福島県を取り上げたNetflixの番組に対して「復興庁と福島県が対応を検討している」とYahoo!ニュースにあった(「被災地で『被ばく食材かも』=米動画大手番組―福島県など対応検討」=時事通信配信)。記事にはこうある。
(ニュージーランド出身の)記者を含む外国人のツアー参加者が、同県富岡町や浪江町など原発事故の被災地を巡った。番組では記者が、原則立ち入り禁止の帰還困難区域に無許可で侵入し、廃虚となったゲームセンター内を撮影。浪江町の食堂では、出された食事に対し「被ばく食材かもしれない」とコメントしている。
ツアー参加者が放射線におびえる姿も繰り返し登場し、バス移動中に線量計の数値が上昇を続けると「もう十分だ」との声が上がり、ツアーは中断された。帰還困難区域などを車で通過する際には一時的に線量が高くなることがあるが、番組では移動していた場所は明示されていない。
気になったので番組を見てみた。問題の番組は、記事には「ダークツーリスト」とあるが、邦題は「世界の”現実”旅行」(この邦題が書いてないということは、記者は番組を確認していないのではないかな)。ニュージーランド製作の1話40分程度のドキュメンタリー番組で全8回。その第2回に日本が取り上げられている。福島のほか、ロボットが受付する変なホテル(明らかにハウステンボスだが、場所は明らかにされない)、富士の樹海、長崎の端島(軍艦島)を記者が訪ねるというものだ。
記事にある「原則立ち入り禁止の帰還困難区域に無許可で侵入」というのは車で通過はできるが、降りてはいけない場所。記者はバスを降りてゲームセンターの廃墟に入る。バスに戻ると、警察の車がそばに止まっていて、通訳兼ガイドが事情を聞かれている。車を降りたのはまずかったが、警察も事情を知っているのであらためて問題視するほどではない。「被ばく食材かもしれない」というセリフは正確には「被ばく食材かもしれないが、おいしい」。記者は料理を食べており、記事とは少しニュアンスが異なる。日本人なら、人体に影響するレベルの被ばくした食材が流通するわけがないというのは知っているけれど、外国人には分からないだろうから、こういう不安は正直なものなのかもしれない。
このほか、「ツアー参加者が放射線におびえる姿も繰り返し登場し、バス移動中に線量計の数値が上昇を続けると『もう十分だ』との声が上がり、ツアーは中断された」という部分はバスの中で各自持っている線量計の数値がぐんぐん上がるシーンを指す。通訳兼ガイドは普段の暮らしで許容できるのは0.2(マイクロシーベルト?)が限度と言うが、1.0を超え、2を超え、ついには9を超える。これなら脅えるのも仕方がない。ここにやらせの疑いがあるのなら、実際に数値がどうなのかを検証する必要があるだろう。
タイトル通りダークな部分を紹介するツアー番組なので高尚な内容とは言えないけれど、強い悪意があるわけではないという印象。大騒ぎするほどではない。IMDbの評価は7.5で、全8本の中では2番目に高い("Dark Tourist" Japan (TV Episode 2018) - IMDb)。
福島とは違うが、間違いはある。樹海のパートで「自殺の名所になったのは『黒い樹海』の影響」と紹介されるのだ。調べてみると、「黒い樹海」は松本清張原作だが、富士の樹海とは関係ない。同じ松本清張でも「波の塔」の方らしい(最後にヒロインが樹海の中に入っていく)。直接的にはNHKが1973年に銀河テレビ小説枠で放送したドラマ「波の塔」で影響される人が出たそうだ。海外では広く「黒い樹海」となっているのは、同じ松本清張原作での勘違いが広まっているのだろう。
「波の塔」は1960年に中村登監督で映画化されている。どこかで配信していないか調べたら、Huluにあった。Huluは新作映画ではNetflixやamazonプライムに負けているが、こういう古い日本映画のラインナップでは侮れない。amazonプライムでは見放題にはなく、HD画質400円だった。