2022/03/13(日)「THE BATMAN ザ・バットマン」ほか(3月第2週のレビュー)

「THE BATMAN ザ・バットマン」は「猿の惑星」シリーズをリブートさせたマット・リーヴス監督がまたもやシリーズのリブートに成功した傑作。街の有力者を次々に殺していくリドラーの正体と本当の目的を終盤まで周到に伏せた脚本(リーヴスとピーター・クレイグ)が良く、「バットマン」映画の中でも上位に位置する仕上がりになっています。「俺は復讐だ(I am vengeance)」と名乗っていたバットマンがリドラーとの知能戦の中でゴッサム・シティの「希望」に変わっていく過程をダークでハードな雰囲気とともに描き、2時間56分の見応えのある作品になりました。

パンフレットによると、バットマンが自警活動を始めて1年と少したった頃の物語。バットマンに助けを求めるバット・シグナルは夜空に浮かぶ仕組みが既にあり、市警の刑事ゴードン(ジェフリー・ライト)とバットマンは協力して悪と対決している。ある夜、ゴッサムの市長が殺され、現場には謎々が残されていた。犯人はリドラーと名乗り、市警本部長と検事もリドラーの犠牲になる。リドラーはゴッサムの腐敗にまみれた過去の事件の嘘を暴くのが目的で、その過去は街を裏社会で牛耳るファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)とペンギンことオズワルド・コブルポット(コリン・ファレル)も関わっているらしい。ファルコーネに恨みを持つキャットウーマンことセリーナ・カイル(ゾーイ・クラヴィッツ)も事件に関わってくる中、バットマンはリドラーの正体に迫っていく。

ロバート・パティンソンがバットマン=ブルース・ウェイン役に選ばれたのは陰のあるキャラクターであることも理由の一つでしょう。リーヴスがこの映画を手がけるのに心掛けたのは原作コミックのダークな雰囲気の再現にあったのではないかと思います。クリストファー・ノーランの3部作もダークでしたが、この映画はそれ以上で、バットマンは当初、単純な正義のヒーローではなく、何者かに両親を殺された復讐のために悪人たちに対処しています。

バットマンとリドラーの境遇は似ていて、終盤、2人が対峙する場面はシチュエーションも含めて黒澤明「天国と地獄」(1963年)の三船敏郎と山崎努を彷彿させました。バットマン=ウェインの本部を従来のバットケイブ(洞窟)から高層ビルのてっぺんに変更したことも「天国と地獄」と同じ効果があり、リドラーは子どもの頃からこの建物を見上げて、ウェインへの憎悪を蓄積してきたのでしょう。

ゾーイ・クラヴィッツのスリムなキャットウーマンは極めて魅力的。ペンギンの太った顔のメイクで、演じているのがコリン・ファレルとは分かりませんでした。アメリカでの評価はIMDb8.5、メタスコア72点、ロッテントマト85%となっています。

「サタンタンゴ」

Huluで2日かけて見ました。ハンガリーの田舎の村が舞台。KINENOTEの解説を引用すると、「降り続く雨と泥に覆われ、活気のない村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。村人たちは、そんな彼の帰還に惑わされてゆく。タンゴのステップ<6歩前に、6歩後へ>に呼応した12章が、全編約150カットという驚異的な長回しで詩的かつ鮮烈に描かれる」という映画です。

この本筋だけだったら、7時間18分もかかりませんが、引きこもり気味の太った医師がパーリンカ(果物を原料とする蒸留酒)を買いに外出する第3章「何かを知ること」や、少女と猫の話がショッキングな方に向かう第5章「ほころびる」など派生した話に面白さがあります。一方で、酒場で踊りに興じる人たちのシーンが延々と続くなど、こんなに長くはいらないと思えた箇所もありました。

完成度としては2012年度のキネマ旬報ベストテン1位「ニーチェの馬」の方が明らかに上です。7時間以上という映画体験はなかなかないので評価の高さはそのあたりを考慮してのことだと思います。

章立ては以下の通りでした(時間は長さではなく開始時間です)。
   10分~第1章 ヤツらがやって来るという知らせ
   43分~第2章 我々は復活する
1時間15分~第3章 何かを知ること
2時間17分~インターミッション
      第4章 蜘蛛の仕事 その一
2時間44分~第5章 ほころびる
3時間38分~第6章 蜘蛛の仕事 その二(悪魔のオッパイ 悪魔のタンゴ)
4時間22分~インターミッション
      第7章 イリミアーシュが演説をする
4時間36分~第8章 正面からの眺望
5時間29分~第9章 天国に行く? 悪夢にうなされる?
6時間00分~第10章 裏からの眺望
6時間32分~第11章 悩みと仕事ばかり
6時間49分~第12章 輪は閉じる
10分から始まっているのはその前にプロローグ的な描写があるからです。牛舎から20頭ぐらいの牛が出てきて、そのうち1頭が交尾しようとするというシーンで、なんだこれはと思いますが、第1章は不倫している男女のシーンから始まるのでまんざら関係ないわけでもありません。

タル・ベーラ監督の作品はHuluには「サタンタンゴ」しかありませんが、U-NEXTには「ニーチェの馬」もありました(配信は今月31日まで)。

「声もなく」

誘拐された11歳の少女を預かることになった青年をめぐる韓国映画。公式サイトには「珠玉のサスペンス」とありますが、うーん、これはサスペンスじゃないでしょう。青年は口がきけず、幼い妹と2人暮らし。誘拐された少女と3人で疑似家族を形成していくことになるのは予想された展開で、僕は「レオン」を思い浮かべました。

青年の仕事は犯罪組織が殺した人間の死体処理。これは「ニキータ」のジャン・レノの仕事でしたから、この映画で長編デビューという脚本・監督のホン・ウィジョンは、リュック・ベッソンにインスパイアされた部分があるのかもしれません。アクションはありませんけどね。

残念ながら話にきちんと決着がつかないので、落ち着かない終わり方でした。