メッセージ

2022年10月09日の記事

2022/10/09(日)「四畳半タイムマシンブルース」ほか(10月第2週のレビュー)

「四畳半タイムマシンブルース」はディズニープラスで配信しているテレビアニメ版の3話までを見たところで見ました。映画はテレビ版と違ったところはなく(エンディングの歌はテレビのオープニングの歌でした)、前半は確認作業でしたが、4話以降に当たる終盤はタイムマシンものらしいロマンティシズムがあり、センス・オブ・ワンダーをも感じさせる好印象の仕上がりでした。

大学3年生で京都の下鴨幽水荘209号室に住む主人公の「私」(浅沼晋太郎)と、「私」が密かに思いを寄せる1年下の明石さん(坂本真綾)、他人の不幸をおかずに飯が食える悪友の小津(吉野裕行)、先輩の樋口師匠(中井和哉)、歯科衛生士の羽貫さん(甲斐田裕子)ら「四畳半神話大系」(テレビアニメは2010年)のメンバーがエアコンのリモコンをめぐって騒動を巻き起こします。「私」の早口のナレーションに沿って映画は進行し、過去へ未来へのドタバタが繰り広げられるわけですが、基になった「サマータイムマシン・ブルース」(映画は2005年、本広克行監督)が時間SFとして優れているので、この映画もドタバタがあるからこその優れた青春SFになっています。

森見登美彦の原作ではサークルでポンコツ映画を量産している明石さんがこの2日間の騒動を映画にしたいと話し、「私」がタイトルとして「サマータイムマシン・ブルース」を提案する楽屋落ち的場面があります。原作読んでる時もアニメ「四畳半」のメンバーを思い浮かべながら読みましたが、やはりアニメにして初めてこの物語は完成したと思えました。「四畳半」の声優を含めたキャラクターが楽しいからでしょう。

テレビシリーズを再編集したのが映画版ということになっていますが、むしろ完成した映画を分割してテレビ版にしているのではないかと思います。でなければ、アニメ1回の長さが33分とか17分とか、あり得ないでしょう。

「四畳半神話大系」は以前Netflixでも配信していましたが、いつの間にか消えてました。今はディズニープラスのほか、U-NEXTで配信しています。もっとも、今風に言えばマルチバース(多元宇宙、並行世界)をテーマにしたこの傑作SFアニメシリーズを見ていなくても何ら支障はありません。なんなら、「サマータイムマシン・ブルース」を見ていなくても、いや見ていない方が楽しめるのかもしれません。両方見ていない人も映画を絶賛しています。

監督の夏目真悟は劇場用長編アニメの監督はこれが初めてのようですが、「四畳半神話大系」では作画スタッフなどでクレジットされていました。今回の映画はキャラクターデザインを含め大枠が固まっている作品なので監督しやすかったのではないかと思います。

「LOVE LIFE」

始まった途端に映画作りの高いレベルがありありと分かる作品でした。山崎紘菜の複雑な眼差しであるとか、子供がなぜ手話を知っているのかとか、エピソードの配置が抜群にうまく、その描き方も抜群にうまいです。木村文乃は「七人の秘書 THE MOVIE」(下記参照)とは演技の厚みが全然違い、キスシーン一つ取っても情感の込め方がまるで違います。

釣り道具の中古製品の話題から、夫の父親(田口トモロヲ)が子連れ再婚の木村文乃に当てこするように「中古といってもいろいろある」と発言し、それにカチンときた木村文乃が謝罪を要求するシーンとか、普段は木村文乃の良き理解者である夫の母親が、あることで残酷な本音を漏らすとか、深田晃司監督の脚本は人間関係や感情の細かい部分をすくい上げ、ドラマを構成しています。

木村文乃は多くの映画に出ていますが、ここまで演技力を見せたのは初めてではないかと思います。僕はかなり感心しました。ただ、なかなか着地の難しい話ではあり、明快な結末を迎える作品でもないので、IMDb7.1、メタスコア72点、ロッテントマト85%と海外の評価が際立って高いわけではない一因となっているのでしょう。ヴェネツィア映画祭コンペティション部門に出品されましたが、受賞は逸しています。

「マイ・ブロークン・マリコ」

平庫ワカの同名コミックをタナダユキ監督が映画化。原作は4話の短い話で、映画も上映時間85分のコンパクトな長さです。ほぼ原作通りの映画化で、タナダ監督と向井康介の脚本は独自のエピソードを追加することなく、細部のセリフや表現を膨らませた脚色になっています。

本当ならマリコからシイノへの最後の手紙の内容とか、マリコの自殺の直接的な理由なども知りたいところではありますが、映画が独自に付け加えれば、原作の疾走感を減じることになるためやらなかったそうです。

主演の永野芽郁は煙草を吸い、乱暴な口調のやさぐれたシイノというこれまで演じたことのない役柄を過不足なく演じています。父親の暴力から逃れても、恋人から暴力を受けてしまうマリコ役の奈緒は相変わらずうまいです。憑依型の演技をするタイプですね。

「七人の秘書 THE MOVIE」

事前にドラマ版の第1話と先日放送されたスペシャルを見ました。何の権限もない秘書たちが悪人を懲らしめるという設定自体に無理があるドラマ。第1話は終盤の誇張しすぎてあり得ない描写が大きなマイナスになっていて、テレビだからまあ許されるのでしょう。スペシャルはドラマと劇場版をつなぐという触れ込みでしたが、設定を受け継いだのは不二子(菜々緒)にいつの間にか子供がいたことぐらいじゃなかったかな。

映画は木村文乃をはじめ秘書たちがワチャワチャしているシーンは楽しいですが、話に新鮮味がありません。信州を支配する九十九ファミリー(会長役は笑福亭鶴瓶)の巨悪を暴くという内容で、意外性皆無(脚本は「ドクターX」の中園ミホ)。ドラマ版の演出も担当した田村直己監督は凡庸な演出を一歩も踏み出すことなく、終わっています。

秘書たちのアクションはスローモーション使ってるのがダメダメで、アクションの得意な女優を1人ぐらい入れたいところでした。見どころがある(アクションが映える)のは背の高い菜々緒で、体の細さは気になりますが、本格的に鍛えれば、アクション女優になれそうです。目指せ、シャーリーズ・セロン!