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WOWOWの加入件数の減少が止まりません。2021年度以降毎年10万件前後の減少が続いています。2024年度は2月までに102,180件の減少で、加入件数は236万4932件。動画配信サイトより高い視聴料金がネックになっているようです。衛星放送は配信よりコストがかかるので料金が割高になるのは仕方ないんですが、開局当初からの視聴者としてはなんとか打開策を探してほしいところです。
WOWOWはオンデマンドも充実してきました。もしかしたら、衛星放送をやめて配信専業に移行するのも選択肢としてありじゃないでしょうかね。
読み書きができず定年退職してから夜間中学に通って学んだ男性と妻を描く実話ベースのドラマ。脚本、演出とも百点満点の出来とは思いませんが、足りない部分を笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音ら出演者の好演が大きく補っていて、泣かされること必定の展開でした。悲しくて泣かされるのではなく、主人公同様、相手を思いやる登場人物たちの気持ちの温かさが心にしみます。
主人公の西畑保(重岡大毅→笑福亭鶴瓶)は貧しい家に生まれ、級友と先生に盗みの疑いをかけられたことから小学2年生で学校に行くのやめた。漢字はまったく読めず、自分の名前も書けないまま成長し、さまざまな職を転々とする。親切な寿司屋の主人に助けられ、寿司職人として働くようになる。35歳の頃、見合いで皎子(上白石萌音→原田知世)と結婚。読み書きができないことを伝えられなかったが、結婚して半年たった頃、自分の署名もできないことを打ち明ける。皎子は「今日から私があんたの手になるわ」と言い、保を支え続ける。
この俳優4人がまず良いのですが、「ちょっと待ってえな」と言いながら、面接の途中で逃げた保を追いかける寿司屋の主人の笹野高史、学校の入り口で保に声をかける夜間中学の教師・安田顕、「よっこい、しょういち」と笑いながら回覧板を渡す隣家のくわばたりえ、弟妹を助けるために大やけどを負った皎子の姉役の江口のりこらが見ていてほっとするような演技をしています。学校や職場でいじめに遭い、騙されそうになった経験もある主人公がこうした人たちに助けられるエピソードが実に良いです。世の中、人の欠点をあげつらい、攻撃し、優越感に浸るような最低の人間ばかりではないわけです。
パンフレットによると、企画の発端は塚本連平監督の妻がテレビで西畑さんを取り上げたドキュメント番組を見たこと。その番組は「ザ・世界仰天ニュース」(日テレ、2020年11月放送)のようです。西畑さんは住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)主催の「60歳のラブレター」で2003年に金賞を受賞していますが、新聞社の記者から取材を受けたのは夜間中学に通い、妻にラブレターを渡した頃で、それからテレビなどでも取り上げられ、仰天ニュースに繋がったようです。
塚本監督は西畑さんに取材を重ね、脚本化していきました。講談社から同名の本(小倉孝保著)が出ていますが、原作にクレジットされていないのは別々の取材の結果だからでしょう(タイアップはしているかもしれません)。
それにしても何歳になっても学ぼうと努力する人の姿勢は美しいです。見習いたくなります。
▼観客多数(公開2日目の午前)1時間59分。
パンフレットの表紙
「オズの魔法使い」(ヴィクター・フレミング監督による1939年の映画は「オズの魔法使」)の前日譚の大ヒットミュージカルの映画化。後に邪悪な西の魔女となるエルファバ(シンシア・エリヴォ)と善良な南の魔女グリンダ(アリアナ・グランデ)の敵対と友情の物語となっています。2時間41分の上映時間をかけてもまだパート1ですが、これはこれで完結していて、たっぷり予算をかけた映像の見応えは十分にありました。
映画「オズの魔法使」で東の魔女は竜巻で飛んできたドロシー(ジュディ・ガーランド)の家の下敷きになって死亡。西の魔女はドロシーに水をかけられて溶けてしまいました。同じ緑色の肌であっても、「ウィキッド」のエルファバはその肌の色から父親に忌み嫌われ、入学したオズの大学の生徒たちからも差別を受けます。しかし、魔法の能力は際立っていて、大学のマダム・モリブル(ミシェル・ヨー)はエルファバをオズの魔法使いがいるエメラルドシティへ向かわせます。グリンダもそれに同行することになりますが、オズの魔法使いはある陰謀を秘めていました。
監督は「イン・ザ・ハイツ」(2020年)のジョン・M・チュウ。人間と対等に普通に暮らしていた動物たちが突然拘束されたり、肌の色によって差別されたりする描写はテーマとして分かりやすく、歌とダンスも申し分ないですが、物語の構成に目新しさはなく、訴求力には少し欠けるように思いました。シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデは素晴らしいです。個人的には特に素直さと善良さを感じさせるグランデの歌と振る舞いに引かれました。魔女の力に目覚めたエルファバがどうなるのかにも興味がありますが、パート2ではグランデにもっと活躍させてほしいです。
IMDb7.5、メタスコア73点、ロッテントマト88%。
作品、主演女優、助演女優賞などアカデミー10部門にノミネートされ、美術賞と衣装デザイン賞を受賞しました。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間41分。
「TATAMI」パンフレット
実話を基にした映画化。話のベースになったのは2019年8月、東京で開かれた世界柔道選手権男子81キロ級。イラン代表のサイード・モラエイは決勝まで進めば、イスラエル代表のサギ・ムキと対戦するため、国から棄権を強要されていて、それも影響したためか、準決勝で敗れたそうです。
映画は主人公を女性に変えています。イラン代表の女子柔道選手レイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)とコーチのマルヤム・ガンバリ(ザーラ・アミール)はイラン初の金メダルを目指し、ジョージアの首都トビリシで開かれた女子世界柔道選手権に挑む。レイラは60キロ級のトーナメント戦に出場。順調に勝ち進むが、イラン政府から棄権を命じられる。このままレイラが勝ち進めば、決勝でイスラエルの選手と戦う可能性があるからだ。政府はレイラの両親を拘束して棄権を迫る。夫と子供は国境を目指して逃げた。イラン政府に従うか、戦い続けるか。レイラとマルヤムは決断を迫られる。
試合場面の迫力と追い詰められる2人のサスペンスが効果を上げています。映画の中ではイランがイスラエルを国として認めていないから試合することを認めないという説明ですが、パンフレットによると、試合に負けた場合、最高指導者の面目がつぶれるために避けているのだそうです。監督はガイ・ナッティブとザーラ・アミール。
IMDb7.5、ロッテントマト83%(アメリカでは映画祭での上映)。
▼観客3人(公開5日目の午後)1時間43分。
東京都世田谷区の小学校を長期取材したドキュメンタリー。短縮版の「Instruments of a Beating Heart」(23分)はアカデミー短編ドキュメンタリー賞にノミネートされましたが、受賞は逃しました。元の映画は1年以上にわたって取材し、1学期、2学期、3学期を経て新入生の入学式までが描かれています。その意味で、短縮版は全体のクライマックスに相当するものと言えるでしょう。
短縮版は入学式で演奏する児童がメインでしたが、長編版は先生たちにもスポットが当てられて興味深かったです。短縮版の主人公と言える1年生のあやめちゃんはアカデミー賞授賞式のレッドカーペットで山崎エマ監督と一緒にNHKのインタビューに答えていました。NHKが共同製作なので、本編はそのうちNHKで放映されるんじゃないでしょうか。
IMDb7.2(アメリカでは映画祭での上映)。
▼観客11人(再公開6日目の午前)1時間39分。
胸に蝶の刺青があることからパピヨンと呼ばれた男の監獄島からの脱獄を描いた同名小説の映画化。1931年、無実の罪で終身労働を宣告され、南米の仏領ギアナの刑務所に送られたアンリ・シャリエールが何度も失敗した後に脱獄に成功する、という物語。
1973年の作品なので劇場でリアルタイムでは見ていません。テレビでは数回見ていますし、WOWOWから録画したのも持ってますが、劇場で見ておきたかった作品でした。
パピヨンを演じるスティーブ・マックイーンと親友ドガ役のダスティン・ホフマンは良いですが、映画自体はそれほどの傑作ではないと思います。囚人たちの描写が「猿の惑星」(1968年)に似ていると思えるのは監督がフランクリン・J・シャフナーだからでしょう。脚本はダルトン・トランボとロレンツォ・センプル・ジュニア。
脱獄に成功し、椰子の実のイカダにつかまったパピヨンの最後のセリフはテレビでは「俺はくたばらねえぞ!」だったと記憶しています。映画の字幕は「俺は生きてるぜ!」だったかな。英語のセリフは「Hey You, Bastard! I'm Still Here!」でした。
パピヨンが収監されたのは南アメリカの悪魔島(ディアブル島)。ロマン・ポランスキー監督の「オフィサー・アンド・スパイ」(2019年)の主人公ドレフュス大尉が収監されたのもここでした。
IMDb8.0、メタスコア58点、ロッテントマト73%。
2017年のリメイク版(マイケル・ノアー監督)はIMDb7.2、メタスコア51点、ロッテントマト52%。
▼観客11人(公開7日目の午後)2時間31分。
小学校を長期取材したドキュメンタリー「小学校 それは小さな社会」(山崎エマ監督、1時間39分)の短縮版(23分)はアカデミー短編ドキュメンタリー賞にノミネートされ、YouTubeで公開されています。
残念ながら本編の方は見逃しましたが、これはその中から入学式の演奏でシンバルを担当することになった1年生の女の子をめぐるエピソードをピックアップしたもの。練習が足りないことを先生に叱られて泣き出してしまった女の子が立派に演奏できるまでのクラスメートや先生とのかかわりを描いています。タイトルの「Instruments of a Beating Heart」(直訳すると、「鼓動する心臓を持つ楽器たち」)の意味は最後の方に出てきます。
「ねえ、私たちって何なんだろうね」
「心臓、の一部? 私たちは心臓のかけらで、みんながそろったら、こんな形(ハート)になる。で、一人、こんな風にずれたら、もう心臓はできないの」
「本当だよ、私たちは過酷な楽器だよ」
これが2年生になったばかりの子供たちの会話です。感心します。「小さな社会」なわけです。
同じく短編ドキュメンタリー候補の「ザ・レディ・イン・オーケストラ: NYフィルを変えた風」と短編実写映画賞候補の「アヌージャ」、歌曲賞候補の「6888郵便大隊」はNetflixが配信しています。
VIDEO
よくあるタイムトラベルもの、ループものなのに主人公2人の会話で構成するクライマックスが見事すぎて参りました。ベテランの力量を徹底的に見せつける脚本(坂元裕二)の説得力。これは海外に通用する高いレベルの脚本だと思います(だから坂元裕二は「怪物」でカンヌの脚本賞取ったのですが)。積極的にループすることを除けば、そのアイデアは普通のものなのに、こんなにオリジナルな映画ができるのが驚きで、中盤の少しの緩みを補って余りあるクライマックスの充実ぶりにひたすら感心しまくりました。
結婚して15年になる硯カンナ(松たか子)は夫の駈(松村北斗)を電車事故で失う。駈は線路に落ちたベビーカーの赤ちゃんを助けようとして犠牲になったのだ。夫婦生活は冷え切っていて、駈はその日、離婚届を出す予定だった。数カ月後、カンナは首都高のトンネル内で車の運転を誤る。気がつくと、どこかのリゾート地にいた。そこは15年前、2009年8月1日のリゾートホテル。駈とカンナが出会った場所だった。45歳のカンナはそこで29歳の駈に出会い、かつての恋心を思い出す。駈の事故死を防ぐため、カンナは何度もタイムトラベルし、あらゆる手段を講じて事故当日の駈の行動を変えようとするが、すべて失敗に終わる。そして駈を救う唯一の方法は自分たちが出会わず、結婚しないことしかないと結論する。
「神様どうか私たちが、結ばれませんように」というこの映画のコピーは秀逸ですが、映画はそれ以上に優れたクライマックスを用意しています。坂元裕二はパンフレットのインタビューで「今回描きたいと思ったのは、タイムトラベルをひとつの入り口として、人と人との関係をもう一度やり直すことです」と話していますが、その通りの展開になっていきます。
同じく坂元裕二脚本の「花束みたいな恋をした」(2020年、土井裕泰監督)では絹(有村架純)と麦(菅田将暉)が麦の就職以降、徐々にすれ違っていく様子が描かれていましたが、この映画ではカンナと駈が口げんかの果てにパンとご飯の朝食を別々に作って別の部屋で食べ、それぞれのベッドで寝るようになるという家庭内別居のような状況を描いています。ロマンティックなだけの浅薄なラブストーリーではなく、厳しさを併せ持った心にしみるドラマになっているわけです。
ユーモアを絡めたこういう優れた脚本があれば、ある程度の映画にはなるものですが、塚原あゆ子監督はさらに的確な演出で冒頭の事故のシーンから観客を引き込み、感情を揺さぶる傑作に仕上げました。「中盤の少しの緩み」と書きましたが、脚本を読むと、中盤にダレ場はありません。演出の緩急の付け方にほんの少しの計算違いがあったということなのでしょう。
心に残ったセリフをいくつか上げておきます(シナリオブックから引用)。
ロープウェイの中での駈とカンナの会話。
「恋愛感情がなくなると、結婚に正しさが持ち込まれます。正しさは離婚に繋がります」
「恋愛感情をなくさなければ」
「恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります」
駈からパーティーに誘われる場面。
「わたし、45歳です」
「それが何か?」
「29歳の男性は45歳の女性とはパーティーに行かないものです」
そしてクライマックス。なぜ2人の仲が悪くなったか説明する場面。
「なんでじゃないの。だからなの。いい? 好きなところを発見し合うのが恋愛でしょ。それはわかるよね。嫌いなところを見つけ合うのが結婚」
そうした夫婦の行き着く先を2本のボールペンで説明するカンナ。
「ボールペンが二本あります。お互いに期待しない。感情も動かない。無の状態。これが夫婦の行き着くところです」
シニカルでユーモアのあるセリフの数々。坂元裕二、なんでこんなに巧いんだ、分かってるんだと思わざるを得ません。それを活かしているのが松たか子のコメディエンヌとしての資質で、松たか子は若い頃から一流のコメディエンヌの側面を持っていました。おかしさとロマンティシズムがあふれるタイトルのファーストキスの場面にもそれが発揮されています。
カンナの20代の場面は以前の松たか子の輝くような美しさを驚くほど再現していて、これはほうれい線を隠すなどのメイクだけではなく、CGを使っているのかもしれません。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間4分。
パンフレットの表紙
アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた「フード・インク」(2008年)の続編。前作ほどのショッキングさはありませんが、食に関する危険のほか、生産現場の奴隷労働並みの実態など学びのある内容となっています。
特に警鐘を鳴らしているのは前作以降に急増した超加工食品。「添加物、人工甘味料、合成香料などを化学的に調合した」食品で、健康に影響を及ぼすとされています。フェアな労働による自然農法で生産された食品を加工せずにそのまま調理して食べるのが健康を維持することになるのでしょう。
監督は前作に続いてのロバート・ケナーと前作を共同プロデュースしたメリッサ・ロブレドの共同監督となっています。
IMDb6.8、メタスコア70点、ロッテントマト79%。
▼観客7人(公開6日目の午後)1時間34分。
沖縄出身バンドHYの名曲「366日」にインスパイアされた赤楚衛二、上白石萌歌主演のラブストーリー。
「ファーストキス 1ST KISS」の見事な脚本に比べると、大きく見劣りがします。一応、つじつまを合わせただけの内容。それだけでいっぱいいっぱいな感じです。脚本家デビューの福田果歩、これがスタート地点で、ここからどう洗練していくか、磨き上げていくかが勝負でしょう。少なくとも、2度も難病を出す設定は回避する手段がいくらでもあったと思います。
共演は中島裕翔(良い役柄です)、玉城ティナら。監督は「矢野くんの普通の日々」(2024年)など青春映画が多い新城毅彦。
▼観客多数(公開28日目の午後)2時間3分。
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