負の側面は当時から一部報道されていたようですが、賞賛の世論の中に埋もれていました。
ルバング島民にとって、小野田とは29年間にわたって略奪と殺傷を繰り返してきた凶悪な犯罪者にほかならないでしょう。
小野田が終戦を知らなかったということを疑問視する見方もあります(ラジオで日本の短波放送を聞いていたのですから知らなかったはずはないでしょう)。
アラリ監督は父親から聞いて小野田のことを知り、、日本在住のジャーナリストだったベルナール・サンドロンの著書「ONODA」を読んで映画化を決めたそうです。
174分という長尺なのでジャングルシーンなど長すぎると思えますが、負の側面を最小限に抑えたフィクションとして見るならよく出来ています。
壮年期の小野田を演じる津田寛治はかなり体重を落として外見を似せていますし、小野田を発見して日本に帰国させる役割を果たす冒険家・鈴木紀夫を演じる仲野太賀、小野田のかつての上官谷口役のイッセー尾形らも好演しています。
全編日本語であることを考えると、アラリ監督の演出は的確です。
ちなみに「野生のパンダと小野田さんと雪男に会うのが夢」と話していた鈴木紀夫は2つを実現した後、3つ目を目指してヒマラヤに行き、遭難死したそうです。