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2016年05月09日の記事

2016/05/09(月)「スポットライト 世紀のスクープ」

「スポットライト 世紀のスクープ」パンフレット

 カトリック教会の神父による児童への性的虐待と教会の組織的な隠蔽を調査報道したボストン・グローブ紙の実話。記者たちが一大スキャンダルを調査するという点で「大統領の陰謀」(1976年)を思い浮かべたが、監督のトム・マッカーシーも映画化の際に「大統領の陰謀」を参考にしたそうだ。そして「大統領の陰謀」と同じく、この作品もアカデミー作品賞を受賞した。

 しかし、この映画は「大統領の陰謀」以上に胸を打つ。それは題材がワシントンポスト紙のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインが追及したウォーターゲート事件よりも身近であり、被害者が圧倒的に多いからだ。記者たちは被害者に会い、子ども時代に受けた傷が未だに影響していることを知る。中には自殺した被害者もいた。記者たちが突き動かされたのは単純な正義感ではない。権力をかさに貧困家庭の少年少女に標的を絞った汚いやり口への嫌悪感、信者の信頼を裏切る事件を隠蔽してきた教会への怒り、過去に事件を大きく取り上げてこなかった自分たちへの後悔などがないまぜになったものだ。

 「スポットライト」とは同紙の特集記事で、4人の記者が担当している。2001年、ニューヨーク・タイムズのマイアミから編集局長としてマーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)が赴任してくる。バロンから指示された4人は神父の性的虐待事件を調べ始める。その神父、ゲーガンは30年間に80人の児童に性的虐待をした疑惑が持たれていた。事件を調べるうちに、虐待をした神父はゲーガン以外にもおり、それが想像以上に多いことが分かってくる。教会は事件を起こした神父を異動させ、被害者の家族と裁判所を通さない示談を行い、事件の表面化を防いできた。教会の組織的な隠蔽を暴き、事件の再発防止を図るため、チームは資料を調べ、地道な取材を積み重ねていく。

 4人の記者はチームのリーダー、ウォルター”ロビー”ロビンソン(マイケル・キートン)、熱血漢で粘り強いマイク・レゼンデンス(マーク・ラファロ)、被害者に寄り添うサーシャ・ファイファー(レイチェル・マクアダムス)、データ分析担当のマット・キャロル(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)。作品賞を取りながら、だれも主演賞にノミネートされなかった(ラファロとマクアダムスが助演賞ノミネート)のは、この調査報道が1人の功績ではなく、チームの共同作業およびそれをバックアップしたボストン・グローブ全体の成果として描いているからだろう。

 4人はそれぞれに好演しているが、毅然とした編集局長を演じるリーヴ・シュレイバーが一番の儲け役かもしれない。事件への過去の対応を悔やむロビーに対して、バロンは言う。「我々は暗闇の中を手探りしながら歩いている。光が差して初めて間違っていたことに気づく」。ジャーナリズム云々の前にこれは組織を描いた映画として見ることができる。

 欧米で教会の権力は大きく、その信者も多い。さまざまな圧力と妨害を受けながら、記者たちが真実にたどり着くまでをトム・マッカーシー監督は緊密なタッチでまとめた。ハワード・ショアの音楽も相変わらず一級品だ。

 新聞をまねた体裁のパンフレットに「『スポットライト』の後、何が起こったのか」という文章を町山智浩さんが書いている。それによると、「2002年から全世界で報告された神父によるレイプは4000件におよび、800人が神父の資格を剥奪され、2600人が職務永久停止処分を受けた。カトリック教会が支払った賠償の額は2012年には26億ドルを超えた。多くの教区が破産した」。報道の影響はウォーターゲート事件以上なのではないか。