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2023年11月26日の記事

2023/11/26(日)「駒田蒸留所へようこそ」ほか(11月第4週のレビュー)

 ミステリマガジン1月号で恒例のミステリーベストテンが発表されています。国内篇1位は米澤穂信「可燃物」、海外篇はロス・トーマス「愚者の街」でした。国内篇3位に京極夏彦の17年ぶりの百鬼夜行シリーズ「鵺の碑」が入ってます。単行本(3960円)で1280ページ、新書版(2420円)で832ページという大作で、久しぶりに読んでみたいです。直木賞と山本周五郎賞を受賞した永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」は4位。ミステリの枠を取っ払っても名作で、まだ映像化の予定はないようですが、構成から見てNHKの時代劇にはぴったりだと思います。

「駒田蒸留所へようこそ」

 今週、しみじみと良かったのはこのアニメ。幻のウイスキーKOMA(独楽)の復活を目指す蒸留所の若い女性社長・駒田琉生(声:早見沙織)と、それを取材するWebメディアの記者・高橋光太郎(声:小野賢章)を描き、ウェルメイドな仕上がりになっています。

 制作は富山県に本社を置くP.A.WORKS。同社はアニメ制作現場を描いた「劇場版 SHIROBAKO」(2020年、水島努監督)などの“お仕事アニメ”を撮っていて、この映画も仕事に絡む問題が描かれています。美大に通っていた琉生は、地震で被害を受けた会社を建て直すため仕事に打ち込んだ父親の急死で蒸留所を継ぎ、かつて作っていたKOMAの復活を目指しています。その困難な過程とともに、職を転々としてきた光太郎が記者として成長していく過程を盛り込み、実写で十分に通用する内容です。

 経営の苦しい蒸留所には買収の話が持ちかけられます。そんな時に漏電が原因の火事に見舞われ、経営は一層苦しい状況に。琉生は買収に応じることを決意しますが、従業員たちの励ましで撤回。光太郎も協力して復活の道を進むことになります。

 実写ドラマで描かれれば、従業員が生活の苦しさを顧みず、夢の実現に全員協力する描写などは甘さを感じるでしょうが、そこに違和感がないのがアニメの良さかもしれません。夢を諦めない、仕事に意味を見いだす過程をさわやかに描いて好感が持てました。吉原正行監督。

 入場者プレゼントは主題歌「Dear my future」(早見沙織)のダウンロードでした。

▼観客2人(公開12日目の午後)1時間31分。

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

 「ゲゲゲの鬼太郎」テレビアニメ第6期(全97話)の劇場版。昭和30年を舞台に目玉おやじが幽霊族だった頃の事件を描いています。目玉おやじがあのような姿になり、鬼太郎がどう誕生したかのエピソードは原作を読んだことがあり、テレビアニメ「墓場鬼太郎」第1話でも描かれています。

 映画はそれ以前の話で、哭倉村(なぐらむら)にやってきた血液銀行に勤める水木が鬼太郎の父親(「ゲゲッ」と驚いたことから水木に「ゲゲ郎」と呼ばれます)とともに連続怪死事件に遭遇する展開。この事件が何というか、横溝正史「八つ墓村」や「犬神家の一族」を思わせる内容で、新味がないのが辛いところです。監督は「ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!」(2008年)の古賀豪。脚本はアニメ第6期も担当した吉野弘幸。
▼観客多数(公開6日目の午後)1時間44分。

「熊は、いない」

 「人生タクシー」(2015年)「ある女優の不在」(2018年)のジャファル・パナヒ監督作品。偽造パスポートで国外へ脱出しようとする男女と、国境付近の小さな村で因習に縛られる男女の姿を通して、イランの現状を批判しています。パナヒ監督自身がリモートで助監督に指示を出す自身の役で出ていて、「人生タクシー」と同じくフィクションとドキュメンタリーを組み合わせた構成となっています。

 パナヒは2010年に逮捕され、20年間の映画製作を禁じられましたが、逆境の中でゲリラ的に映画を撮り続けていて、イラン国外では高い評価を得ています。この映画もヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞しました。
IMDb7.3、メタスコア93点、ロッテントマト99%。
▼観客2人(公開4日目の午後)1時間47分。

「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」

 魔夜峰央の原作コミックの映画化第2弾。埼玉に海を作る計画を思いついた埼玉解放戦線の麻実麗(GACKT)は仲間とともに美しい砂を求めて未開の地・和歌山へと向かう。そこには大阪に支配され、馬鹿にされ、苦しむ人たちがいた。

 埼玉や滋賀、奈良、和歌山などをディするギャグは笑えるんですが、話にもっと凝って欲しいところ。2時間持つ話ではなかったです。アイデアを詰め込んだ方が良かったでしょう。武内英樹監督。
▼観客20人ぐらい(公開2日目の午前)1時間57分。

「首」

 6年ぶりの北野武監督作品。織田信長(加瀬亮)と明智光秀(西島秀俊)、荒木村重(遠藤憲一)が同性愛の三角関係だったという設定で本能寺の変を描いています。合戦シーンにかなりの予算をかけているようで、見応えはありますが、大河ドラマ「どうする家康」、映画「レジェンド&バタフライ」などこの時代を描いた作品が続いていて食傷気味です。設定をいかに変えようと、話の行く末は分かりきっているので興味が半減してしまいます。

 映画の作りは悪くないので、オリジナルの物語を描いた方が良かったのではないかと思います。アドリブで笑いを取るのも個人的には感心しません。テレビのバラエティじゃないんだから。
▼観客多数(公開初日の午前)2時間11分。