2022/04/03(日)「やがて海へと届く」ほか(4月第1週のレビュー)

「やがて海へと届く」は彩瀬まるの同名原作を中川龍太郎監督が映画化。突然いなくなった親友を思い続ける女性の姿を描いています。

一人旅に出たまま行方が分からなくなったすみれ(浜辺美波)。大学で知り合い、親友となった真奈(岸井ゆきの)は5年たってもすみれのことに思いをはせている。しかし、恋人だった遠野(杉野遥亮)や、すみれと確執があった母親(鶴田真由)らは既にすみれの不在を受け入れ、新たな生活を始めていて、真奈はそれに反発を感じていた。ある日、真奈は遠野から、すみれが大切にしていたビデオカメラを託される。

すみれの行方不明の原因が津波であることが観客に示されるのは映画の中盤で、これは別に隠すことでもないので、序盤に出しても良かったのではないかと思います。アニメーションも使った終盤が観念的になってしまうのが残念ですが、それ以上に死者の視点での回想が現実描写とうまく繋がらないもどかしさを感じました。原作もそうなっているようですが、小説なら許されることでも、映画ではうまくいかないことがあります。死者の回想にせず、ビデオカメラにすみれの真意が記録されていたことにするなどのアレンジが欲しかったところです。すみれの家庭環境も説明が不足していると感じました。

岸井ゆきの、浜辺美波とも好演しています。終盤に向かってだんだん髪が短くなる浜辺美波はどんな髪型でもOKのかわいさ美しさ。次の映画は来年公開の「シン・仮面ライダー」ですが、主演映画も撮ってほしいものです。

中川監督の映画は「わたしは光をにぎっている」(2019年)しか見ていませんでしたが、コロナ禍に生きる人たちを描いた昨年のHuluオリジナルドラマ「息をひそめて」はとても良い出来でした。

「アンビュランス」

マイケル・ベイ監督がデンマーク映画「25ミニッツ」をリメイクしたアクション。銀行から3200万ドルを強奪した犯人グループのうち2人が、負傷した警官と女性救急救命士を乗せた救急車(アンビュランス)を乗っ取り、逃走するという話です。ドローンを使ったスピーディーな撮影など見どころはあるんですが、逃走する救急車というシチュエーションが単調に続き、人質がいるとは言え、道路封鎖すれば良いだけのことなのでだんだん飽きてきます。136分の上映時間も長く感じ、もっとタイトにまとめた方が良かったでしょう。

犯人役はジェイク・ギレンホールと「マトリックス レザレクションズ」のヤーヤ・アブドゥル=マーティン二世。救急救命士キャム役のエイザ・ゴンザレスは「パーフェクト・ケア」に続いて好演しています。

ただし、評価は冴えず、IMDb6.5、メタスコア46点、ロッテントマト74%。「25ミニッツ」は見ていませんが、これもIMDb5.3と低いです。リメイクがオリジナルより高い点数なのは主に撮影方法とアクション演出の差ではないかと思います。マイケル・ベイ、アクションの撮り方だけは一級品です。

「白い牛のバラッド」

夫が死刑になったシングルマザーを描くイラン映画。マリヤム・モガッダム、ペタシュ・サナイハが2人で脚本・監督を担当し、モガッダムは主演も務めています。

主人公のミナは夫の処刑後1年あまりたってから、夫は冤罪で他に真犯人がいたと告げられる。牛乳工場で働き、内職もしているミナは耳の聞こえない娘と二人暮らし。家賃を払えないほど困窮している。そこに夫からの借金を返しに来たというレザ(アリレザ・サニファル)が現れ、ミナは次第にレザと親しくなっていく。レザにはある秘密があった、という展開。

イランは死刑が多いそうで、映画は取り返しのつかない死刑への批判と子供を抱えた女性の生きにくさを描いています。シングルマザーの貧困はイランだけの問題ではないでしょう。

イランの通貨は分かりにくく、流通しているのはリヤルですが、旧通貨のトマンで言う場合が多いとのこと。1トマンは10リヤル。映画の中で夫の賠償金は2億7000万トマンとのことでしたが、1トマンは0.029円なので円に換算すると783万円にしかなりません。死んだ夫からレザが借りていたとされる100万トマンは2万9000円ぐらい。単位が大きいので多額かと思ってしまいますが、そうではありません。

白い牛は「死を宣告された無実の人間のメタファー」とのこと。

「アクターズ・ショート・フィルム2」

WOWOWオンデマンドで見ました。俳優が監督を務めた5本の短編から成り、順番に「いくえにも」(青柳翔監督)、「物語」(玉城ティナ監督)、「あんた」(千葉雄大監督)、「ありがとう」(永山瑛太監督)、「理解される体力」(前田敦子監督)。

脚本を監督以外の人が書いた最初と最後の2本がまずまずの出来でした。他の3本がつらいのは主に脚本の問題で、つまらない話はどんなに頑張っても面白い作品にはならないですね。アイデアは俳優のものでかまいませんが、それを脚本にまとめるのは本職にまかせた方が良いと思いました。