2021/02/27(土)「あのこは貴族」とヒエラルキー

 最近、女性監督の活躍が目覚ましい。「あのこは貴族」もその1本で、岨手由貴子監督が山内マリコの同名小説を映画化した。都内の開業医の家の箱入り娘で経済的に恵まれた榛原華子(門脇麦)と地方出身の時岡美紀(水原希子)。普段は交流のない世界で暮らしている2人は1人の男を巡って邂逅し、主に華子の方に変化が訪れる。

 貴族や階級は今の日本には存在しないが、階層構造(ヒエラルキー)は厳然とある。タイトルの貴族とは金融資産5億円以上に分類される超富裕層のことだろう。その超富裕層に属する華子は27歳。周囲から早く結婚するように圧力がかかり、婚活に励むが、なかなか好きになれる相手は見つからない。そんな時、義兄の紹介で、代々続く家柄出身の弁護士・青木幸一郎(高良健吾)とお見合いをする。ハンサムな青木に見とれてしまった華子は再び会うことを約束し、帰りのタクシーの中で「こんなことってあるのでしょうか?」とつぶやく。2人は順調に交際を深めて婚約する。ある日、華子は青木のスマホに見知らぬ女から「私の充電器持って帰らなかった?」というSMSが来たのを見てしまう。

 その女、時岡美紀は富山出身。猛勉強の末、慶応大学に入学して、慶応生は幼稚舎からエスカレーター式に進学してきた内部生と、受験で入ってきた外部生に分類されるのを知る。内部生たちは裕福な家庭出身で、お金の使い方も外部生とは違う。美紀は父親の失業で学費を自分で稼ぐことになり、キャバクラで働くが、払いきれずに大学を中退。水商売を経て就職する。青木と出会ったのは大学時代で、水商売時代に偶然再会してそのままずるずると関係を続けていた。

 華子の親友でバイオリニストの相楽逸子(石橋静河)はあるパーティーに青木が美紀と一緒に来ているのを見て華子に連絡。華子と美紀は会うことになる。いわば正妻と愛人の対峙だが、敵対するわけでないのがこの映画の新しいところだ。2人を引き合わせた逸子は言う。「日本って女を分断する価値観が普通にまかり通っているじゃないですか。私、そういうの嫌なんです。本当は女同士で叩き合ったり、自尊心をすり減らす必要ないじゃないですか」。

 穏やかにゆっくりと話し、いかにも超富裕層の雰囲気を漂わせる門脇麦と、強さとたくましさを備えた水原希子。その中間にいるのが超富裕層にいながら旧来の価値観に縛られず、結婚してもいつ離婚しても大丈夫なように音楽家としての自立を目指す石橋静河の役柄だ。実は育ちの良さと素直さを一番感じさせるのは石橋静河本人であったりする。

 「華子と美紀の関係はある種のシスターフッド」と岨手監督は語っている。住む環境の異なる女性たちがヒエラルキーを超えることはなくても、解放のために連帯することはできる。そんな意味だろう。女性作家の原作を女性監督が繊細に演出して女優たちが素晴らしく見事に演じている。その分、高良健吾をはじめとした男性陣の描き方がややステレオタイプになっているのは残念だが、小さな傷と言っていいだろう。