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2022年05月08日の記事

2022/05/08(日)「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」ほか(5月第1週のレビュー)

「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」はマルチバースがテーマなので「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」とつながりがあるのかと思ったら、直接的な関係はない話でした。マルチバースを移動できる能力を持つ少女アメリカ・チャベス(ソーチー・ゴメス)を巡って、この能力が欲しいワンダ・マキシモフ(エリザベス・オルセン)と、それを阻止しようとするドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)が争う物語。

ワンダの能力はこれまでより桁違いに強くなっていて、ストレンジとその仲間の集団はまったく歯が立ちません。別の世界にいる某超能力者集団も全員簡単に惨殺。これほど強ければ、サノスにも勝てたのでは、と思えるほどです。

ワンダがマルチバース移動能力を欲する理由はディズニープラスのドラマ「ワンダヴィジョン」の物語を踏まえたものですが、これを見ていなければ分からないような内容にはなっていません。「ワンダヴィジョン」を楽しむには元ネタのテレビドラマ「奥様は魔女」を見ていた方が良いですが、見ていなくても楽しめるのと同じような意味合いだったりします。

監督のサム・ライミは得意のホラー風味を加味しながら、うまくまとめていると思いました。驚くような俳優が2人出てきて、そのうちの1人はエンドクレジットの途中にある場面で登場します。

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品もかなり増えたので、熱狂的なファンを生む一方で見ていない観客は置いてけぼり感を味わわされる恐れがあります。ネットのレビューに賛否があるのもこれが影響しているのは明らか。何も知らなくても面白く、知っていればもっと面白いという作品を作っていくことが理想なのでしょう。

IMDb7.6、メタスコア62点、ロッテントマト77%。

「猫は逃げた」

「愛なのに」に続いて今泉力哉と城定秀夫によるL/R15企画の2本目。今回は城定脚本、今泉監督の作品でやはり水準以上の仕上がりになってます。

飼い猫のカンタをどちらが引き取るかで揉めている離婚寸前の夫婦とそれぞれの浮気相手をめぐるドラマ。演じるのは山本奈衣瑠、毎熊克哉、手島実優、井之脇海の4人で、特に女優2人が良いです。クライマックス、この4人が一堂に会して話し合う場面は固定カメラの長回しで撮影していますが、めちゃくちゃ笑える会話劇になっていて、「街の上で」の若葉竜也と中田青渚のアパートでの恋バナシーンに匹敵する魅力がありました。今泉力哉は城定秀夫脚本のこの場面を加筆して1.5倍の長さにしたそうです。

僕は何の工夫もない長回しには否定的なんですが、今泉監督はここぞという時に長回しを使っており、レベルの違いを見せつけています。

個人的にはわずかな差で「愛なのに」の方が好きですが、甲乙付けがたい出来だと思いました。

「死刑にいたる病」

櫛木理宇の同名原作を100ページほど読んだところで見ました。原作は2015年の発売時には「チェインドッグ」というタイトルで、2017年に文庫化される際に改題されたそうです。

24人を殺害した連続殺人犯で死刑囚の榛村大和(阿部サダヲ)から法学部の大学生・筧井雅也(岡田健史)に手紙が届く。雅也は中学生の頃、榛村のパン屋によく行っていた。榛村は9件の殺人で立件され、死刑判決を受けたが、そのうちの1件は自分の犯行ではないと言い、雅也に調査を頼む。榛村は10代後半の男女だけを襲い、爪を剥がすなど残忍な拷問の末に殺害していたが、犠牲者の1人は20代の女性で爪も剥がされていなかった。雅也が調査を始めると、周囲に不審な男が出没するようになる。

原作を再構成した高田亮の脚色は優れていて、ミスリーディングもうまく行っています。阿部サダヲも秀逸な演技。中性的な美貌を持つ原作の榛村とは違うタイプですが、不気味なサイコパスの部分がよく似合い、善人を装った部分も信用のおけない感じを滲ませています。

「羊たちの沈黙」がなければ生まれなかった作品でしょうし、真相が分かる場面はやや単調ですが、ミステリー映画として成功していると思いました。

ネットのレビューに否定的な意見が目立つのは残虐描写に拒否反応を持つ人が少なくないからでしょう。確かにペンチで爪を剥がす場面など見たくありませんが、「孤狼の血 LEVEL2」が大丈夫だった人なら大丈夫です。あの映画の鈴木亮平もサイコパスな残虐男でした。ゴア描写は白石和彌監督監督の趣味・嗜好なんじゃないでしょうかね。

「アネット」

レオス・カラックス監督らしく変なミュージカルで、退屈はしませんでしたが、特に面白くもなかったです。全編英語なのは日本を含む7カ国の合作だからなのでしょう。カラックス映画で常連のドニ・ラヴァンが出ていないのは歌が歌えないのか、あるいは合作映画を支える俳優としては興行面で弱いのか、そのあたりが考慮されたのかもしれません。

舞台はロサンゼルス。人気のスタンダップ・コメディアン、ヘンリー(アダム・ドライバー)と国際的なオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)は恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。仲睦まじく暮らしていたヘンリーとアンの間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始めてゆく。

このアネットの見た目は人形で最後に人間の姿に変わることもあって、「ピノキオ」に言及する人がいますが、登場人物は人形としては扱っていず、普通の子供の扱いなのが決定的に「ピノキオ」と違うところです。だいたい人間の女から生まれたものが人形だったら、ホラーです。

ミュージカルとしては魅力的なナンバーがないのが減点対象で、強いて挙げれば、エンドクレジットにも使われた「We Love Each Other So Much」ぐらいですかね。

マリオン・コティヤールは今年48歳ですが、めちゃくちゃ若くてきれいですね。日本からは水原希子(アダム・ドライヴァーの暴力を告発する6人のうちの1人)と古舘寛治(医師役)が出ていました。

IMDb6.3、メタスコア67点、ロッテントマト71%。水準かそれに少し届かないぐらいの評価になってます。