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2011年05月05日の記事

2011/05/05(木)「地獄門」

 これもBSプレミアムで放送。デジタル・リマスター版。菊池寛の原作「袈裟と盛遠」を衣笠貞之助監督で映画化。長谷川一夫が人妻(京マチ子)に横恋慕する迷惑な男を演じる。カンヌ映画祭グランプリとアカデミー衣装デザイン賞、名誉賞(今の外国語映画賞)を受賞したのは有名。主にカラーの美しさの評価なのだろう。昭和28年当時は驚異的な技術であっても、今見ると、なんてことはない。というより、カラーが人工的に感じる。今の映画のナチュラルさに比べて、作った色合いに見えるのだ。

 映像の技術よりも物語とそれを語る技術の方が普遍的なのではないかと思う。今のCG多用映画も50年後には陳腐なものになっているかもしれない。いや、今でも陳腐な映画は多いんですけどね。BSプレミアムではデジタル・リマスターの放送が相次いでいる。映画がきれいになることは歓迎すべきことではある。

2011/05/05(木)「マイレージ、マイライフ」

 ジェイソン・ライトマンは父親のアイバン・ライトマンより才能あるなと思う。冒頭、短いショットを重ねて出張の準備をする場面で乗せられてしまう。後は一気呵成の展開。主人公のライアン(ジョージ・クルーニー)は家庭を持たず、出張で全国を飛び回る解雇請負人。会社に代わって、不要な社員に解雇を通告するのが仕事だ。同じような生き方をしているアレックス(ヴェラ・ファーミガ)との出会い、教育を担当させられた新入社員ナタリー(アナ・ケンドリック)との交流を通じてライアンは自分の生き方を見つめ直す。大人の女性を演じるファーミガがいい。

 知り合いがFacebookでこの映画のラストについて議論になっていると書いていた。果たして主人公は出張を続けるのか、辞めるのか。キャリーバッグの取っ手から手を離す場面があるからだ。主人公がどうするかは最後のナレーションから明らかではないかと思う。

 「今夜、人々は家族の待つ家に帰り、1日の話をして眠りにつく。昼間隠れていた星が輝く中、ひときわ輝く光がある。僕を乗せた翼だ」。

2011/05/05(木)「愛する人」

 原題はMother & Child。女性監督の作品かと思ったら、脚本・監督はロドリゴ・ガルシア。よくこういう女性映画のような作品を撮れるものだと思う。14歳で出産した子供をすぐに養子に出し、37年間会っていない母親カレン(アネット・ベニング)とその子供であるエリザベス(ナオミ・ワッツ)を軸にした複数の母と子の物語。かつてあった日本映画の母ものなら、最後は親子の涙、涙の再会で終わるだろうが、そこをひとひねりしているのがうまい。ガルシア監督は登場人物の心情を丹念に描き、情感豊かで充実した作品に仕上げている。

 老いた母親と2人暮らしのカレンは気むずかしく、家政婦が勝手に子供を連れてくることにもいい顔をしない。エリザベスは弁護士になっており、自立したクールな生き方をしている。その2人が徐々に変わっていく。娘のことを思わない日はなかったというカレンは「後悔は心を蝕む」と新しい夫に諭され、養子あっせん所のシスターに手紙を託す。エリザベスも自分がするはずのなかった妊娠をしたことで母親に会いたいと思うようになる。この2人を交互に描きながら、ガルシア監督はもう一つ、子供ができずに養子を取ろうとしているルーシー(ケリー・ワシントン)のエピソードを描き、それがラストに向かって絡み合っていく。

 ナオミ・ワッツは実際に妊娠している時に大きなおなかを撮影している。こういう、はかなげな役をやらせると、とても似合う。ちょっと老けたアネット・ベニングも好演している。

2011/05/05(木)「彼女を見ればわかること」

 ロドリゴ・ガルシアの1999年の作品。5つの物語からなるオムニバスで、それぞれの話が少しずつ関連し、最後の物語で収斂していく。この手法は「愛する人」につながるものだし、出てくるエピソードも老いた母親と同居する女とか、30代後半でアフリカ系アメリカ人の子供を妊娠する女とか、同じ設定が出てくる。それを考慮しても、うまい脚本だと思う。ホリー・ハンター、キャメロン・ディアスが良い。ハンサムでもない銀行の副支店長役マット・クレイヴンがもてすぎなのはちょっとリアリティーに欠けるか。2000年のカンヌ映画祭「ある視点」部門グランプリ。キネ旬ベストテン16位。