2001/10/09(火)「トゥームレイダー」
同じゲームからの映画化でも「ファイナル・ファンタジー」より評判はいい。これはひとえにアンジェリーナ・ジョリーのお陰。決して典型的な美人とは言えない顔つきだが、アクションも決まって魅力満載という感じ。ただ、「コン・エアー」「将軍の娘 エリザベス・キャンベル」のサイモン・ウエストの演出はいつものようにどうも締まりに欠ける。シリーズ化の計画があるらしいが、監督を変えた方がいいだろう。
時間を操作する秘宝・トライアングルを巡る冒険アクション。パンフレットではHolly Triangleと表記されているが、このトライアングル、古代人が隕石から作ったもので、あまりの力の強大さに2つに割られて隠された。5000年に一度の惑星直列の時にこれを使えば、強大な力を手に入れることができる。トレジャー・ハンター(トゥームレイダー=墓荒らしとも言う)、ララ・クロフト(アンジェリーナ・ジョリー)の父親(ジョン・ボイト)はこれに絡んで秘密結社イルミナーティに殺されたらしい。ララは自宅の秘密部屋からこの秘宝を捜す手がかりになる時計を見つけるが、イルミナーティの一味に奪われる。父の形見でもある時計を取り返すため、そしてイルミナーティの野望を砕くため、カンボジアのアンコールワットと極寒のシベリアで秘宝を巡る戦いが繰り広げられる。
惑星直列という、ふるーいアイデアにがっかりするけれど、話としては悪くない。サイモン・ウエスト、とりあえず画面作りできるので、それぞれの場面はそれなりに見られるものにはなっている。しかし「インディ・ジョーンズ」シリーズのようなスケールに欠けるのが難(同じようなショットがある)。どこか小さくまとまった話なのである。
ララと父親の関係は幼いころに離婚して一緒の時間が少なかった実生活のジョリーとボイトの関係にオーバーラップしているのだが、エモーションをもう少し高めたいところではある。そういう繊細な演出がサイモン・ウエスト、できていない。
アンジェリーナ・ジョリーは肉体改造のトレーニングを受け、撮影に臨んだそうだ。その成果でアクション場面に関しても合格点。絶好調という印象を受ける。ウィリアム・アイリッシュ「暗闇へのワルツ」の映画化「ポワゾン」にも期待できそう。
2001/10/02(火)「ブリジット・ジョーンズの日記」
映画「プロポーズ」で「君の勝ちだ」と、ひねくれたプロポーズをするクリス・オドネルをうんざりした表情で見つめるレニー・ゼルウィガーを見たとき、この人はコメディエンヌなんだなと思った。ゴールディー・ホーンのようなというか、一番近いのはテリー・ガーのようなタイプのコメディエンヌ。とびきりの美人ではないが、憎めない等身大のキャラクターを演じたら、とてもうまい女優なのである。
この映画はそんなゼルウィガーのコメディのセンスにぴったりだ。主人公のブリジット・ジョーンズは「体重61キロ、タバコ42本、アルコール30~40杯。何よりも10キロの減量、次にパンティーは洗濯カゴに。そして良識あるボーイフレンドを見つけること」と日記に書く、結婚を焦っている32歳。新年に実家で開かれたパーティーでバツイチの弁護士マーク(コリン・ファース)を紹介されるが、ダサいトナカイのセーターにがっかり。実はマークとは子どもの頃、裸で水遊びをしたらしいのだが、そんなことブリジットは覚えていない。タバコをふかし、二日酔いのふりをしてマークを幻滅させる。
出版社に勤めるブリジットは上司でプレイボーイのダニエル(ヒュー・グラント)が気になっていた。ミニスカートで出勤したブリジットにダニエルは目をとめ、食事に誘う。司会を務めた(そして大失敗した)出版記念パーティーで、ブリジットは美人弁護士を連れたマークと再会。ダニエルからマークは大学時代の親友で、マークがダニエルの恋人を奪ったひどい奴であるとを聞かされる。その夜、ダニエルと結ばれたブリジットに甘い生活が始まるが、それもつかの間、やがてダニエルにはニューヨークにある本社に婚約者がいることが分かる…。
映画はマークとダニエルの間で揺れ動くブリジットをコミカルに描いていく。30代の独身女性のけなげな努力(?)の実態はおかしいし、友人たち(独身女性2人とゲイ)のアドバイスやブリジットの一人暮らしの様子なども共感を呼ぶようなエピソードで綴られる。ヘレン・フィールディングの原作は世界23カ国でベストセラーとか。しかし、一番の魅力はキュートな笑顔のゼルウィガーだろう。いつもより太めだなと思ったら、この映画のために6キロ太ったそうだ。
監督はこれまでドキュメンタリーやCM監督を務め、これが映画デビューのシャロン・マグワイア。細部の描写が行き届いているのは原作も映画も女性の視点で統一されているからだろう。結末は常識的なのだが、なかなかそれが見えない脚本(アンドリュー・デイヴィスとリチャード・カーティス)にうまさを感じる。クスクス笑って見られるロマンティック・コメディ。
2001/09/25(火)「ラッシュアワー2」
ジャッキー・チェンとクリス・タッカーの刑事コンビが活躍するアクションの第2作。前作を僕は見ていないが、タッカーがメインでジャッキーはサブだったらしい。今回は名前も同時に出るから対等の扱いである。最後にNG集があることから見てもジャッキーの意見はかなり採り入れられたらしく、ジャッキー主演の映画と言っても通るだろう(ジャッキー自身、「前作は嫌いだ」と公言している)。
香港のアメリカ大使館の爆破で2人が殺害される。事件には偽札作りの香港マフィアが絡んでいるらしい。香港に休暇できていた2人は否応なしに事件に巻き込まれる。組織のボス、ジョン・ローンに目星を付けたジャッキーはローンを船上で追いつめるが、なんとローンの部下の殺し屋チャン・ツィイーがローンを撃ち殺してしまう。事件は振り出し。2人は手がかりを追ってアメリカへ帰る。
ジャッキーのアクションは相変わらず素晴らしいが、スケール的にダウンしているのは年齢(47歳)からいっても仕方ない。「フー・アム・アイ」がジャッキー最後の輝きになるのでは、との思いをあらためて強くした。全体的にあまり締まらない話で、監督のブレット・ラトナーの演出もルーズだが、それでもそこそこ面白く見られるのはジャッキーの人徳というべきか。クリス・タッカーのけたたましさに予告編では閉口したけれど、通して見るとそうでもなかった。この人、エディ・マーフィーと同じようなタイプなのだが、声が甲高いので余計にけたたましく感じる。大して魅力もないのになぜこういう俳優がジャッキーと肩を並べるのかは分からない。
で、この映画で一番注目したのはもちろん、チャン・ツィイー。だが、しかしこれまた予告編で見て危惧していたとおり、化粧が濃く、いつもの清楚な魅力はなかった。アクションはさまになっていたが、アクションだけで起用されるべき女優ではないでしょう。
IMDBによると、ツィイーは今後3作公開が控えている。どれも中国系の監督作で、ツイ・ハーク「The Legend of Zu」、ウォン・カーウァイ「2046」とスン・スー・キム(知らない)「The Warrior」。パンフレットのインタビューによると、
でも今回アメリカ映画に出演してから、これからはもっと積極的に中国映画に参加しようという気になったの。厳しい状態のなかで、素晴らしい作品を生みだしている母国のフィルムメーカーをサポートしていかなくちゃいけないな、ってね。中国の人たちが、ハリウッド映画だけじゃなくて中国映画も観てくれるようになってほしいので。
で、ハリウッドに定着する気はないのか、という質問には
実は、その可能性についてはあまり深く考えたことがないの。わたしの英語がいまよりずっとうまくならなければ、どのみちたいした役もないしね。とにかくいまは有名無名に関わらず、中国の映画監督をサポートしたいという気持ちでいっぱいなの。
賢明な考え方だと思う。パンフレットにはジェット・リー、マギー・チャンと共演の「Heroes」というチャン・イーモウ監督作も予定に挙がっている。ハリウッドがすべてじゃないよ。中国映画でまた魅力を発揮してほしいものだ。
2001/08/28(火)「キス・オブ・ザ・ドラゴン」
ジェット・リー主演のアクション映画。キネマ旬報9月上旬号に「全米の批評家からの評価だが、必ずしも良好とは言えず、また観客からの受けもいまひとつといったところ」とあるが、十分に面白い出来。監督のクリス・ナオンよりも、製作・脚本のリュック・ベッソンのタッチが色濃く出ている。ジェット・リーはパンフレットで警察署殴り込みのシーンについて「一番意識したのは高倉健の任侠映画」と語っている。僕は映画全体に日活アクションの世界を連想した。アクション映画の定石を外していない作りに好感が持てる。
中国の秘密捜査官リュウ(ジェット・リー)が麻薬組織摘発に協力するため、パリにやってくる。フランス側の捜査の代表はリチャード警部(チェッキー・カリョ)。ところが、リチャードはホテルで麻薬組織のボスを殺し、その罪をリュウになすりつけようとする。リチャードは麻薬組織に絡む悪徳警部だったのだ。という巻き込まれ型のプロット。警察からも組織からも追われ、リュウはたった一人でリチャードに戦いを挑むことになる。
ジェット・リーは今回、製作にも関わり、特にアクション場面について自らアイデアを出したという。アクション監督は長年リーと組んでいるコーリー・ユエン。ホテルや街頭、船の上などで密度の濃いアクションが次々に披露される。ジャッキー・チェンとはひと味違ったこうしたアクションも見どころなのだが、それ以上に映画の細部に手を抜いていない。凶暴で狡猾なリチャード警部の役柄は「レオン」のゲイリー・オールドマンを彷彿させる。センチメンタルな濡れた音楽(クレイグ・アームストロング)も「レオン」のよう。加えてリチャードに迫害され、地獄のような日々を送っている薄幸な娼婦役ブリジット・フォンダがとてもいい。小品だが、しっかりと作られた佳作。
「キス・オブ・ザ・ドラゴン」というタイトルの意味はラスト近くで判明する。あまり本筋とは関係ありません。
2001/08/28(火)「アメリカン・サイコ」
シリアル・キラー(連続殺人犯)はプアー・ホワイト(低所得者層の白人。しかも幼児虐待の経験がある場合が多い)というのがお決まりだが、この映画の主人公は裕福な環境にある。80年代のヤッピーを描いて、どこか「レス・ザン・ゼロ」のような雰囲気だなと思ったら、その通り原作は「レス・ザン・ゼロ」の原作者ブレット・イーストン・エリスの3作目に当たるそうだ。だからこれは一般的なサイコ映画とは違っている。イーストン・エリス、自分の土俵で相撲を取ったな、という感じである。
原作がどうなっているかは知らないが、監督・脚本のメアリー・ハロンが取ったのもヤッピーの苦悩としての殺人(といっても当初、本人は苦悩を自覚していないだろう)。シリアル・キラー自体がテーマではなく、あくまでヤッピーの描写の方が重点であり、カリカチュアライズと皮肉なタッチが随所にある。
主人公のパトリック・ベイトマン(クリスチャン・ベール)はウォール街の一流企業ピアース&ピアースで副社長の地位に就いている。毎日エクササイズに精を出し、健康に気を遣い、美しい婚約者がおり、何不自由ない生活。しかし、内面は空っぽだ。仲間とは、作った名刺の出来を比べ合ったりする(自分より出来のいい名刺を持っている奴に嫉妬し、殺人の動機の一つになるのがおかしい)。上辺を取り繕った生活の中で、ベイトマンはある夜、衝動的にホームレスを殺す。それから殺人の衝動を抑えられなくなる。自分よりいい暮らしをしているビジネスマン、街で買った娼婦、自分の秘書(クロエ・セヴィニー)までも殺そうとする。
ベイトマンはエド・ゲインやテッド・バンディに言及し、ビデオで「悪魔のいけにえ」を見ているぐらいだから、シリアル・キラーには関心があるようだ。思わず笑ってしまうシーンが挿入される映画自体も別に悪い出来ではない。ただし、やっぱり連続殺人とヤッピーとは結びつかない。苦悩の果ての殺人なら分かるが、殺人が日常化するのに説得力がないのである。ヤッピーの空虚な日常を描くのなら連続殺人を持ち出す必要はなかったのではないか。