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2022年05月01日の記事

2022/05/01(日)「ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん」ほか(4月第5週のレビュー)

「ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえり お母さん」は2018年の前作に続いて、認知症となった80代の母親とそれを支える90代の父親の姿を一人娘の信友直子監督が撮影したドキュメンタリー。

前作が劇場で公開される直前に母親は脳梗塞で倒れて入院していた。97歳になった父親は毎日1時間歩いて病院に通い、妻の手を握って「元気になって家に帰ろう」と話しかける。

夫婦愛と老いることについて深く考えさせられる映画です。父親は95歳で炊事洗濯を含め家事全般をすることになります。高齢のため腰が曲がり、スーパーまで買い物に行くのも一苦労。帰る途中でレジ袋を両手に持ったまま下を向いて息をつく姿を見ると、胸がいっぱいになります。

若い頃には文章の仕事に就きたかったそうですが、弟たちの面倒を見なくてはいけなかったため、かないませんでした。居間には多数の書物が積んであり、母親が認知症になるまでは好きな本や新聞を読む気ままな毎日だったそうです。

「直子が帰ってきて、一緒に介護しようか」という娘の提案に対して「働ける間は働いてもええよ。親のことはそんなに心配せんでもええ」と話す父親は立派な人で、敬服せざるを得ません。

「ありがとね、わしはええ女房をもろた思うとります」。最期にそう声を掛けてもらって、妻はどんなにうれしかったことだろう、と思います。

前作の振り返りを含めて描いてあるので、前作を見ていなくても内容は十分に分かります。ただし、前作では終盤に介護ヘルパーさんが来るようになったエピソードがありましたが、今回は登場しません。お母さんが入院したことでヘルパーさんの出番がなくなったためでしょうが、これだけ見ると、最後まで家族だけで介護したような印象を持たれるかもしれません。

信友監督は「介護は家族だけでやろうとしてはいけない」とインタビューで語っています。介護の苦労・疲労が積み重なるにつれて介護者から笑顔が消えてしまい、そのことが被介護者にも悪い影響を与える負のスパイラルに陥ってしまうからだそうです。父親が自分だけで面倒を見ると言い張っていたため、2年間ヘルパーさんを呼びませんでしたが、監督は秘密でヘルパーさんを頼みました。実際に来てもらったら、父親にも非常に助かることが分かってもらえたとのこと。

劇場には年配者を中心に多数の観客が来ていました。プライベートを定点観測することで、普遍的な内容を持ち得た傑作だと思います。

「MEMORIA メモリア」

タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品。「寝てしまった」というレビューが多いので見るのを迷ったんですが、見終わってみれば、面白い映画でした。

南米コロンビアが舞台。主人公のジェシカ(ティルダ・スウィントン)は夜更けに「ボンッ」という爆発音のような音で目を覚ます。その後、その音は街中で聞こえたり、レストランで聞こえたりする。音の正体を探し求めたジェシカはある村の川沿いで魚のうろこ取りをしている男に出会う。

主人公が音の正体を探す緩やかなミステリータッチが終盤、SFに転化します。音が何なのかというヒント(というか、同じ種類の音)は序盤に示されてはいるんですが、いや、これは絶対に分からないです。

「寝た」という感想が多いのは進行が緩やかすぎるためで、このストーリーなら1時間半足らずで十分描けるはずですが、2時間16分ありますからね。この描写のゆっくりさを受け入れられるかどうかが評価の分かれ目のようで、アメリカ映画だったら、もっとエンタメ方向に振り切った映画にする題材だと思いました。

なお、この「ボンッ」という爆発音は「頭内爆発音症候群」という症状で、監督自身の経験がこの映画の着想になったとのこと。Wikipediaによると、頭内爆発音症候群とは「寝入る直前や目覚めた直後に短時間の大きな幻聴が発生する状態のこと。不規則に発生し、通常痛みなどの深刻な健康問題は無いものの、閃光が見えるなどといった一時的な視覚障害が発生する場合がある」。

ジェシカの場合は幻聴ではなく、超自然的なものが関わっています。と、思いましたが、それも含めて幻あるいはジェシカの想像なのかもしれません。

IMDb6.5、メタスコア90点、ロッテントマト88%(ユーザーは45%)。プロの評価は高く、一般ユーザーは低い評価となっています。カンヌ映画祭審査員賞受賞。

「ツユクサ」

「愛を乞うひと」「閉鎖病棟 それぞれの朝」の平山秀幸監督作品。過去に不幸な出来事を経験した中年男女の恋愛感情を含めた日常を描いた映画で、しみじみと、ほのぼのと良い作品だと思いました。主人公(小林聡美)の車に隕石がぶつかるという非常に珍しい事件はありますが、それ以外は近しい人たちとのささやかな心の揺れ動きを描いています。

ストーリーではなく、ユーモアを絡めた描写で見せる映画で、見ていて心地良く、平山監督の演出力がうまく発揮された佳作だと思います。脚本は「不思議な岬の物語」などの安倍照雄のオリジナル。

劇中に登場する月隕石はその名の通り、月に起源を持つ隕石のことですが、「直径数km以下の月のクレーターを生成した月への他天体の衝突によって吹き飛ばされた破片」(Wikipedia)であり、主人公の車にぶつかった隕石とは別のものと考えた方が良さそうです。日本で見つかったことはないようで、見つかれば、大発見になったはず。車の破損状況も隕石がぶつかったにしては小さすぎるかなと思いました。

「バブル」

13日から劇場公開されますが、一足早く4月28日からNetflixで配信が始まりました。監督は「進撃の巨人」の荒木哲郎、脚本は「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄ら、制作は「王様ランキング」「SPY×FAMILY」のWIT STUDIOと期待せざるを得ない陣容です。

世界に降り注いだ泡(バブル)で重力が破壊された東京は一部の若者たちのすみかとなり、パルクールの戦場となっていた。主人公のヒビキは無軌道なプレイで海に落下、不思議な力を持つ少女ウタに救われる、というストーリー。

設定はSFですが、バブルの正体がよく分からない、説明されないのが大きな弱点で、話をもう少し詰めたかったところです。