2005/04/01(金)「約三十の嘘」

 「約三十の嘘」チラシ登場人物を紹介する冒頭を除いて、列車の中だけで話が進行する。クレイジーケンバンドの音楽に乗って、6人の詐欺師のグループがお互いに騙し騙される姿をミステリータッチで描く。いや、ミステリータッチというよりも、この映画におけるミステリー的な部分は入り組んだ男女関係、人間関係を描くために使われた感じがある。監督の大谷健太郎(「とらばいゆ」)がやりたかったのはこの男女関係の方なのだろう。狙いは悪くないし、中谷美紀の好演が光るのだけれど、こういう映画にほしい都会的なタッチになりきれていない。中谷美紀を巡る男女関係が少し重たいのがその理由だが、他の役者が弱いためもある。椎名桔平に中谷美紀の目を潤ませるほどの魅力が感じられない。田辺誠一、妻夫木聡、八嶋智人は可もなく不可もなしといったレベル。伴杏里は少なくとも、中谷美紀より美人じゃないと困る(ただ、伴杏里、純情そうでいてそうじゃない二面性もそれなりに演じている)。こういうタイプの映画は嫌いではないが、よりいっそうの洗練されたタッチが望まれるところ。これに比べると、伊坂聡「g@me.」はうまかったなと思う。

 詐欺師グループだった男女が3年ぶりに集まり、新しいヤマを始める。集まったのは、元リーダーの志方(椎名桔平)、美貌の女詐欺師宝田(中谷美紀)、宝田とコンビを組む横山(八嶋智人)、今回のヤマを企画した久津内(田辺誠一)、元アル中の佐々木(妻夫木聡)の5人。今回のヤマは偽物の羽毛布団を30万円で売る計画だった。グループは豪華な寝台特急で大阪駅から北海道に向かう。志方は凄腕の詐欺師だったが、3年前のある出来事がもとで今はくたびれた感じで、のど飴中毒みたいになっている。3年前、一味が手にした大金を今井(伴杏里)に持ち逃げされ、その結果、仲間がばらばらになったためだ。その今井が京都駅で列車に乗り込んでくる。今井に思いを寄せる久津内が仲間に引き入れたのだった。

 ここから映画は今井が入ったことによるごたごたをさらりと描いて、帰りの列車内に舞台を移す。肝心の詐欺の場面がないのは元が戯曲(土田英生作)だからだろうが、本筋に沿っているのでこれは賢明な在り方。詐欺の上がりは7000万円だった。3年前のように仲間に持ち逃げされないように、金を入れたバッグとダミーを含めた鍵5個を6人がそれぞれに持つが、翌朝、バッグの中身がジャガイモとすり替えられているのが分かる。

 果たして犯人は誰か、どのようにすり替えたのか。という謎はすぐに観客に明かされる。それから話は転々とするのだが、ミステリー的には大したことはない。6人のそれぞれの計画と思惑が交錯していくところに中心がある。残念ながら、それが十分に面白くなっていかない。ミステリー的にもちゃんとしたものを作らないと、こういう映画は成功しない。コンゲームの面白さを含めつつ、ユーモラスな場面とリアルな心情を絡める映画はなかなか難しいのだろう。