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話題沸騰のミニシリーズ「アドレセンス」(Netflix)を見ました。アドレセンス(Adolescence)は思春期のこと。イギリスの13歳の男子生徒が女子生徒を刺殺した事件をめぐる物語で、1日目、3日目、7カ月後、13カ月後の4話で構成しています(各話1時間前後)。
IMDbの評価は第1話8.8、第2話8.1、第3話9.1、第4話8.5(全体評価は8.2、ロッテントマトは99%)。容疑者の少年ジェイミー(オーウェン・クーパー)と女性精神科医ブリオニー(エリン・ドハーティ)の対話を緊張感たっぷりに描き、事件の真相と少年の実相が明らかになる第3話の評価が高いです。親の立場から見ると、加害者家族へのSNSおよび実生活での嫌がらせと家族の苦悩を描く第4話がたまらない展開で、日本と同じようなことがイギリスでもあるんだなとため息が出ます。子供の犯罪は親の責任ではないんですが、特に未成年の場合、世間は許してくれません。親自身も自分たちの育て方が悪かったのかと苦しむことになります。
監督は「ボイリング・ポイント 沸騰」(2021年)のフィリップ・バランティーニ。あの映画同様、このドラマも各話を1カット撮影で描いています。ただし、そうする必然性はありません。そうした手法ばかりが目立つドラマではなく、内容が勝っているのが良いです。
父親を演じたスティーブン・グレアムは「ボイリング・ポイント 沸騰」で主役のシェフを演じた俳優。グレアムはこのドラマを企画し、脚本も共同執筆しています。
シリーズ第4作。最愛の夫マーク・ダーシー(コリン・ファース)は4年前にスーダンでの人道支援活動中に死亡し、ブリジット(レネー・ゼルウィガー)は2人の子供と暮らしています。男との付き合いはもう終わりと思っていましたが、ある日、ハンサムな29歳のロクスター(レオ・ウッドール)と知り合い、付き合うことに。子供が通う小学校の教師ウォーラカー(キウェテル・イジョフォー)とも親しくなります。
2001年の1作目のブリジットはレネー・ゼルウィガーと同じ32歳でした。それから24年後、ゼルウィガーは今年56歳。ブリジットの年齢は明らかではありませんが、アラフィフとのことなので50歳近いのでしょう(原作では51歳の設定)。それで小学生の子供2人の母親。年齢的にぎりぎりおかしくはないんですが、ゼルウィガーは祖母といっても通るぐらいに見えます。もう少し実年齢に近い設定にした方が良かったんじゃないかなと映画を見ながらずーっと思ってました。
アラフィフよりアラカンに近い女優が29歳の男との恋愛を演じるのは見ていて痛々しいです。いや、実際に50代の女性と20代の男性の恋愛や結婚はあるでしょう。でも、映画の中で男はブリジットを「35歳ぐらいかな」と言うんです。いくらなんでもそれは無理があります。後半には「タイムマシンがあれば…」なんてセリフまで吐く始末。
ヘレン・フィールディングの原作「Bridget Jones: Mad About the Boy」(例によって、邦訳は……以下略)は2013年出版。その頃のゼルウィガーなら小学生の母親として不自然ではなかったでしょう。映画化が遅かったのが悔やまれます。
原作は夫のマークを死なせたことに賛否があったそうです。マークが生きていたら、こういうストーリーにはできません。作者はマークとダニエル(ヒュー・グラント)の間で揺れ動いたブリジットの若い頃と同じようなことを描くために、邪魔なダンナを消しちゃったのでしょう。ハッピーエンドのその先が必ずしもハッピーとは限りませんが、こういう安易な形での続編には感心できません。その程度の原作なのだろうと思います。
IMDb6.7、メタスコア72点、ロッテントマト89%。
▼観客8人(公開6日目の午後)2時間5分。
48歳の独身女性の転機を描くジョージア=スイス合作映画。原作はジョージアの新進女性作家タムタ・メラシュヴィリ、監督はジョージア出身のエレネ・ナヴェリアニ。
ジョージアの小さな村に暮らす48歳の女性エテロ(エカ・チャヴレイシュヴィリ)は両親と兄を亡くし、日用品店を営みながら一人で生きてきた。ある日、ブラックベリーを摘みに行ったエテロは崖から足を踏み外して転落。何とか崖下から這い上がったものの、死を間近に感じたこともあって、店を訪れた配達人のムルマン(テミコ・チチナゼ)と衝動的に初めてのセックスをする。48歳での処女喪失。人生の後半戦を前に、エテロの人生が動き出す。
エテロが未婚なのは父親と兄が束縛していたからのようです。母親はエテロを出産後に死亡。エテロはそのことに負い目を感じていました。「お前も俺を好きだったのか」と言うムルマンは以前からエテロに好意を持っていたようですが、既に孫がいてエテロとは不倫の関係になります。村には小太りで未婚のエテロを蔑む女たちもいますが、エテロは気にしていません。
エテロとムルマンは秘密の逢瀬を続けます。村の女たちに2人の関係がばれることになる展開かと思いましたが、そうはならず、映画は最後にちょっとした驚きを用意しています。これが実に良いです。人生何が起こるか分からない、エテロはこれからどういう選択をするんだろうなんて考えてしまいます。
IMDb7.0、ロッテントマト93%(アメリカでは映画祭での上映の後、配信)。
▼観客5人(公開初日の午後)1時間50分。
「HERE 時を越えて」パンフレット
太古から現代までをある地点にカメラを固定して描くロバート・ゼメキス監督作品。同じ画角の固定カメラは主にトム・ハンクスとロビン・ライトの夫婦の歩みを、居間での会話と出来事を撮ることで描いていきます。そのカメラはラスト、初めて動きます。家具のないがらんとした部屋にいる年老いた2人をクローズアップし、部屋全体をパンし、窓から外に出て家の全貌を見せます。
ここである種の感動を覚えますが、これは窮屈に閉じ込められた固定カメラから解き放たれたことによる解放感の意味合いが大きく、ドラマの内容に感動しているわけではありません。はっきり言って固定カメラによる定点観測の意義は終わった後のこの解放感にしかありません。さまざまなことがあった夫婦の歩みを効果的に見せるのなら、普通の映画の手法で撮った方が良かったでしょう。
原作はリチャード・マグワイアのグラフィック・ノベル。場面転換は固定した画面の中でフローティング・ウィンドウというかピクチャー・イン・ピクチャーというか、小さな画面が出てきてそこに場面が移る方式を取っています。単なるワイプなどよりはシーンが続く効果があります。ゼメキスの工夫なのかと思ったら、原作もこうなっているようです。
IMDb6.3、メタスコア39点、ロッテントマト37%。
▼観客10人ぐらい(公開11日目の午後)1時間44分。
劇場版28作目。ミステリーとしては説明が多すぎてあんまりよろしくない作りだと思いました。コナンはラブコメやアイドル映画の側面がありますから、ファンは気にしないでしょう。クライマックスにはシリーズお約束の大がかりなアクションがあります。
長野県・八ヶ岳連峰である事件が起こり、何者かに撃たれた長野県警の刑事・大和敢助が左目を失明する。10カ月後、毛利小五郎と日比谷公園で会う約束をしていたかつての同僚刑事・鮫谷浩二が射殺された。鮫谷は10カ月前の事件を捜査していた。小五郎とコナンは事件の謎を追い、長野に向かう。
コナンの劇場版は近年、興収100億円を超えるようになったので製作費が潤沢のようで、CGIを多用しています。脚本は劇場版では「黒鉄の魚影(サブマリン)」(2023年)に続いてシリーズ7作目の櫻井武晴。監督は同4作目の重原克也。
僕が見た時は女性客が中心でした。人気の安室透が出てるからでしょうか? 安室の声はご存じのような理由で古谷徹が降板し、劇場版では本作から草尾毅に代わりました。
▼観客多数(公開初日の午後)1時間50分。
これまで見る機会がなかったフランソワ・トリュフォー監督「映画に愛を込めて アメリカの夜」(1974年)がU-NEXTにあったのでお気に入りに入れていたら、いつの間にか配信が終わってました(配信にはありがちです)。録画していたのがあったので見始めたら、DVDに傷があり、1時間ぐらいのところで再生がストップ。録画したのは17年前、しかもDVD-RWだったので何回か使い回していたのでしょう。続きが見たいので中古DVDをブックオフのネット店で購入しました。外観はきれいで傷もなく、2000円以下の常識的な価格でした。amazonで目立つテンバイヤーにかかると、これが4000円以上になりますからご注意です。
ガイ・リッチー監督の戦争アクション。週刊文春のレビューで芝山幹郎さんは「『特攻大作戦』の焼き直し」と書いていましたが、共通するのは作戦に囚人を使うことぐらいです。「特攻大作戦」(1967年、ロバート・アルドリッチ監督)はDデイの前に米軍によるドイツ軍への破壊工作を描いていました。「アンジェントルメン」はUボートの補給船を破壊するイギリス軍の作戦を描いています。
原作はダミアン・ルイスの「Churchill’s Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWII」(直訳すると、「チャーチルの秘密の戦士:第二次世界大戦の特殊部隊のならず者たちによる爆発的実話」。例によって邦訳出版なし)。ウィンストン・チャーチルと英軍人コリン・ガビンズが、第二次世界大戦中に設立した秘密戦闘機関の実話が基になっています。主人公のガス・マーチ=フィリップス(ヘンリー・カヴィル)は007のモデルになったそうで、イアン・フレミングと“M”も登場します。
ガイ・リッチーはいつものようにコメディ要素を入れて描いていて、そのためかアクションが軽すぎ、敵の人命も軽過ぎでした。もう少しリアルでサスペンスフルな演出が欲しいところ。「特攻大作戦」でもドイツ兵の命は軽かったのですが、作戦に参加した米兵14人も次々に犠牲になり、生き残ったのは3人だけでした。
主演のヘンリー・カヴィルは「マン・オブ・スティール」(2013年、ザック・スナイダー監督)でスーパーマンを演じた俳優ですが、ひげ面で分かりませんでした。魅力的な女スパイのマージョリー役はアナ・デ・アルマスと思って見ていたら、エイザ・ゴンザレス(「パーフェクト・ケア」「ゴジラVSコング」)でした。
IMDb6.8、メタスコア55点、ロッテントマト68%。
▼観客5人(公開5日目の午後)2時間。
「ゴーストキラー」パンフレット
「ベイビーわるきゅーれ」シリーズのアクション監督・園村健介の監督3作目。高石あかりが殺し屋(三元雅芸)の幽霊に取り憑かれる大学生を演じています。取り憑かれることで殺し屋の力を発揮することができますが、体を鍛えているわけではないので、相手へのパンチのダメージは自分も負うことになります。
高石あかりはアクションを頑張ってますし、三元雅芸もキレのある格闘シーンを見せますが、もう少し物語に広がりが欲しいです。脚本は「ベビわる」監督の阪元裕吾。阪元監督は原作のある非アクションの「ネムルバカ」では物語を的確に演出していましたから、弱点はストーリー作りにあるのでしょう。アクションに理解のある脚本家とコンビを組みたいところです。園村監督作品としても前作「BAD CITY」(2022年)の方が面白かったです。
三元雅芸と同じ組織に属する殺し屋役・黒羽麻璃央はニヒルでアクション映画が似合いますね。高石あかりの友人役で夜ドラ「未来の私にブッかまされる!?」のブレーン役を好演した東野絢香が出ています。
IMDb7.1、ロッテントマト100%(アメリカでは映画祭で上映)。
▼観客11人(公開初日の午前)1時間45分。
パンフレットの表紙
リュ・スンワン監督による9年ぶりの続編。冒頭の賭博組織の摘発描写がモタモタしているので大丈夫かなと思って見ていましたが、その後は復調してまずまずのアクション映画になっていました。ストーリーは法律で裁かれない悪人を“黒い警察”が裁くという昔からあるパターン。この映画の場合、それを組織ではなく、単独犯が実行していますが、今を反映してこれにネットが乗っかります。
前作「ベテラン」(2015年)を見ていなくても話は通じますが、前作の重要な登場人物が裁かれる標的になるので、見ていた方が楽しめます。主役の刑事ソ・ドチョルを演じるのは前作と同じく名優ファン・ジョンミン。今年55歳になりますが、過激なアクションを披露しています。それ以上に新たに凶悪犯罪捜査班に加わった新人刑事パク・ソヌ(チョン・ヘイン)が中盤に見せる犯人とのチェイスシーンに見応えがあり、「ジョン・ウィック:コンセクエンス」(2023年、チャド・スタエルスキ監督)の階段落ちシーンを思わせました。
悪人を自分で裁く犯人は正義のためというより、連続殺人を楽しむサイコ気質があるようです。それを見抜けず正義の味方と勘違いするネットの浅薄さも皮肉っています。
IMDb6.3、ロッテントマト100%(アメリカでは限定公開)。
▼観客10人ぐらい(公開2日目の午後)1時間58分。
1973年製作のテレンス・マリック監督のデビュー作で、今年3月から全国で順次公開されています。過去に「地獄の逃避行」のタイトルでテレビ放映され、DVD・ブルーレイも同タイトルで発売済み(DVDは2005年発売、その前に1989年にVHSテープが出てます)。日本での劇場公開は今回が初めて。僕はWOWOWが2013年ごろに放映した際に録画してました。録画作品をチェックしているうちにたまたま見つけたので見ました。
1959年、サウスダコタ州の小さな町が舞台。15才のホリー(シシー・スペイセク)はある日、ゴミ収集作業員の青年キット(マーティン・シーン)と出会い、恋に落ちる。キットは交際を許さないホリーの父(ウォーレン・オーツ)を射殺してしまう。そこから、ふたりの逃避行が始まる。ツリーハウスで気ままに暮らし、大邸宅に押し入る。銃で次々と人を殺していくキットに、ホリーはただ付いていくだけだった。
1958年にネブラスカ州で実際に起きたチャールズ・スタークウェザーとキャリル・アン・フューゲートによる連続殺人事件(11人殺害)をモデルにしているそうです。この事件、かなり有名でこの映画のほか、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(1994年、オリバー・ストーン監督)をはじめ、事件を基にした映画やテレビドラマが多数作られています。
主人公はサイコキラーではなく、ドツボにはまってしまった無軌道な若者という感じです。1973年製作なのでアメリカン・ニューシネマの残り香があり、「バニシング・ポイント」(1971年、リチャード・C・サラフィアン監督)などとの共通性を感じました。スペイセクはこの後に出た「キャリー」(1976年、ブライアン・デ・パルマ監督)では不幸で不運な少女の代名詞みたいな役柄でしたが、この映画では十代の素朴な少女を好演しています。マーティン・シーンもフレッシュで良いです。
IMDb7.7、メタスコア94点、ロッテントマト97%。1時間34分。