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2021年12月05日の記事

2021/12/05(日)「パーフェクト・ケア」ほか(12月第1週のレビュー)

「パーフェクト・ケア」は全国的な劇場公開と同時に有料配信が始まりました(九州での劇場公開は熊本ピカデリーだけのようです)。配信はamazonプライムビデオ、U-NEXT、TSUTAYA TVなど12のプラットフォームで劇場と同額の1900円。ムビチケが使えるサイトもあります。

ロザムンド・パイクはこの作品でゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門の主演女優賞を受賞しましたが、アメリカでの評価はIMDb6.3、メタスコア66点、ロッテントマト78%(ユーザーは33%)と芳しくありません。
というわけで、U-NEXTで見ました。ここは40%ポイント還元があるので実質1140円。これなら、つまらなくても我慢できるレベルです。
しかし、そんな心配は不要なほど十分に面白いです。誰もが指摘するようにラストの処理が今一つではありますが、ロザムンド・パイクの頼もしくて賢くて決して諦めない女の演技は見る価値がありますし、相棒で同性の恋人役エイザ・ゴンザレス(「ゴジラVSコング」「ワイルド・スピード スーパーコンボ」)も初めて名前と顔が一致するほど魅力的でした。

パイクが演じるのは裁判所からの信頼が厚い法定後見人のマーラ。その正体は合法的に高齢者の資産を搾り取る悪徳後見人で、次の獲物に定めたのは身寄りのない資産家の老女ジェニファー(ダイアン・ウィースト)でした。格好の餌食となるはずが、なぜか彼女の背後からロシアン・マフィアが現れる、というストーリー。
マフィアのボスに扮するのは「スリー・ビルボード」「ゲーム・オブ・スローンズ」のピーター・ディンクレイジ。シラノ・ド・ベルジュラックを演じる「シラノ」の公開も控えており、アメリカでの役者としてのランクの高さをうかがわせます。
監督は「アリス・クリードの失踪」「フィフス・ウェイブ」のJ・ブレイクソン。


「スウィート・シング」

アレクサンダー・ロックウェル監督作品で、日本公開は「フォー・ルームス」(1995年、4人の監督のオムニバス)以来とのこと。15歳の少女ビリーと11歳の弟ニコはアルコール依存症の父アダムと暮らしている。ある日、父が強制的な入院措置となり、二人は家を出た母イヴのもとへ行くが……。
ビリーとニコを演じるのは監督の実子のラナ・ロックウェルとニコ・ロックウェル。母親役は奥さんのカリン・パーソンズ。インディーズ作品なので予算を抑えるためではないかと思ってしまいますが、2013年の「Little Feet」(日本未公開)でも2人の子供を撮っており、大人の入口にさしかかった2人をまた撮りたかったとのこと。
ネグレクトや虐待など厳しい描写もありますが、基本的には心優しいタッチの映画で、16ミリ撮影の白黒、パートカラーの画面も悪くありません。
2020年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門最優秀作品賞受賞。

「ディア・エヴァン・ハンセン」

トニー賞6部門を受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化。
主演は舞台でも主役を演じたベン・プラット。
アメリカで評価が低い(IMDb6.1、メタスコア39点、ロッテントマト30%)のはプラットが映画では高校生には見えないことも影響しているのでしょう(撮影時27歳だそうですが、30代半ばかと思いました)。
自殺とSNSの功罪、嘘をつかざるを得なくなる状況まで映画はかなり深刻な題材を扱っています。それをミュージカルにするというのは舞台なら成功したのでしょうが、映画には少し違和感が残りました。

「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」

マーベルのダークヒーローを主人公にした2018年の映画の第2弾。地球外生命体シンビオートのヴェノムと体を共有するジャーナリストのエディ(トム・ハーディ)に死刑囚クレタス(ウディ・ハレルソン)が噛みつき、エディの血を体内に取り込んだことから狂暴なカーネイジが生まれてしまう、という話。
第1作はまあまあな出来でしたが、今回はそれより少し劣る出来に終わっています。
明らかにアンディ・サーキス(「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズなどのモーションアクターとして有名)の演出にキレがないことが原因で、話として悪くないのに盛り上がっていきません。
ヴェノムは元々、スパイダーマンシリーズの悪役(サム・ライミ監督の「スパイダーマン3」に登場しました)なので、今後の作品でスパイダーマンとの共演がありそうなエピローグになってます。

「立ち去った女」

「アジア映画祭2021 in 宮崎」で上映中の作品。ベネチア国際映画祭金獅子賞、2017年キネ旬ベストテン5位のフィリピン映画です。トルストイの短編から着想を得た人間ドラマで、殺人の冤罪で30年間も投獄された主人公ホラシア(チャロ・サントス・コンシオ)が彼女を陥れた昔の恋人ロドリゴに復讐するため、周囲の助力を得ながら彼を追っていく、というストーリー。
鮮明な白黒画面が美しい映画ですが、3時間48分の長尺。こんなに長くなったのはワンシーンワンカットの手法を取っているためもあるでしょう。普通に撮れば、2時間以内に収まりそうな内容でした。
ラヴ・ディアス監督作品の中で特に優れた作品というわけでもないようで、IMDbのレーティング順に並べると、全67本の長編監督作品中14番目の点数(7.2)になってます。
主演のコンシオは普通のおばさん(1955年生まれ)のように見えますが、女優として50本の映画に出ています。それよりも驚くのは344本の映画をプロデュースしていること。本業はこっちなんじゃないでしょうか。
amazonプライムビデオの見放題作品に入ってます。

「アイス・ロード」

材料はそろってますし、VFXも頑張ってるんですけど、料理の仕方がうまくないので薄味の出来に留まってます。話がテキパキテキパキ進みすぎるきらいがありますね。トラック2台が横転するだけでも大変な事態ですが、簡単に復旧するし、次々に困難が襲いかかるんですけど、あまりにも簡単に克服していくのでドラマが盛り上がらないです。リーアム・ニーソンの弟を死なせることもなかったんじゃないでしょうかね。
ローレンス・フィッシュバーンが序盤で死ぬシーンは意外性を狙ったんでしょうけど、あの場面、足首を鉄のロープに挟まれて数十トンのトラックで引っぱられたら、足が切断されるでしょう。足はなくしたけれど、命はなくさなかった、ということになるんじゃないでしょうかね。