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2026年01月18日の記事

2026/01/18(日)「万事快調 オール・グリーンズ」ほか(1月第3週のレビュー)

 「silent」の生方美久脚本のドラマ「嘘が嘘で嘘は嘘だ」(フジ)について、Yahoo!ニュースで紹介されていたのでTVerで見ました。このタイトルは受け狙いでダサいと思いますが、内容はおかしくて面白いです。夫の不倫で離婚した夫婦(錦戸亮、菊地凛子)がクリスマスの夜に居酒屋で飲んでいたら、そこに元結婚詐欺師の男(塩野瑛久)と刑事(竹原ピストル)が相席してくるという展開。シチュエーションと会話の面白さが冴えていて、どこかバカリズムを思わせるタッチ。かつ、海外の短編小説にもありそうな話ではあります。「妻です」と自己紹介する菊池凛子に「不倫相手です」と返す中田青渚がキュートです。このドラマ、FODでは昨年12月に一挙配信済みで、30分×4話とのこと。

「万事快調 オール・グリーンズ」

「万事快調 オール・グリーンズ」パンフレット
「万事快調」パンフレット
 茨城県東海村で鬱屈した日々を送る女子高生たちが大麻を育てて大金を手にしようとする、女子高生版「ブレイキング・バッド」といった内容。「ブレイキング・バッド」で高校の化学教師が作ったのはメタンフェタミン(覚醒剤)でしたが、女子高生たちは園芸同好会を装って、校舎屋上の温室で堂々と大麻を育てます。映画は後半の弾けっぷりが良く、南沙良、出口夏希、吉田美月喜が好演して、ユニークな青春映画になっています。原作は波木銅。「猿楽町で会いましょう」(2019年)の児山隆が脚本・編集・監督を務めました。

 ラッパーを夢みる東海村の高校生・朴秀美(南沙良)は学校にも家にも居場所がない。映画好きの矢口美流紅(みるく=出口夏希)は陸上部のエースで社交的な美人。スクールカーストの上位にいながらも、家庭に問題を抱えていた。そして、授業中に小指を切断するけがを負い、スクールカーストを滑り落ちて秀美たちとつるむようになる。どん詰まりの日々のなか、秀美は地元のラッパー佐藤(金子大地)の家で大麻の種を手に入れる。故郷を出るため一攫千金を夢みる秀美は漫画に詳しい毒舌キャラの岩隈真子(吉田美月喜)、岩隈の後輩で漫画オタクの藤木漢(羽村仁成)らを仲間に加え、園芸同好会オール・グリーンズを結成、大麻栽培に乗り出す。

 読書好きの秀美が読むのは「侍女の物語」「夏への扉」「ニューロマンサー」などハヤカワ文庫のSFばかり。映画好きの美流紅は東海村が出てくる「太陽を盗んだ男」を見に行こうと秀美たちを誘います。「東海村からプルトニウムを盗む場面がかっこいいんだ」。SFファンで映画ファンにはうれしい設定です。

 物語のメインになるのは秀美なんですが、美流紅のエピソードが良いです。美流紅は“みるく”という名前が好きではなく、友人には名前の由来を「親がアメリカのハーヴェイ・ミルクが好きで」と嘘をついています(自殺した父親とアイドルおたくの母親がハーヴェイ・ミルクなんて知っていたはずはないのだけど)。そんな美流紅が母親から名前の由来を聞く場面が泣かせます。

 秀美たちが行っているのは犯罪なので、決着をどうつけるか難しいところですが、映画は終盤、あり得ないような場面を描いています。考えてみれば、ここは「太陽を盗んだ男」の終盤を参考にしたのかもしれません。「そんな訳ねえだろ、バーカ」という人をくったセリフで終わるのは物語の結末としては弱いですが、この映画としては正しい終わり方だと思いました。

 前半を少しコンパクトにして後半に注力した方が良かったとは思いますが、十分に面白く、公開初日の1回目の上映で閑古鳥を鳴かせて良いような映画ではありません。PRが足りず、内容の伝え方も良くなかったのでしょう。
▼観客1人(公開初日の午前)1時間59分。

「28年後…白骨の神殿」

「28年後…白骨の神殿」パンフレット
「28年後…白骨の神殿」パンフレット
 「28日後…」「28週後…」「28年後…」と来て、次は「280年後…」かと思ったら、サブタイトルを付ける方式になりました(当たり前か)。前作に登場した白骨の神殿に住む医師ケルソン(レイフ・ファインズ)を主人公にした物語。

 前作でケルソンのもとで病気の母親を看取った少年スパイク(アルフィー・ウィリアムズ)は感染者に襲われかけたところを、ジミー・クリスタル(ジャック・オコンネル)率いる集団に救われますが、この集団、悪魔を崇拝していて、とんでもない残虐行為を繰り返していました。一方、ケルソンはサムソンと名づけた感染者(チャイ・ルイス=ペリー)にある治療法を試し、一定の効果があることが分かります。ジミーの集団は感染者を手懐けるケルソンを覇王=悪魔と誤解して接触してきます。

 話は悪くないですし、レイフ・ファインズも好演していますが、ゾンビよりも人間の方が残酷という描写はドラマ「ウォーキング・デッド」でも描かれましたし、感染者が頭を胴体から引っこ抜いたり、脳みそをすくって食べたり、ジミーたちが生きた人間の皮を剥いだりする残虐描写は苦手です。もう少し、描写を抑えてくれると良いのですがね。脚本は前作に続いてアレックス・ガーランド、監督は「キャンディマン」(2021年)、「マーベルズ」(2023年)のニア・ダコスタ。「28年後…」は三部作になるようで3作目が予定されています。
IMDb7.8、メタスコア81点、ロッテントマト94%。
▼観客10人ぐらい(公開初日の午後)1時間49分。

「小川のほとりで」

「小川のほとりで」パンフレット
「小川のほとりで」パンフレット
 ホン・サンス監督は年2本ぐらいのペースで映画を撮っているので、日本未公開の作品が増える一方とのこと。というわけで「月刊ホン・サンス」という特集企画が始まったのでしょう。5カ月かけて5本上映する企画で、「小川のほとりで」はその5本の中では最も評価が高いようです。

 ソウルの女子美術大学を舞台に大学講師(キム・ミニ)が演劇祭の演出に叔父(クォン・ヘヒョ)を招聘したことから起こる出来事を描いています。キム・ミニもクォン・ヘヒョもホン・サンス映画の常連ですし、固定カメラで長回しの会話劇なのも同じです。代わり映えしない内容だなと思いつつ、退屈はしませんでした。
IMDb6.8、メタスコア76点、ロッテントマト100%。キム・ミニがロカルノ国際映画祭最優秀演技賞を受賞。
▼観客4人(公開5日目の午後)1時間51分。

「満江紅 マンジャンホン」

「満江紅 マンジャンホン」入場者プレゼントのポストカード
入場者プレゼント
 タイトルを聞いた段階では麻雀の映画かと勘違いし、予告編を見てアクション映画かと想像しましたが、どちらでもなく、12世紀の中国で非業の死を遂げた英雄・岳飛が残した詩「満江紅」をモチーフにした歴史陰謀サスペンスでした。監督はチャン・イーモウ。二転三転どころか四転五転するストーリーが面白く、もうこれで終わりだろうと思ったら、最後にさらにひとひねりありました。こういうツイストに次ぐツイストの展開、僕は好きです。

 加えて、主要登場人物が任務を果たす途上で次々に死んでいくのはクレイグ・トーマスあたりのスパイ小説を思わせました(ただし、コメディーみたいな場面は不要でしょう)。

 こちらの中国の歴史に関する知識の乏しさはいかんともしがたく、完全に理解したとは言えないのが辛いところ。こういう映画こそパンフレットを読みたくなりますが、キネマ館では扱っていませんでした。全国公開から2カ月ほど遅れたので、在庫がなかったのでしょう。残念。メルカリでは出品されていますが、あまり買いたくありません。パンフも電子書籍化すればいいのにと思います。
IMDb6.4、メタスコア75点、ロッテントマト94%。
▼観客2人(公開6日目の午後)2時間37分。

「藤本タツキ 17-26 Part-1」、6位「同Part-2」

 昨年10月の公開に続いて16日から再公開されました。といっても昨年11月からamazonプライムビデオで配信が始まっていて、僕も配信で見ました。

 「チェンソーマン」の原作者藤本タツキが17歳から26歳までに描いた短編8作品のアニメ化で、7人が監督しています。Part-1は「庭には二羽ニワトリがいた。」(長屋誠志郎監督)、「佐々木くんが銃弾止めた」(木村延景監督)、「恋は盲目」(武内宣之監督)「シカク」(安藤尚也監督)の4作品。Part-2は「人魚ラプソディ」(渡邉徹明監督)、「目が覚めたら女の子になっていた病」(寺澤和晃監督)、「予言のナユタ」(渡邉徹明監督)、「妹の姉」(本間修監督)の4作品で、いずれも20分程度の長さです。

 最も面白かったのは「庭には二羽ニワトリがいた」。宇宙人に侵略され、人類は食べ尽くされてしまいますが、少年と幼い少女だけが学校の裏庭でニワトリの格好をして生き延びているというシチュエーション。人間が家畜を食べるように宇宙人は人間が大好物なので2人はヒヤヒヤしながら生きています。やがて1人の宇宙人が2人の正体を知ってしまう、という展開。怪物のような宇宙人のバラエティーに富んだデザインが良く、残酷描写を含めた描写も良いです。

 8本のうち7本はSFあるいはファンタジー。最後の「妹の姉」のみ高校で美術を学ぶ姉妹を描いた作品でした。これも絵に打ち込む姿が良いです。
IMDb8.0(アメリカは限定公開、韓国と台湾でも劇場公開していますが、他は配信のようです)。Part-1が1時間8分、Part-2は1時間16分。