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2024年08月04日の記事

2024/08/04(日)「インサイド・ヘッド2」ほか(8月第1週のレビュー)

 高石あかり、伊澤彩織主演のシリーズ第3弾「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」は宮崎でロケしたので予告編にシーガイアや県庁、青島などがバンバン出てきます。宮崎では1週間先行して9月20日公開。それに先立ちテレ東でドラマ版の「ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!」が始まる予定ですが、まだ開始日のアナウンスはありません(ありました。9月4日開始だそうです)。映画には池松壮亮と前田敦子が出ていて、主題歌は女王蜂が担当。これまでの2作より予算かけてますね。楽しみです。


「インサイド・ヘッド2」

 前作(2015年、ピート・ドクター監督)は劇場で見逃し、amazonプライムビデオで見て、世評ほど良い出来とは思えませんでした。本作を見る前にディズニープラスで見直しましたが、評価はほぼ変わらず。9年後の本作は前作より明確に良い仕上がりだと思います。

 高校入学前の思春期を迎えた少女ライリーの頭の中には新たにシンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィの4つのキャラが現れ、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカたちは戸惑います。ヨロコビとカナシミが過って司令部を離れてしまったことから、ライリーには友情を失ってしまう危機が。ヨロコビとカナシミは司令部に帰ろうと奔走します。

 思春期になって頭の中の司令部の改造が突然始まるのが、なるほどと思える展開。前作では不要と思えるネガティブなカナシミの必要性が描かれましたが、今回はさまざまな感情の必要性が描かれ、そうしたあらゆる要素がライリーを形成していくのを素直に描いています。ピクサーはストーリーをチームで検討しているそうで、だから説得力のある物語になるのでしょう。

 日本語吹替版でヨロコビの声は前作では竹内結子でした。それを引き継いだ今回の小清水亜美も自然に演じています。カナシミの大竹しのぶがうまいのは当然ですが、シンパイの多部未華子も良いです。ライリー役は16歳の横溝菜帆。

 監督のケルシー・マンは「モンスターズ・ユニバーシティ」(2013年)や「2分の1の魔法」(2020年)などの脚本チームのリーダー(ストーリー・スーパーバイザー)を務め、本作が初監督。
IMDb7.8、メタスコア73点、ロッテントマト91%。
▼観客多数(公開2日目の午後)1時間36分。

「ツイスターズ」

 「ツイスター」(1996年、ヤン・デ・ボン監督)と登場人物は重複していず、続編とは言えませんし、リメイクでもありません。竜巻を題材にした同じような展開の映画というだけ。唯一重複しているのは“ドロシー”ですが、旧作が観測装置の名前だったのに対して、本作では竜巻を沈静化する装置の名前になっています(もちろん、「オズの魔法使」の主人公の名前から取ったものです)。一般的に本作の方が評判は良いようですが、僕は似たり寄ったりの出来と思いました。

 28年前の作品に比べてVFXに大きな差があるかと言えば、竜巻の大きさや迫力はむしろ旧作の方が勝っている感じです。旧作の登場人物たちは竜巻の観測チームで、自分たちで危機に飛び込んでいくので共感を持ちにくかったんですが、今回は竜巻の被害を抑えようとする主人公たちを描いています。主人公ケイトを演じるのは「ザリガニの鳴くところ」(2022年、オリヴィア・ニューマン監督)のデイジー・エドガー=ジョーンズ。

 ジョーンズは悪くないんですが、あんな簡単な仕組みと小さな装置で竜巻を抑えられれば、とっくにやってるでしょうね。気象現象はスケールが大きく、影響の及ぶ範囲も大きいですから個人の資金で制御できるものとは思えません。そのあたりのリアリティーのなさが惜しいです。監督は「ミナリ」(2020年)のリー・アイザック・チョン。
IMDb7.1、メタスコア65点、ロッテントマト76%。
旧作はIMDb6.5、メタスコア68点、ロッテントマト66%。
▼観客8人(公開2日目の午後)2時間2分。

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」

 予告編を見てデヴィッド・リンチ監督「ストレイト・ストーリー」(1999年)のような話かと思いましたが、これは実話ベースではなく、レイチェル・ジョイスの原作「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」(映画と同タイトルに改題して講談社文庫に入ってます)の映画化。主人公の動機が明らかになる場面のドラマティックさはフィクションのゆえなのでしょう。

 「ストレイト・ストーリー」は73歳の主人公が病に倒れた兄に会うために350マイル(約563キロ)を小型トラクターで旅する話でした。「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」はかつての同僚女性クイーニーがホスピスに入ったのを知った主人公ハロルド(ジム・ブロードベント)が元気づけるために約800キロを歩いて行く話。800キロも歩くというのは普通の人なら考えないでしょう。第一、ホスピスに入ったのなら、早く行かないと、間に合わない恐れがあります。

 ハロルドはクイーニーの手紙の返事を出すために立ち寄った店の女の子との会話で歩いて行くことを思いつき、何も準備せず携帯電話も持たずに出発します。取るものも取りあえず急いで行く、のではなく、ゆっくり行くわけです。クイーニーのいるホスピスには「歩いて会いに行くから」と伝え、自分が歩き続ける限り、クイーニーは死なないと信じることでハロルドは歩き続けます。途中で知り合った男がマスコミ関係者だったことから、ハロルドは新聞で紹介され、同行する人たちが増えていきます。このあたり、「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年、ロバート・ゼメキス監督)を思わせる展開。

 ハロルドと妻モーリーン(ペネロープ・ウィルトン)の関係は息子の死をきっかけにうまくいかなくなっていますが、別の女性に会いに行くことを知ったモーリーンは心穏やかではありません。ハロルドとクイーニーの関係がこの作品のポイントで、個人的には作りすぎの感じが拭えませんでした。
IMDb6.8、ロッテントマト77%。
▼観客11人(公開18日目の午後)1時間48分。

「スリープ」

 出産を控えたスジン(チョン・ユミ)の夫ヒョンス(イ・ソンギュン)が就寝中に夢遊病患者のように歩き回ったり、顔をかきむしったり、冷蔵庫の生肉を食べたりの奇行を繰り返すようになる。次第にエスカレートする夫の奇行に恐怖を感じたスジンは夫婦で睡眠クリニックを受診する。

 ヒョンスの奇行が単なる病気なのか、超常現象の影響なのか明確にしないのが好みではありません。映画は終盤、超常現象で説明するんですが、視覚的に描いていないのでどっちとも取れる地味な展開になっています。VFXを使ってドッカンドッカンの展開をつい期待してしまい、物足りなさを感じました。

 イ・ソンギュンは「パラサイト 半地下の家族」(2019年、ポン・ジュノ監督)など多数の映画・ドラマに出演してきましたが、麻薬不法投薬の疑いで警察の捜査を受け、昨年12月、車の中で死んでいるのが見つかりました。

 監督のユ・ジェソンはポン・ジュノの助監督を務めていた人で、これが初監督作。
IMDb6.5、メタスコア78点、ロッテントマト94%。
▼観客9人(公開6日目の午後)1時間34分。