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2022年10月23日の記事

2022/10/23(日)「RRR」ほか(10月第4週のレビュー)

「RRR」は「バーフバリ」のS・S・ラージャマウリ監督作品で、インド映画最大の7200万ドル(1ドル150円だと108億円)の製作費をかけた超大作。途中で「インターバル」の字幕が出ますが、休憩時間はありませんでした。2時間58分なので休憩なくてもまあ大丈夫でしょう。

長さは感じませんでしたが、個人的には時間を忘れるほど面白かったわけでもなく、前半はそれなりの面白さ。後半がすごいのはエモーション(主に怒り)全開の爆発状態になるからで、アクションにはやっぱり裏付けとなるエモーションが必要なわけです。前半にも少女を英国人に連れ去られた怒りはありますが、後半明らかになる怒りの大きさにはとてもかないません。

1920年、インドはまだイギリスの植民地で、人権を無視した英国人たちによる横暴な行為がまかり通っていた。英国人の総督スコット・バクストン(レイ・スティーヴンソン)の妻キャサリン(アリソン・ドゥーディ)はゴーンド族の村で幼い娘マッリを気に入り、強引にデリーの公邸に連れ去ってしまう。一方、デリー郊外では反英活動家の釈放を求めて群衆が警察署を取り囲んでいた。インド人の警察官ラーマ(ラーム・チャラン)は1人で群衆のリーダーを逮捕したが、上司からは功績を認められなかった。ゴーンド族のリーダー、ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア、パンフレットの表記はNTR JR.)はマッリを奪還するため、仲間と計画を練っていた。やがてラーマとビームは運命的な出会いを果たす。

ラーマがなぜ、英国人の手先になっているのかは後半に分かり、ビームはラーマの危機を救って英国軍と戦うことになります。インド映画らしく歌と踊りも魅力的。ラージャマウリ監督の作品には良い意味での楽天的なところがあり、明るく終わるのが好感度高いです。

パンフレットによると、主人公2人のモデルは実在の人物で独立運動の英雄だそうですが、実際に2人が出会うことはなかったとか。「RRR」の意味は映画の企画が当初、監督と主役2人の名前にある「R」を3つ重ねた仮タイトルでスタートしたことに由来。英語では蜂起(Rise)、咆哮(Roar)、反乱(Revolt)の頭文字ということになっています。

この内容だとイギリスではあまりヒットしないのではと余計な心配をしてしまいますが、日本人が悪役の「ドラゴン怒りの鉄拳」(1971年、ブルース・リー主演、ロー・ウェイ監督)は日本でヒットしましたね。
IMDb8.0、メタスコア83点、ロッテントマト92%。
▼観客3人(公開日午前)←平日初回とはいえ、いくらなんでも少なすぎ。映画の力がないのではなく、映画館の営業努力が足りないのでは。

「セイント・フランシス」

34歳の独身女性ブリジットを主人公に、生理、妊娠、中絶、子育て、同性婚、人種差別など多くの女性の問題を、ユーモアを交えて描いたドラマ。長編映画の脚本を初めて書いたケリー・オサリヴァンが主演も務め、監督デビューのアレックス・トンプソンが手堅くまとめています。タイトルの「フランシス」はブリジットがナニー(子守り)を務める6歳の女の子の名前。

パーティーで26歳のジェイス(マックス・リプシッツ)と出会い、意気投合したブリジットは一夜をともにすることに。その後の性交渉でも避妊していなかった(膣外射精だけ)ため妊娠しますが、産むつもりはありません。妊娠初期だったので、医師から処方された中絶薬を自宅で服用し、豆粒のような胎児(かどうかは、はっきりしません)が排出されたのを確認します。

レストランのウエイトレスとして働くブリジットは子守りの募集を見つけて、マヤ(チャリン・アルヴァレス)とアニー(リリー・モジェク)のレズビアンカップルの子供フランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)の子守りを務め、さまざまな出来事に直面します。

僕以外の観客はすべて女性でした。やはり女性の方が共感できる部分の多い映画だと思います。
中絶薬は日本では未承認ですが、最近の映画では「海辺の彼女たち」(2020年、藤元明緒監督)で、技能実習生として来日したベトナム人女性が闇医者から手に入れて使うシーンがありました。
IMDb7.1、メタスコア83点、ロッテントマト99%。
▼観客5人(公開6日目の午後)

「バッドガイズ」

ドリームワークスの3DCGアニメ。内容的に悪いところはないんですが、平凡としか言いようがないレベル。日本では褒めてる人がいるのが不思議で、アメリカではIMDb6.8、メタスコア64点、ロッテントマト88%と決して良くはありません。

3DCGのアニメの技術は水準で、話もそれなりにまとまっていますが、それだけのこと。メッセージは当たり前のことでしかなく、新しい部分は皆無。怪盗集団バッドガイズのメンバーなど登場人物の一部だけが動物キャラであることの説明もありません。

予告編で流れたビリー・アイリッシュの大ヒット曲「バッド・ガイ」は本編では流れませんでした。
▼観客11人(公開14日目の午後)

「もっと超越した所へ。」

劇作家・演出家の根本宗子の同名舞台作品を根本自身が映画用に脚色し、山岸聖太(さんた)が監督。いずれもクズ男と付き合っている4人の女性を描き、男女の本音とリアルな様相が面白いです。中盤で意外な事実が明らかになり、終盤に向かって勢いと緊張感を増すドラマ構成も見事。問題は最終盤の演出で、舞台もこのままだったかどうかは知りませんが、ここが評価の分かれ目と思いました。

もっと映画的な工夫があれば良かったのに、惜しいです。見ていて今村昌平「人間蒸発」(1967年、キネ旬ベストテン2位)を思い出しました。あの傑作映画のクライマックスがドキュメンタリー世界を一瞬にしてフィクションに変貌させる衝撃を備えていたのに比べると、この映画の場合は舞台の(斬新な)手法以上のものではありません。

クズ男と言いますが、前田敦子、趣里、伊藤万理華、黒川芽以の4人が演じるのも相当なダメ女ではあり、そういう「割れ鍋に綴じ蓋」的関係が案外男女関係の真実を突いていたりします。

4組の中では黒川芽以が演じたシングルマザーの風俗嬢・北川七瀬が男にとっては最高の女性でしょう。なじみの客で売れない役者の飯島慎太郎(三浦貴大)がエキストラとして出ている作品を見て
「見たよ、すごいよかったよ、慎太郎が一番面白い役者だったよ」
と本心から言う七瀬。客観的評価と主観的評価が異なるのはつまりその相手への思いを表しているわけで、特別だから好きなのではなく、好きだから特別に見えるということです。
「旦那がいるって聞いた時すげーショックなくらい好きだったよ」
そう言う慎太郎と七瀬のカップルが個人的には最も幸せになってほしいと思えた2人でした。物語上の大きな仕掛けよりも、こうした細かな描写の方が観客の心をつかむんじゃないかと思います。
▼観客3人(公開4日目の午後)

「血ぃともだち」

押井守監督の実写映画で唐田えりか主演。Huluで配信されていたので見ました。高校の献血部(!)の女子生徒たちが人間を襲えない落ちこぼれ吸血鬼の少女に出会い、自分たちの血で世話をするという話。映画の実験レーベル「シネマラボ」の1本で、低予算であることを考えれば、悪くはない出来でした。

お蔵入り寸前だったのが今年2月に1日だけ劇場公開されたのだとか。唐田えりかの名前で客は呼べないでしょうけど、NiziUのニナ(牧野仁菜、NINA)がヴァンパイア役なのでそれなりに需要はあるんじゃないでしょうか。配信は19日からだったようで、amazonなどでは有料で見られます。

【amazon】「血ぃともだち」 Prime Video