2004/04/14(水)「イン・ザ・カット」

 パンフレットによると、in the cutとは「ギャンブラーが、他人のカードを盗み見るときに使う言葉。意味は隙き間、隠れ場所。語源は女性の性器。転じて、人から危害を加えられない、安全な場所のこと」だそうだ。

 ジェーン・カンピオンがメグ・ライアン主演で撮ったサスペンス。といっても、カンピオンはこういう題材には向いていないようで、ミステリとしてはほとんど機能しない。では何の映画かというと、タイトルのような映画なわけである。ライアンは自慰にふけるシーンや全裸のラブシーンまで披露し、世間と深くは交流しない“安全な場所”にいた女の変化と女の性を熱演しているけれど、サスペンスの部分がおざなりなので映画全体としても盛り上がってこない。よく言えばアンニュイな、悪く言えば、かったるい雰囲気に終始し、意味がありそうでない映画になっている。殺人犯かもしれない男に惹かれていく女の孤独や不安、揺れ動く気持ちをもっと綿密に描く必要があっただろう。殺人犯かもしれない異性を愛するという題材なら「シー・オブ・ラブ」(1989年、ハロルド・ベッカー監督、アル・パチーノ、エレン・バーキン主演)の方がミステリとしても官能的な描写でもよほどよくできていたと思う。

 ニューヨークの大学講師フラニー(メグ・ライアン)は街のスラングや詩の断片を集めるのが趣味で、他人とは適度な距離を保っている。腹違いの妹ポーリーン(ジェニファー・ジェイソン・リー)は対照的に感情的で結婚願望が強い。スラングを教えてもらうために生徒のコーネリアス(シャーリーフ・パグ)と街のバーに入ったフラニーはトイレに続く通路でBlowjobの場面に出くわす。男の顔は暗がりで見えなかったが、手首には刺青があった。数日後、刑事マロイ(マーク・ラファロ)が殺人事件の聞き込み調査でフラニーのアパートを訪れる。殺された女はバーの通路でBlowjobしていた女。喉を切り裂かれ、バラバラに切断されて発見された。フラニーはマロイの手首に刺青があるのを見つける。セックスに積極的なマロイはフラニーに興味を示し、2人は危うい関係になる。そしてまたも女の惨殺死体が発見される。

 フラニーが“安全な場所”に閉じこもるのはスケート場で会って30分で婚約した自分の両親がやがて離婚したことがトラウマになっているためらしい。他人から傷つけられたくないわけである。そういう女の現状と変化がメグ・ライアンの演技では描き切れていない。ラブコメの女王だったメグ・ライアンも42歳。相変わらずきれいだが、今さら濃厚なラブシーンを見せられても困る。しかもその熱演がほとんど映画の出来に貢献していないのがもっと困る。風貌だけはなんだかジェーン・フォンダを思わせたが、メグ・ライアン、あまり演技力はないと今さらながら思わざるを得ない。カンピオンの演出は、細部は良くても、全体をまとめる部分で凡庸さが目に付いた。

 マーク・ラファロは口ひげがあって、若い頃のバート・レイノルズを思わせた。「ミスティック・リバー」では真面目な警官だったケヴィン・ベーコンがライアンにつきまとう変態的な男を演じて、実にぴったりと思えてしまう。