2023/04/02(日)「少女は卒業しない」ほか(4月第1週のレビュー)

 「少女は卒業しない」は卒業式の前日と当日を舞台に、卒業する4人の女子高生の姿を叙情的に描いた作品。朝井リョウの原作は連作短編集で、収録された7編のうち、映画は4編を取り出し、シャッフルして再構成しています。取り出したのは「エンドロールが始まる」「寺田の足の甲はキャベツ」「四拍子をもう一度」「夜明けの中心」の4つ。この再構成が非常にうまくいっており、それぞれの物語の脚色も設定だけを借りて独自の展開にしたり、エピソードを付け加えたり、かなり考えてあります。

 中川駿監督はこれが商業長編映画デビュー作。その意気込みと努力が結実した脚本だと思います(映画のメイキングの中で主演の河合優実は監督に対して「上から目線になりますが、脚本がすごく上手で」と話していました)。

 この優れた脚本で映画の成功はほぼ決まったようなものですが、さらに中井友望、小野莉奈、小宮山莉渚、河合優実がそれぞれに好演しています。一昨年から絶好調の河合優実の初主演作と銘打っていますが、それほど比重が大きいわけではありません。「アルプススタンドのはしの方」から着実にステップアップしている小野莉奈は明るさが光り、リアル高校生の小宮山莉渚(「ヤクザと家族 The Family」)と、うれいを含んだ役柄の中井友望(「かそけきサンカヨウ」)も今後有望と思える演技を見せています。

 脚本で唯一疑問を感じたのは、河合優実のエピソードの中で重要な出来事の詳細が描かれず、事故なのかどうかが分からないこと。原作の最後に収録された「夜明けの中心」を読んで分かりましたが、ここを詳しく描くと、全体のバランスを崩すという判断なのかもしれません。

 中川監督は高校でのLGBT問題を描いた短編「カランコエの花」(2016年、今田美桜主演)で注目され、この映画の監督依頼につながったそうです。この2本を見ると、脚本の技術の高さとともに、登場人物の繊細な感情をすくい上げ、叙情的に撮るのが美点のように感じました。今後が期待されます。主題歌「夢でも」を歌っているのは宮崎在住のシンガーソングライターみゆな。2時間。
▼観客4人(公開4日目の午後)

「生きる LIVING」

 黒澤明監督の名作をカズオ・イシグロ脚本でリメイク。はっきり言って前半はオリジナルの勝ちで、赤ん坊を背負った菅井きんらのおばちゃんたちが市役所の各課をたらい回しにされるシーンは3人の上品なレディーに置き換えられ、笑いが減じています。1952年の東京を1953年のロンドンに移し替えただけの映画のように見えますし(同じ時代でもロンドンは随分洗練されているなあとは思います)、医師から癌を宣告された(オリジナルでは察知した)主人公(志村喬、ビル・ナイ)が絶望し、貯金を下ろして歓楽街をさまようシーンや役所の部下だった若い女性(小田切みき、エイミー・ルー・ウッド)に執着する場面などはオリジナルと同様の展開になっています。

 違うのは主人公が再生を決意するシーン。志村喬は間もなく死ぬ自分に比べて、小田切みきの生き生きとした生命の輝きに引かれるわけですが、今はおもちゃ工場に勤める彼女から「こんなものでも作っていると楽しいわよ」とぴょんぴょん跳ねるうさぎのおもちゃを見せられ、「課長さんも何か作ってみれば」と言われます。そこで主人公はおばちゃんたちから陳情があった公園をつくることを思いつくわけです。

 今回のビル・ナイは自分に付けられた「ゾンビ」というあだ名(オリジナルでは「ミイラ」)についてエイミー・ルー・ウッドに話しているうちに、「公園で元気に遊び回っている子供たちは母親が迎えに来るのを待っていたりなんかしない」と気づき、生き生きと生きることと公園が結びついてきます。

 ここは本当に感動的な良いシーンでビル・ナイがアカデミー主演男優賞候補となったのもここでの演技が大きかったのではないかと思いました。

 カズオ・イシグロはかなりの映画ファンでこの映画の企画も自ら発案したそうです。監督は南アフリカ出身のオリヴァー・ハーマナス。1時間43分。
IMDb7.3、メタスコア81点、ロッテントマト96%。
▼観客6人(公開初日の午前)

「ベネデッタ」

 17世紀のイタリア、同性愛で告発された実在の修道女ベネデッタ・カルリーニを描くポール・ヴァーホーベン監督作品。日本ではR18+ですが、アメリカではR15+。「セクシャル・サスペンス」なので、それなりのシーンはあるものの、成人映画にするほどではなく、日本のレーティングは厳しすぎる気がします。

 物語の基になったのはジュディス・C・ブラウンの著書「ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア」(ミネルヴァ書房、絶版)。ヴァーホーベン監督は原作にはない暴動シーンをラストに加えて、「宗教、セクシュアリティー、教会の政治的駆け引きを見事なバランスで」(パンフレットより)描いています。

 ヴァーホーベンは今年85歳。若い頃の作品ほどエネルギッシュではありませんが、それでも年齢を感じさせない仕上がりでした。主役のベネデッタを演じるのはベルギー出身のヴィルジニー・エフィラ、相手役のダフネ・パタキアもベルギー出身だそうです。2時間11分。

 ベネデッタに取って代わられる修道院長役でシャーロット・ランプリングが出演しています。ランプリングと言えば、U-NEXTで「愛の嵐」(1974年、リリアナ・カヴァーニ監督)の配信が3月31日までとなっていたので、急ぎ見ました。まともに見たことがなかったんです。映画はキネマ旬報ベストテン2位にランクされ、公開当時は高い評価でしたが、今の評価を見ると、KINENOTEで70.7点、Filmarks3.6点と普通。海外ではIMDb6.6、ロッテントマト67%と全然良くありません。日本で評価が高かったのはにっかつロマンポルノにありそうなシチュエーションであることも影響したのかなと思いました。僕は面白く見ました。
IMDb6.7、メタスコア73点、ロッテントマト84%。
▼観客3人(公開5日目の午後)

「コンパートメントNo.6」

 カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。ロシアで寝台列車の個室(6番コンパートメント)に男女が乗り合わせる。女(セイディ・ハーラ)はフィンランド人の留学生で、男(ユーリー・ボリソフ)は丸坊主の粗野な労働者。女からしたら外見を見ただけで近づかないようなタイプの男で、実際にセクハラまがいの行為を受けるが、強制的に同じ個室で過ごすことで徐々に距離を縮めていく、という話。

 なんてことはない展開ですが、微妙に面白いです。カセットテープが出てきたり、古い型のビデオカメラが出てくるのでいつの話だと思ったら、1990年代が舞台とのこと。この時代に設定した理由は何かあるんですかね? ユホ・クオスマネン監督、1時間47分。
IMDb7.2、メタスコア80点、ロッテントマト93%。
▼観客6人(公開14日目の午後)