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2024年06月09日の記事

2024/06/09(日)「マリウポリの20日間」ほか(6月第1週のレビュー)

 ディズニープラスで始まったドラマ「スター・ウォーズ アコライト」の評判が芳しくありません。IMDb4.4、ロッテントマトは91%ですが、一般視聴者は30%と低い評価になっています。レビューを読むと、脚本のひどさや出演者の演技の下手さが悪評の原因になっているようです。僕は1話だけ見ましたが、そんなに悪くないと思いました。日本のFilmarksでは4.0。といっても1点台を付けてる人もいます。

 「スター・ウォーズ」のスピンオフドラマは「マンダロリアン」を除いてあまり人気がありません。その「マンダロリアン」はジョン・ファブロー監督による映画化が決まっていて、今年中に製作が始まるそうです。

「マリウポリの20日間」

 アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞のウクライナ=アメリカ合作映画。2022年2月24日のロシア軍の侵攻開始からの20日間、ウクライナ東部の港湾都市マリウポリの惨状を現地に残ったAP通信取材班が撮影し、戦闘の実際を詳細に伝えています。

 民間人は攻撃されないという一般的な考えはロシア軍には通用せず、マンションや一般住宅、店舗、病院などすべてが攻撃対象になり、砲弾と銃弾が浴びせられて多くの死傷者が出ます。犠牲者の中には妊婦や幼い子どもたちも含まれ、映画は全編に悲鳴と慟哭、嗚咽、叫び、怒りが渦巻いています。

 マリウポリの周囲はロシア軍に包囲されており、逃げ場のない状態での惨劇。爆撃の音に怯え、地下室で「わたし死にたくないの」と涙を流す女児、サッカーをしている時に砲撃され、両足を吹き飛ばされた少年の遺体のそばで慟哭する父親など胸を抉られるような場面が連続します。

 戦闘に巻き込まれた一般市民を描いて、この映画は有無を言わさない真実の力に満ちています。報道されたこうした映像について、ロシア政府高官は「フェイクだ」と愚かな発言を繰り返しますが、この非人道的な殺戮の数々、ひどい攻撃の仕方を公式に認めれば、国内外から非難が高まるのは必至。「嘘だ」と言うしか対抗手段がないのでしょう。

 ウクライナ出身のAP通信社記者でこの映画の監督・脚本・制作・撮影を務めたミスティスラフ・チェルノフはアカデミー賞授賞式で「この映画が作られなければ良かった」と話しました。侵攻開始から2年以上たってもウクライナ国民の苦しみは終わる兆しが見えません。どうすれば殺戮を止められるのか、国際社会はどう対応すべきなのか、真剣に考える必要があると、あらためて痛感させる作品になっています。
IMDb8.6、メタスコア83点、ロッテントマト100%。
▼観客7人(公開初日の午後)1時間37分。

「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」

 ザ・フォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」(1967年)の衝撃から始まって、加藤和彦と北山修の「あの素晴しい愛をもう一度」(1971年)ぐらいまでは当時を知る者にはたまらなく懐かしい展開です。この歌、元々はシモンズのデビュー作として作ったそうですが、あまりに良い出来だったので自分たちで歌った、ということをこの映画で初めて知りました。

 その後のサディスティック・ミカ・バンドについて僕は「タイムマシンにおねがい」(1974年)ぐらいしか知らないので、あまり興味がなく、映画も中盤から少しダレると感じました。それでも加藤和彦という天才的な音楽家の生涯とその影響力の大きさを俯瞰することができるのがこの映画の価値でしょう。

 僕は10代の頃、北山修のエッセイ「戦争を知らない子どもたち」「さすらいびとの子守唄」(いずれも1971年発行)に大きな影響を受けていて、映画のインタビューで北山修の現在の姿と加藤和彦への思いを知ることができてうれしかったです。北山修は現在、白鴎大学学長を務めています。

 監督は「音響ハウス Melody-Go-Round」(2019年)などの相原裕美。1960年生まれなのでリアルタイムでフォークルや「あの素晴しい愛をもう一度」のヒットを知っていると思います。
▼観客7人(公開5日目の午後)1時間59分。

「あまろっく」

 兵庫県尼崎市を舞台にした笑いと涙のドラマ。出演者は悪くはないんですが、話を詰め込みすぎ。細かなエピソードよりも細やかな描写が欲しいところです。

 あまろっく(尼ロック)は治水・高潮対策の尼崎閘門のこと。会社でも家でも普段は何もしない父親・竜太郎(笑福亭鶴瓶)が自称している。その父親が再婚相手に20歳の美女・早希(中条あやみ)を連れてきた。京都大学を卒業して入った大企業をリストラされてぶらぶらしている娘・優子(江口のりこ)は愕然。しかも父親は再婚して1カ月後に急死し、優子は“赤の他人”の早希と喧嘩しながら暮らすことになる。

 早希が45歳も年上の竜太郎と結婚したのは子どもの頃、家族の団らんに恵まれなかったからで、竜太郎が亡くなっても優子とともに暮らすのはせっかくできた家族を手放したくなかったからです。竜太郎の若い頃を演じる松尾諭と妻役の中村ゆりを含めて出演者は総じて良いです。次から次に起きる事件を絞って、語り方をさらに洗練したいところでした。監督は中村和宏、脚本は西井史子。
▼観客11人(公開2日目の午前)1時間59分。

「からかい上手の高木さん」

 山本崇一朗原作コミックのドラマ(今泉力哉監督、黒川想矢、月島琉衣主演)の10年後を描く劇場版。

 父親の仕事の都合で高木さんが島を去って10年。西片(高橋文哉)は母校の中学校の体育教師になっていた。そんな時、高木さん(永野芽郁)が教育実習生として島に帰ってくる。中学時代、高木さんにからかわれ続けた日々が再び戻ってくる。

 西片のクラスの生徒役・白鳥玉季と不登校の男子生徒の場面の深刻な長回しがうまくいっていず、ユーモアを絡めた全体との調和が取れていないなと思っていたら、クライマックス、高木さんと西片の長回しも今一つ効果を上げていませんでした。今泉力哉監督の傑作「街の上で」(2019年)におけるアパートでの若葉竜也と中田青渚の恋バナシーンの長回しに比べると、明らかに劣っていて、まだるっこしさばかりが先に立ってしまっています。

 高木さんも西片も25歳なのに15歳のような恋心の描写で、それなりに成長した2人になっていても良かったんじゃないでしょうかね。永野芽郁と高橋文哉自体は悪くありません。月島琉衣と白鳥玉季は、伊東蒼と並んで将来性を感じさせる女優だと思います。
▼観客13人(公開7日目の午後)2時間。