2001/05/01(火)「トラフィック」
緊密な構成、数多い登場人物、ドキュメンタリー・タッチ。「トラフィック」はどこを取っても完璧な仕上がりである。マイケル・ダグラス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの夫婦共演も悪くないが、下っ端警官を演じるベニチオ・デル・トロとドン・チードルの在り方に共感する。この2人が映画に大衆性を持たせたと思う。
特にデル・トロは焦点深度の深い役柄で、単純な正義感でも悪に対する憎しみでもなく、殺された同僚の死に報いるために麻薬組織壊滅に力を貸す。感心すべき演技で、アカデミー助演男優賞は当然の結果だろう。ドン・チードルは「フレンチ・コネクション」のジーン・ハックマンに相当する役柄と言える。
スティーブン・ソダーバーグの演出に無駄な部分は一切なく、麻薬戦争という主題と戦うべき理由を簡潔に浮かび上がらせている。僕は演出の技術そのものに感心する傾向があるが、これはその好例。「フレンチ・コネクション」が刑事の立場から麻薬コネクションを追いつめる話だったのに対して、「トラフィック」の場合はテーマの取り上げ方が多角的、重層的であり、映画の印象も深いものになる。事件は何も解決しないけれど、希望を持たせたラストの処理などは極めて真っ当だ。
一方でこの演出は足し算によるものとの思いもする。これとこれとこれを組み合わせて、こういう風に描けば、こんな効果が出るという正確な計算に基づいたもの。余計な部分がないので密度も濃くなるのだけれど、映画の遊びとは無縁であり、テーマに関心を持てない人にはあまり面白くない映画なのだろうな、と思う。