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2022年05月15日の記事

2022/05/15(日)「シン・ウルトラマン」ほか(5月第2週のレビュー)

「シン・ウルトラマン」は傑作「シン・ゴジラ」のスタッフなので期待値マックスで観賞。序盤ワクワク、中盤停滞、終盤で少し盛り返した感じの出来で、金を掛けたファンムービーのような作品でした。

絵の具を流したような画面がぐるぐる回って「シン・ゴジラ」の文字になり、それが弾けて赤い背景に白い文字で「シン・ウルトラマン」のタイトルが現れるという「ウルトラQ」→「ウルトラマン」のかつてと同じ趣向のオープニング。「ウルトラQ」のメインテーマなど音楽と効果音は昔のものを踏襲していて、リアルタイムで毎週夢中になってテレビシリーズを見ていたオールドファン(ほぼ60歳以上でしょう)は懐かしさに見舞われるはずです。

ゴメス、マンモスフラワー、ペギラと「ウルトラQ」の怪獣ならぬ禍威獣を出しながら、科特隊ならぬ禍特対(カトクタイ)設立を説明する場面でさらに気分は上がります。ネロンガ、ガボラ撃退シーンまではまず文句はない(ゆっくりと両手を交差させてスペシウム光線の構えをするシーンは最高のかっこよさ)ですが、その後の展開がどうもピリッとしません。

テレビシリーズ第18話「遊星から来た兄弟」のにせウルトラマンや第33話「禁じられた言葉」でフジ・アキコ隊員(桜井浩子)が巨大化したシーンなどを引用した総集編のような作りは別に悪くありません。ウルトラマンへの変身に使うベータカプセルのテクニカルな側面を使ったクライマックスへの話の組み立てもまあ良いでしょう。例によって、使徒のようなデザインの怪獣などエヴァンゲリオンを思わせるのは予想の範囲内です。しかし、各エピソードが緊密に繋がっていかないことが最大の欠点で、もどかしく感じました。

「そんなに人間のことが好きになったのか、ウルトラマン」。終盤、あるキャラクターからこう言われるウルトラマンの思いこそが、(ベータカプセルではなく)作品を貫く1本の太い芯になるべきだったのだと思います。

既にさまざまなバリエーションがあり、ある程度自由な作りが許された「ゴジラ」と違って、初代「ウルトラマン」全39話はウルトラマンの出現から退場まで物語世界がかっちり完成しています。総集編のような、ファンムービーのような作りになったのは脚本・総監修の庵野秀明がそれほどウルトラマン世界を好きだからだと思いますが、総花的作品の陥穽に嵌まってしまったようです。

ファンにはあまり評価されていない(と思える)小中和哉監督「ULTRAMAN」(2004年)を僕は好きなんですが、第1話だけを現代に置き換えて作り直したあの映画のようにドラマを集中させて話を構築した方が良かったのかもしれません。

金を掛けたといっても、日本映画総力戦の様相さえあった「シン・ゴジラ」ほどの予算ではないはずで、登場人物の数だけ比較しても見劣りがしました。CGの出来は合格点ですが、作品のスケールは意外に小さくまとまっています。

期待が大きかっただけにこのレベルで満足するわけにはいかず、かえすがえすも残念な出来と言わざるを得ません。悔しいです。

「女子高生に殺されたい」

古屋兎丸の原作コミックを城定秀夫監督が映画化。東山春人(田中圭)は、女子高生に殺されたいがために教師になった男。理想の殺され方を実現させるために、9年もの間緻密な自分殺害計画を練ってきた、というストーリー。

脚本も書いた城定監督は映画化にあたって、中心となる女子高生2人(南沙良、河合優実)に加え、原作には登場しない女子高生2人(莉子、茅島みずき)を登場させて話を膨らませたほか、クライマックスも映画向きに変更しています。原作は全14話(2巻)の短い話ですから、これは当然の措置なのでしょう。ただ、原作を読んだ観客としては傑作となるには少し足りなかった印象です。

南沙良はテレビドラマ「ドラゴン桜」でアイドル的人気が出ましたが、蒔田彩珠と共演の「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(2018年)の吃音症の少女役で新人賞を総なめにした実力があり、本来は演技を評価してほしいはず。今回の役柄はそれを少し意識させるものでした。

「ハッチング 孵化」

フィンランド製のホラー。4人家族の家に黒い鳥が飛び込んでくる。鳥は部屋の中を飛び回り、花瓶やガラス食器、シャンデリアが落ちて次々に割れる。ようやく捕まえた鳥を母親(ソフィア・ヘイッキラ)はバキッとひねり、生ゴミとして捨てさせる。しかし、鳥は死んでいなかった。その夜、森の中で12歳の娘ティンヤ(シーラ・ソラリンナ)は瀕死の鳥を見つけて叩き潰す。そばにあった卵を持ち帰り、ベッドで温めると、卵は毎日大きくなる。そして巨大化した卵が割れ、中から醜い生物が生まれてくる。

生まれた巨大な生き物は孵化したばかりの鳥のヒナのようなヌメヌメした外観ですが、これが徐々にあるものに変化していきます。一方で、母親は浮気しており、ティンヤは体操競技でライバルに負けそうな状況にあり、これが本筋に絡んできます。惜しいのはこうした話のまとめ方が今ひとつうまくないこと。モンスター映画にしてくれると、個人的には好みだったんですけどね。

IMDb6.8、メタスコア74点、ロッテントマト91%(一般ユーザーは61%)。